紅と紫が絡み合って、
一瞬――もしくは数秒絡み合って。
その二つは同じ温度をしていた。
二人は同じ目をしていた。

―― Unsere Blicke trafen sich.

その日一行はいつもの通り戦闘をしていた。山道、というか片方は見上げるような絶壁、反対がわは底の見えない谷。それなりに道幅はあるものの、どう贔屓目に見ても「戦いやすい場所」ではないそこで。
しかし、一度でも接敵したなら戦わない理由はない。
特に、最近パーティに入ったばかりの血の気の多すぎる某国某団長などには。

「……ああもう、狭くて戦いづらい……っ」
ネルが、彼女には珍しく愚痴を吐いた。
数日前にパーティに入った、つい最近まで敵対していた国の、特に目の敵にしていた男を気にしすぎて疲れていたのだろう。場所が場所なのでいつものようには景気よく飛んだり跳ねたりできないのもあるのか、これも珍しくだいぶ返り血を浴びている。
そして、その血にまぎれるように彼女の身体にもいくつか傷が走っていて血がにじんでいて。
疲労で注意力と状況分析力が低下していたのが致命的だった。
自分よりも他者を優先させる優しい性格がさらに拍車をかけた。
でっかいハリネズミを短刀で斬り捨てて、突っ込んできたちっこいドラゴンを避けるために跳躍して。
「っ、あ……!?」
その足が降り立った先は、本当に崖ぎりぎりの位置で。
「――――!!」
傷が痛んだ、出血で頭が朦朧とした。
ネルの足元、降り立ったあたりの風雨にさらされ続けた地面は完全には衝撃を吸収できなくて。
崩れた。

◇◆◇◆◇◆

また一匹敵をほふって、引きつれた独特の笑い声をあげて。新たな敵、獲物めがけて突撃しようとして。
そんなアルベルの目の端に、なんだか動いた赤と黒。
「……?」
なぜそれが気になったのか分からない、なぜわざわざ見て確認しようとしたのか分からない。分からないけれど、「何か」が気になってアルベルはそちらに顔を向けて。
口うるさい赤毛の女隠密が、首元の布をなびかせて着地したところで。
「――っ、ぁ、」
一瞬顔をゆがめたのが、どこか雰囲気がゆるんだのが見えて。
なぜそうしようと思ったのか、やはり分からないけれど。
「……、の、阿呆……!!」
毒づいたアルベルが、ネルの方に走っていった。
その目の前でネルの着地したあたりが崩れていって。
彼は息を止める。

◇◆◇◆◇◆

崖から落ちかけたネルと、そのネルに向かって全力疾走のアルベル。
紅と紫が絡み合って、
一瞬――もしくは数秒絡み合って。
その二つは同じ温度をしていた。
二人は同じ目をしていた。
――助けを求める、救いを求める目を。
理由は違うのに、その時二人は同じ目をしていた。

◇◆◇◆◇◆

落ちていくネルは、動揺と体調不良とで他のことができずに、ただ腕をいっぱいに伸ばしていた。なんだか怯えた目をしたアルベルに、純粋に助けを求めていた。
そんなネルに手を差し伸べたアルベルは。
どうしてそちらを見たのかもネルが気になって仕方がないのかも走り出した理由もこうして手を差し出した理由も何も見えなくて。
ただ、いっぱいに伸ばした自分の腕、金属で覆われた自分の腕、感覚の遠い左手にぞっとする。右手はいまだ刀を握ったままで、それを投げ捨てるわけにもいかないから、だから左腕の理由は分かるけれど。
この手で、この鉄爪で触れてしまえば、ネルが壊れてしまう。怪我をしてしまう、脆い身体は薄い皮膚は彼の鉄爪にかなうはずがない。

助けたいのに助けるわけにはいかない、けれどやはり助けたくてどうすればいいのか分からない。
ネルを助けたいのに、鉄爪で触れるわけにはいかない。
――彼女に、怪我を負わせたくない。

◇◆◇◆◇◆

差し出した自分の腕に、なんだか――無表情の癖にどこか泣き出す寸前の子供のような気配を感じ取って。その目の理由も動きが凍り付いた理由も。
すべてが分かって。
ネルの腕がのびた、ぎりぎりでアルベルの手にすがりついて、なんとか崖から転落は免れた。
――怪我をするわけにはいかないと思ったのだ、ましてや死ぬのは。
身軽な、隠密の自分を最大限利用して。アルベルの鉄爪をまるで抱え込むような格好で転落を阻止する。
――これで、どうだい?
挑みかかるようににっと笑ってみせる。
アルベルの硬直が、瞬間、解けて、

その日一行はいつもの通り戦闘をしていた。山道、というか片方は見上げるような絶壁、反対がわは底の見えない谷。それなりに道幅はあるものの、どう贔屓目に見ても「戦いやすい場所」ではないそこで。
――アルベルがパーティに入って間もないころの、たとえばそんな懐かしい話。

―― End ――
2005/08/24UP
アルベル×ネル
OFP
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Unsere Blicke trafen sich.
[最終修正 - 2024/06/21-11:16]