そして「ハンター」になるのに厳密な資格はいらない。寿命そのものを持たないモンスターに敵対すれば、それを滅ぼすだけの実力さえ持ったなら、それはすべて「ハンター」と呼ばれる。
たとえ「ハンター」が人間でなくても。かまわない、それだけの相手に敵対して生き残ることができるなら。
だからむしろ、脆弱な肉体しか持たない人間種よりも。
少なくとも現在「協会」に所属しているものは、純粋人間種よりもどこかしらでモンスターの血を継いでいる者の方が、圧倒的に多い。
「おつかれさま――て、ああ、キミたちが来てくれたのね。マリエッタからどこまで聞いてるのかしら。
とりあえず墓石の整備と、威嚇に使った銃弾と空薬莢二個探すのと。……余裕があるならここ周辺の掃除ね。お願いするわ」
暗がりから現れた彼らを、よく「協会」の人間だと見分けられるものだ、と思う。彼女は、――マリアは。人間なのに。「協会」内、実働部の中で今現在片手ほどしかいない純粋な人間でしかないのに。
にこやかに話しかけられて、にこやかながらどこかに一歩引いたような冴え冴えした笑顔を向けられて。彼は――リーベルは思わず照れ笑いを返しながら、そんなことを思う。
闇夜に映える白い服。事務部の制服と何となく似た印象を抱く、けれど実働部に「制服」なんてないからつまりは彼女ひとりだけに作られたのも同然の白い戦闘服。鮮やかなほど青い髪はさやさやと夜風に揺れて、それに包まれた小さな顔は人形めいて見えるほど、きれいにきれいに整っていて。
何よりその細い、細すぎる肢体。今彼が力いっぱい抱きしめたなら、きっとあっけなく折れそうな華奢な身体。
そんな彼女は彼の目にどこまでも潔麗で、触れることさえ畏れ多いほどに大切でいとおしい。
「……リーベル?」
「ほら、とっとと仕事するぞ。呆けてる暇なんかないんだから」
「て……いってえっておいスティング! んな耳引っ張んな、もげる……!!」
微笑むマリアに魅入っていた彼は、現実的な痛みに我に返った。というか、そうしている間にもぐいぐい引っ張られて、愛しのマリアの姿がどんどん遠くなる。それがなんだかやるせない。
「……マ、」
「文句あるなら仕事こなしてからにしろこの馬鹿」
「せ、正論盾に脅すなよ……!」
「墓石の整備と空薬莢探すのと、どっちが良い?」
「……空薬莢」
「了解、がんばれよ。ゾンビのにおいに鼻やられんなよ」
「!!」
あ、と思ったときには遅かった。しかも風の向きからやりとりはきっとマリアに聞こえていて、今から前言を撤回するのは格好悪いと思った。
ので、彼は泣く泣くその場にしゃがみこむ。
墓穴ばかり掘っている自分を、呪い殺したいと本気で思う。
予想以上にあっさり仕事を割り振って、リーベルがしゃがみこんだ。とたんにざわりとマリアの肌があわ立って、リーベルの身体がなんだか一回り大きくなる。向こうの倒れた墓石に向かったスティングも同じように。
彼らふたりは兄弟で、――そして、人間ではなく狼男だった。
ハーフなのかクォーターなのか、それ以上に血が薄いのか複雑に血が絡み合っているのか。マリアは知らないけれど、純粋ではないために月の満ち欠けの影響が薄いらしい。そして、ある程度自由に変身を制御できるらしい。そうして変身することで、彼ら種族特有の能力も強化されるらしい。
そんな彼らの得意は、鼻と怪力。ゾンビのうろついた空間内に連れてくるには気の毒だけれど、こういった仕事には向いている。
腐った肉のにおいに雰囲気さえ辟易しながら、そうしてマリアが見ている間にもリーベルがさっそく空薬莢をひとつ探し当てて。向こうでスティングが墓石をひとつ軽々動かしたのが、闇の向こうに見えた気がする。
「……マリア、ほら、言ってた秘密書類」
やって来た「協会」のメンバーは三人、処理部のリーベルとスティング、そして。
「ランカー、ありがとう。……何かある?」
歳若い三人がどたばたしている間にざっと周囲を見て回ったらしい、無精ひげの男に書類を繰りながら訊ねる。調査部のランカーは何を言おうか少しだけまごついたようで、
――さすがはマリエッタ、ほとんどなかった時間でめぼしい場所にマーカーサインまで入れてくれた。
そのマーカーのうちひとつを太い指が指して、マリアはざっとそこに目を通す。
「事務の行方不明で、あやしいのはここらへんだな。……で、ついでに犯人らしいのにまで心当たりがあった」
「――なによそれ。不祥事もいいとこじゃない」
「まったくだ。……そのうちハンターも免許制にするかな。今度進言しとくわ」
名前には覚えがなかった。リストアップされているうち、マーカーサインがされていたもののうち、ランカーの指したもの……ぱらぱらと書類をめくって、マリアはひとつうなずいた。
行方不明から二週間――ぎりぎり顔が判別できる。顔写真とマリアの記憶が一致する。
「ビンゴ、頭が痛いわね。彼女よ。
……で、犯人の心当たりは?」
「こっちだ。――さらには招待状まであったぜ。多分一緒に埋まってて、ゾンビだけが土から出てきたんだろうなあ」
「雨が降らなくて良かった、と言うべきかしら?」
「どうだかな。インク流れてた方がよっぽど良かったかもな」
ちゃらちゃらと、拾った威嚇弾と空薬莢を放り投げては受け取るリーベルと。とりあえずは見える限り墓石戻しといたぜ、とこともなく言ってのけるスティングと。やれやれとばかりに大きく肩をすくめるランカーと。
そして厳しい顔をしたマリアが、ランカーの手から土と……それ以外の原因を考えたくない、汚れきった封筒を受けとった。ぞろぞろ街灯の下まで移動して、白い手が封を切る。
――そして書かれていた内容に、マリアの目が怒りで揺らいだ。
