ガラではない、そんなこと知っている。
けれど知っていても、無骨な彼の目に、彼女はなんて美しく映るのだろう。

―― Gemutsbewegung

そこにはごくごく薄く、もやが立ちこめていて。薄いというよりは淡いベールの向こうには、色とりどりの花がひっそりと咲き誇っていて。たとえばぴんと空気の張りつめた早朝そこに立ったなら、無骨な彼でも素直に「美しい」と思うこともできたかもしれない。
今は――主にきゃあきゃあと栗色の髪のが騒いでいるために、そんな空気もだいなしだけれど。

重く深く息を吐いて、アルベルは花畑に背を向けた。
……まったく、阿呆らしい。
――声に出すとあとが面倒なため、何も言ったりはしないけれど。

「――アルベル? 暇そうね」
「花なんざどうでもいいだろうが……暇つぶししようにも、ここいらに出るモンスターどもはよわっちくて話にならねえ……」
「まったくね。……フェイトも、別にパーティでぞろぞろ連れてこなくてもすんだでしょうに」
さくり、小さな足音と共にやってきたマリアがひょいと肩をすくめた。気配で誰かなんて分かっていたけれど一応ちらりと目で確認して、ならってアルベルも大げさに肩をすくめる。

◇◆◇◆◇◆

先日、確か宿だかそこいらへんでパーティの女どもがあれこれ盛り上がっていた。聞くとはなしに聞こえてきた会話の中に、エレノアだとかパルミラだとかが確かに混じっていた。まあそのときから薄々想像はついていたものの。
まさか、数日後に本気で「たかが花探し」にこんな寄り道を許すだなんて。

◇◆◇◆◇◆

「ソフィアの性格からして、食い付くのなんて目に見えていたのに。ネルもねえ、懇切丁寧に説明しなくても」
多分彼と同じようにいやいや引きずられてきたのだろう、やっと逃げ出せた、やれやれ、などとぼやくマリアの細い手が持つものをふと見とがめて、アルベルがむっと眉を寄せる。
「……とか言いつつ、それは何だ」
「なにって……単なる花冠」
「花が違うんじゃねえのか、阿呆」
「よく知っているわねー。
けど、私は別にこれに祈るつもりなんてないもの。祈るつもりもないのに千本花用の花なんてつんだら、数が減るって怖いじゃないソフィアあたりが。ひょっとしたらネルも」
「こわい……? お前がか」
「あら、失礼ね」
白い肌に青い髪に映える、輪の形に編み上げられた華やかな花たち。現実ばかりを見て冷酷な台詞ばかりを吐いて、そんなマリアを知っているからこそ多少の違和感を覚えるものの、ただ単に見た目だけをいうならばそれは彼女にとてもふさわしいかもしれない。
思ったところで、アルベルには決してそんなこと、口に出すことのできるはずもないけれど。
その手にしたものを、細い手が編み上げる姿も。あるいは、それが冠のかたちをしているならば。たとえば頭に載せてみれば、髪の青にそれは映えるのではないか。

思ったから、ぼうっとたたずむマリアのその手から、件の花冠をさらってみた。多分そんな彼に驚いた彼女の頭にふわりと落ち着けて、
……ああ、やはり。
「……アルベル?」
「「冠」なんだ、そういうもんだろ」
ガラではない、そんなこと知っている。
けれど知っていても、無骨な彼の目に、彼女はなんて美しく映るのだろう。うすもやの建ちこめる花畑、やけに音の遠いその世界に、美貌の女神として彼女がたたずめば。それはなんて完璧な景色だろう。

くつくつと機嫌よく喉を鳴らすアルベルを、まじまじ見つめていたマリアの頬がなぜか不意にぱっと染まった。彼女には珍しいことに目に見えてうろたえて、ふとその目線を足元に落として、
「バカね……」
ぽつりとつぶやくような悪態さえ、いつもの彼女らしくなく、けれどマリアによく似合う。

◇◆◇◆◇◆

何の役にも立たない、「たかが花探し」のこんな寄り道。
けれど花冠の映える美貌のマリアが、こうして恥らう姿を目にできるのなら。それは必ずしも「何の役にも立たない」ではないのかもしれないと。
思って、アルベルの頬はまだしばらくゆるんでいそうだった。

笑われることにすねたマリアが、いただいたその花冠を彼の頭にぽふりと載せ返すまでは。

―― End ――
2007/04/02UP
アルベル×マリア
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
Gemutsbewegung
[最終修正 - 2024/06/21-11:03]