別に、万人に好かれたいとは最初から思っていない。

―― Ein Lacheln ging uber ihr Gesicht.

「……っ、」
「あ……悪かったわ、ちょっと言い過ぎ、」
「マリア! 正論言うにも言い方ってものがあるだろう!?」
「だからソフィアには謝ったじゃない! 横から口はさまないでちょうだいフェイト!!」
いつものようにぎゃいぎゃい言っているのをぼんやり眺めていたら。そんな、いかにも売り言葉に買い言葉の阿呆なやり取りがあって。
眺めているうちに阿呆な三人組のうち、青髪が一人離れて行って。
町中なら放っておくものの惜しいことに現在一行は冒険中、そんなに苦戦することのない敵ばかりとはいえ一人はぐれて何かがある可能性もあるし、そうすると非常にあとを引くことが目に見えていたので。
彼はしぶしぶ重い腰を上げた。
目に見える範囲に金髪コンビがいないのが、先ほどまでは気楽で良いとか思っていたくせに、今この瞬間はひどく惜しまれた。むしろ腹が立つ。

◇◆◇◆◇◆

「……おい」
「――あと五分待ってちょうだい」
実はかっとしやすい性質ながら、理性の強さは多分パーティ随一の頭の回る女は、彼の親切を踏みにじるようにすぐ近くにいた。すぐ近くの木陰にいた。
膝を抱えていた。
――普段の態度からはまるでミスマッチなくせに、変にはまっていて笑える。
とりあえず今つついてもろくなことにならないことは過去の事例から経験ずみなので。その木の反対側、適当にもたれかかって腕など組んでみて。
アルベルはぼーっと空を見上げてみる。
風にそよぐ木の葉がかすかにざわめいて、遠く近く聞こえるのは何の鳥だろうか。多少離れたので、今度は筋肉ダルマを加えつついまだにぎゃいぎゃいやっている声もそんなに耳障りではない。
静かで、平和だ。
「……阿呆」
こんなことでいちいち真面目に落ち込むなんて。
普段がどうあれこいつは年下なんだな、と。そういえばかつて悩んだ経験持ちのアルベルがぼそりとつぶやけば。
「うるさいわね分かってるわよ」
蚊の鳴く声が瞬時にふてくされる。

◇◆◇◆◇◆

その時の話題が何だったか、なんてもう覚えていない。ただ、いつもどおりの夢見がちな甘い言葉を、いつもどおりの辛辣な言葉で両断した、ただそれだけだ。
いちいち傷付いた顔をされるのも、いきなり首を突っ込まれて批難されるのもどっちもごめんだけれど。それを呼んだ自分の言動に問題があることくらい、マリアにも分かっている。
分かって、いるのだ。
きついもの言いも、それによって不必要に敵――は増えないかもしれないけれど、「味方」を減らしている、減らしかけていることも。分かっているのに口は動いて、怒らせて、もしくは哀しませて。
「阿呆」な自分を、きっとマリアが一番よく分かっている。
分かっているから際限なく落ち込んで、なかなか浮上できない。

……ところで、なぜアルベルはここにいるのだろう。
マリアがしゃがみこんでいる木の反対側。それほど太い木ではないから、一見隠れているようでいて実際は長い髪とひらひらと服の裾とが見えている。普段の、刺すようなえぐるようなとげとげしい雰囲気は今はなぜかやわらいで、そう思った瞬間耳の奥でざわめいて自分を罵る言葉が消えた。
マリアは目を瞬く。

◇◆◇◆◇◆

「さっきのアレ、悪いのは?」
「こ、言葉がきつくなった私」
「謝るやつは?」
「私が、ソフィアに。……あと、女の会話盗み聞きしていたフェイト」
ぱらぱらと降って来る声。声に出してまとめてみれば、頭全体にごちゃごちゃになっていた罪悪感その他が少しずつ整理されていく。
「――目つきのきつさとか、言葉のきつさとか。ひょっとして同じ悩み持っているだとか?」
「阿呆」
ため息。
「んな時期とっくに抜け出した。
つかな、好かれたい人間なんて早々いねえだろ」
――てめえのことだから、元からそういう風に考えると思ってたぜ俺は。
――「今」でなくても、マリアの疑問をうっかり肯定したアルベルが、わざとあのかうっかりなのかが判別できないあたりが。
マリアの心を軽くする。

◇◆◇◆◇◆

別に、万人に好かれたいとは最初から思っていない。
大切な人にだけ好かれるのなら、それで十分以上だ。

それも、考え方のひとつだと。
硬質の美貌が緩んで、
――彼女の顔がほころんだ。

―― End ――
2005/08/23UP
アルベル×マリア
OFP
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Ein Lacheln ging uber ihr Gesicht.
[最終修正 - 2024/06/21-10:40]