「ハンター」と呼ばれる者たちがいる。あるいは、宗教的意味合いの「教会」に対して、「協会」のメンバーとも。
一般に鳥獣を狩る人間たちがそう呼ばれることはなく、ただ「ハンター」といえばそれは「モンスターを狩る者たち」の意味で広く世に浸透していた。
そう、この世界には人間以外の、人間を超えた能力を持つ種族がごまんといる。
人間がたとえば牛を食べるように、人間を喰らう者たちが。
――いる。

―― Eine grau Stadt

ゆるく吹き抜ける風にさえ足を取られるように。ひどく頼りなく、緩慢に近づいてくるものを彼女の翠の目は静かに映していた。聞き取れないくらいの小さな声で何かをつぶやいて、静かな顔のまま右手に下げていた銃を無造作に構えると、撃つ。
轟音と、そして火薬の焼ける独特のにおい。
けれど間近を通り抜けたそれに怯むことなく、やはりどこまでもゆっくりと近づいてくる姿に、
「……やっぱり、無駄なのよこのテの下等アンデッドに警告なんて」
彼女は――マリアはぼそりと、今度はその場にいたなら聞こえる程度の声でぼやいた。
そして両手で銃をかまえなおすと躊躇なく、絞るように引鉄を、
――またひとつ轟音が響いて。
いや、ひとつどころではなく。立て続けに銃声が上がる。

◇◆◇◆◇◆

「ああ、マリエッタ? そう、今片付いたところ。……早い? ありがとう、探す間もなく向こうが来てくれたからよ。
資料どおりアンデッドだったわ。ゾンビが四、スケルトンが一。こちらの被害はゼロ、初弾は威嚇に使って――消費弾数は六。……やめてよ、無駄弾使うほどの相手じゃなかっただけ。まったく、こんなやっつけ仕事別に私じゃなくても……」

摩天楼の合間に、まるで忘れ去られたようにひっそりと開けた空間があった。材質や色形様々な、大体において石でできたそれが行儀よく整然と建ち並ぶそこ。
――共同墓地。
それなりの広さがある墓地にけれど街灯はまだらで、都会ともなると月や星やらの光もあてにできなくて。ただでさえ墓地ともなれば暗く淀んだ印象が強いのに、さらに明かりが足りないとなるときっと大の男でも多少は怯むだろうそこに。
涼やかな、若い娘の声が凛と響いていた。

「――で、威嚇弾水平に撃ったから、さすがにこんな暗い中じゃそれ探せないのよ。空薬莢もあと二つ行方不明だし。あいつら何も考えずにまっすぐ向かってくるから、たぶん墓石もいくつか倒れているし。そもそも腐った肉よ? 変な跡とか付いているかもしれないわ。
だから、処理部の人こっちに回してほしいの。
あと、手が空いていたらで良いけど調査部の人もお願い。ついでに「協会」内の行方不明者リストも可能なら」

通信機に向かって世間話と事務報告を一緒くたに続けながら、マリアは手馴れた操作で銃のマガジンを新しいものに取りかえる。
そんな彼女に、夜の墓地に怯んでいる様子はまるで見えない。
そもそも、少しでもそういう気持ちがあったなら、いくら手近とはいえ誰のものかも分からない墓石を椅子がわりに、くつろいだりしないだろう。別に死者を悼む気持ちがないわけではないけれど、それはそれこれはこれと彼女なら言い切る。
良しにつけ悪しにつけ、彼女はそういう性格とドライな価値観を持っている。

◇◆◇◆◇◆

「……部外秘だなんて分かっているわよ。誰かにプリントアウトしたもの持って来させて。覚えたら、その人の目の前でしっかり燃やすわ。
え? ああ……土とかで汚れていたし、何より暗かったから断言はできなかったけど。どうも「協会」の制服に見えたの。……? そう、そう。仕方ないじゃない、元が死んでいるから動かなくなるまでの加減なんか無理。それでも一応顔は見たから、照合したいのよ。
……ほら、さっき喧嘩したばかりでしょう? 今そっちに戻りたくなくて」

さらりと髪を泳がせて、大袈裟に肩をすくめる。通信の向こうに見えていないのは分かっていたけれど。
多少の文句でも吐き出さないことには、やっていられなかった。
――知識があっても覚悟があっても、そういう存在だと知っていても。
怯えているわけではない、けれど死体が動くのは、それがしかも腐っていたりするのは見ていて気持ちの良いものではない。肉が全部腐り落ちた骨だけならその点まだマシだけれど、関節部分がかたかたいう音は、やはり聞いていて気持ちの良いものではない。
そんな気持ちを分かっているから、呼吸を読んで絶妙に相槌を打つマリエッタのやさしい声が、今のマリアには心地良い。

「無理言うつもりはないわよ。あくまで可能だったら、の話。中途半端に引っかかっているのが嫌だから早めに確認したいってだけ。
ええ、……うん。
けど、「協会」内から被害っていうとやっぱり気分悪いわね。外れていることを祈るわ」

◇◆◇◆◇◆

たとえ今、こうして通信中の彼女に襲い掛かる者がいたとして、けれどきっと返り討ちに遭うのがオチだろう。マガジンの交換はとうに終わっている。たとえ交換中だったとしても、彼女の得物は銃がたったの一丁だけではない。
何より、
――マリアはハンターだった。
そこがどこだろうと、簡単に気を抜くようではこの職業は勤まらない。

◇◆◇◆◇◆

そしてそのまましばらく雑談が続いて。
「――ああ、来たみたい。
悪かったわね、付き合わせちゃって。今度何かおごるから仕事……うん、そっちもがんばって。
……じゃあ」
ぴ、と通信を切ってどこへともなく通信機をしまい込んで。
そしてマリアは近づいてくる人影に小さく手を振った。
とたんに小走りになる人影に、ふっと呆れまじりに口元を緩める。

―― End ――
2005/11/05UP
Die silbern Kugel / アルベル×マリア
OFP
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Eine grau Stadt
[最終修正 - 2024/06/21-10:59]