この娘は、なぜこうも。
……無邪気に笑いかけることができるのだろう。
――アルベルさん、朝ですよ! もうみんな起きています、ほら、アルベルさんも起きて起きて!!
眠りから醒める時に聞く、あの甘い声。
――アルベルさんは、何が好きですか? 何か食べたいものがありますか??
買い出しに、荷物持ちに不承不承くっついて行くときに聞く、あの弾んだような声。
――アルベルさん、ダメですよ、怪我癒しますから隠さないでください……!
戦闘が終わった時に確実といっていいほど聞く、あのすねたような声。
――アルベルさんごめんなさい、わたし、何の役にも立てなくて……。
そのあとに続く、本当は聞きたくないのに聞いてしまう、あの泣きそうな声。
――アルベルさん、
――アルベルさん、
――アルベルさん、
何度もくり返し話しかけてくる、飽きもせずに話しかけてくる。無骨な彼が触れれば、その瞬間壊れてしまいそうな。そのくせどうしようもなくいとおしくて、思わず抱きしめたくなるような、それを許してくれそうな。
そんな娘がいる。
いつしか、誰よりも、ひょっとしたら自分よりも大切に思ってしまうような。知らない間に心の居場所をごっそり持っていったような。
そんな、娘がいる。
「アルベルさん、起きてください」
そして今日も、最初はささやくような声が降ってきて。聞こえないふりをしていればもう二回ほど同じ言葉がくり返されて、
やはり聞こえないふりをしていれば、小さな手が伸びてきて。
「アルベルさんてば! 起きてくださいよ、ごはん、冷めちゃう……!!」
――ああ、それはもったいないなと思う。
――ただでさえこんな無駄な時間を割かせているのに、
――その彼女の手料理を、あたたかいうちに食べてやれないのはもったいないと思う。
――そんなことを思う自分は、もう瀕死だと思う。
思うことで意識が確実に浮上して、眉が寄って。ゆっくり目を開ければ、ずっと続いていた声がぴたっと止まって。ずっと聞いていたいと思った声が止まったのはなんだか悔しかったけれど。
まっすぐに、かなりの至近距離で彼女が笑いかけてきて。
この娘は、なぜこうも。
……無邪気に笑いかけることができるのだろう。
血のにおいのする自分、乱雑な言動しかできない自分、むしろ他者を怒らせるしかできない自分に。そんな自分に、なぜこの娘はこうもまっすぐな笑顔を向けてくるのだろう。
「おはようございます、朝ですよ?」
「……ああ……」
寝起きの頭のまま、ぼーっとしているアルベルに。彼女はやはりやわらかく微笑みかけてきて、
「ごはん冷めないうちに、来てくださいね」
揺り起こすためだろう、そういえば触れていた二の腕あたりの指にきゅっと力が入った。かすかに震えたアルベルに、なんだか一気に頬を染めて。
彼女はぱたぱた去っていって。
――この距離を、縮めてもいいのだろうか。
――手の届くほど近くにいるからと、それに甘えて引き寄せてしまっていいのだろうか。
心は、見えないからこそ厄介で。
アルベルはただ、大きく息を吐く。
