「……あ、そうだ」
それは本当に、何の気負いもなくただの思い付きのように。
その日、一行は工房にこもっていた。パーティリーダーが何か目当ての品でもあるらしく、それを作り出すため、彼の特性の一つ「頑固」さを発動しててこでも動かなかったので。他のメンバーはそれにつられたようなものだった。
力自慢の某クラウストロな彼でもどうにもならなかったあたり、すごいかもしれない。
まあともあれ。
アルベルは工房の片隅でやる気なく薬草をつぶしていて、マリアがそのすぐ脇で試験管に入った色とりどりの液体を光にすかして眺めていて。他にメンバーがいなくて、スキルも大したことないし何よりやる気がなければできるものもできなくて。
「……あ、軍資金が底をついたわ」
さらっとそんなつぶやき。
「そうか」
どこまでもどうでもよさそうな返答。
見事に同じタイミングでふたりが顔を上げて、同じように視線を向けた先。言いだしっぺのパーティリーダーが今度は何を作ったのか筋肉ダルマをいっそ半泣きで吊るし上げている。他のメンバーは自分の作業に熱中しているつもりの見て見ぬフリで、アルベルとマリアもそれに習ってその光景を見なかったことにして、
「どうしようかしら。他のラインに混ざる?」
「……やる気ねえよ……合成するにも材料ねえし、最近鎧作っても同じのしかできねえし」
どこまでもふぬけた会話の間中、アルベルの手元にはこれが何かの薬になるとは到底思えない、元はそれなりの薬草、を、いい加減に叩き潰した物体。ごるごるごる、死んだ魚のような目をするアルベルの手は、とりあえず止まらない。何かをすり鉢ですりつぶしているっぽい音は止まらない。
試験管をいじるマリアの手も、そういえば止まらない。
無言。
……やがてマリアがため息を吐く。
「大体、フェイトがクリエイションしたいからって私たちまで付き合う必要なんかないじゃない。馬鹿げてるわ。
このままここにいても時間の浪費にしかならないわよね」
同意を求めたのに、帰ってきたのは沈黙で。眉を寄せたマリアが見下ろせば、手だけは途切れ途切れに動きながらうつらうつらと舟をこいでいる漆黒団長。
本気ですべてがどうでもよくなって、マリアはゆっくり立ち上がった。その動きにか気配の揺らぎか何かにか、眠そうに目をしょぼしょぼさせながらアルベルが起きて覚醒する。
手に持ったままの試験管を、とりあえずできたとフェイトに渡そうと。
そんなことを思うマリアの脳が不意にまるきり関係ないことをはじき出して。
「……あ、そうだ」
それは本当に、何の気負いもなくただの思い付きのように。小さく上げた声にアルベルが首をかしげる。マリアはそんなアルベルに笑いかける。
外見はともかくなんだか性格が似ていて。好みも物事の判断基準も何となく似ていて。
似ている、と思った瞬間から目が離せなくなった。
可能な限りそばにいたいと思った、それが苦痛ではない彼に、
「忘れてたわ、言おうと思ってたの」
「……何が」
半分眠ったままの深紅の瞳。眠そうではあるものの、どこまでもまっすぐな、マリアが世界で一番きれいだと思う色。
「私、あなたが好きみたい」
言うだけ言って一人満足して、あとのことはまるで考えずに席を外したマリアを、呆然としたままアルベルは見送って。遠ざかる細い背中に、のばした手は届かなくて。
彼の脳裏に、何気なく言われた、たった今言われた言葉がずっとリフレインしていて。
――どんな種類の「好き」なんだ、とか。
――俺の反応は眼中にねえのか、とか。
――普通はもっと、いかにも重大そうに深刻ぶるんじゃねえのかとか。
そんなことがとりとめなく脳裏を流れていって。
調合っぽい真似事をするアルベルの手が止まっていた。深々とため息が漏れていた。
――マリアからそう告白されれば、彼の答えは決まっていて。
けれどそれを言葉にする隙を与えないマリアが。
なんだか、
やるせない。
