それだけの能力がありながら、
なぜ、

―― Totes Kapital

多分精神攻撃でも喰らったのだと思う。背後に衝撃を受けて、直後アルベルは脚の下ではなく前面からかかる重力に目を瞬いていた。
地面にうつぶせに倒れている。その倒れている最中の意識が飛んでいるために、いきなり重力の向きが変わったと思った。――そう把握するまでに数瞬かかって、戦闘時のそれは命取りになるのに十分すぎるほどで。
「……が、ァ……っ!!」
踏み付けられたのか殴りつけられたのか、それさえも分からない重い何かが背中に生まれた。脊髄に痛みというよりも衝撃の信号が走って、ごっそり気力が奪われた。
――次、同じ攻撃を喰らったら……!
思っても身体の感覚がすでにない。無表情なのか薄ら笑いを浮かべているのか、この状況では相手の表情さえ読めない。
見えないけれど多分無様にもがくアルベルの耳に、たぶん振り下ろされる何かが風を切る音が聞こえた。
それでも身体はやはり動かずに、どうにもできずにただ歯を食いしばった。
瞬間、

光、が。

◇◆◇◆◇◆

「……お前、あんな術いつ覚えた」
「え? 術、ですか……??」
きょとんと首をかしげたのは、彼の――パーティメンバー全員の命を救った術の主、ソフィア。けれどまるで緊張感のないほえほえっとした様子の少女に、アルベルを虚脱感が覆う。
がっくり肩を落としたのに少女はさらに瞬いて、まるきり分かっていない様子にアルベルの疲労感はさらに大きくなって。
けれど、このなんとも頼りない少女一人の力で先ほどの事態を切り抜けた、それは確かで。

◇◆◇◆◇◆

あのとき、パーティメンバーほぼ全員が地に倒れ伏したあの時。
どんな術だったのか、彼女が光を――光のような何かを放った。元から地面に倒れていたアルベルには当然すべてを見ることはできなかったけれど、敵全部が、全滅とはいわないけれど大なり小なり吹き飛ばされたのは分かって。それこそ立て直しに時間がかかったのは分かって。
その隙に、呪文を唱える時間が惜しかったのか回復アイテムを渡された。わずかに回復して勢い立ち上がると、先ほどの彼もそうだったのか、地にもがく敵がいた。弱い者いじめがどうとかなど言っていられる状況でもなかったので、ただ何かの作業のようにその喉笛に何度も刃を突き立て回った。

けれど少女は、少し前までまるで足手まといだったはず。
あんな強力な術など、扱うことができなかった、はず……?

◇◆◇◆◇◆

「いつの間にあんな術覚えた?」
「ああ、さっきのあれですか。……ええと、昨日、かなあ? 使ったのはさっきのがはじめてですけど」
のんびりとした言い方、けれどその内容に。アルベルはぎしりと歯を食いしばる。
「……じゃあ、覚えたその時になんで使わねえ……」
「必要ないじゃないですか。昨日は、みんな調子良くて。わたしがでしゃばらなくても良かったですし」
きっと今にも爆発しそうな彼に気付きもしないで。どこまでものんびりあっさりとソフィアが笑って、アルベルの眉間のしわはどんどん深くなっていく。
「勝てる手段出し惜しみしてんじゃねえよ……っ」
「強力になればなるほど、術なんて使わない方が良いんです」
それがまるで当然のように言い切るソフィアに、こぶしを作るアルベルの手がぶるぶると震える。

強さが第一の彼には、まるで理解できない。
間違っているとか正しいとかいう以前に、ソフィアの言葉がまるで理解できない。

――強大な力を持つなら、それを使うことに何を躊躇することがある。
――全力を出さずに、お前は何に勝つつもりだ。

――何より闘いを厭うなら、むしろ進んで力を使うべきではないのか?
――そうして最短で闘いを終わらせて、逆らう気が起きなくなるくらいにその力を見せ付ければいい。

◇◆◇◆◇◆

むっつりと黙り込んでしまったアルベルに、ソフィアはまたひとつ首をかしげた。
何か怒っている、のは分かる。きっと話の流れから、彼女に怒っているのは分かる。何かがきっかけで怒らせて、彼女の言葉がさらにトドメを刺したのだと。
分かるけれど、その肝心な「何か」がよく分からない。

「アルベル、さん……?」
「…………」
恐る恐る声を上げたら、わざとらしく大袈裟に顔を背けられた。少なからずショックを受けて、ソフィアはぐっと黙り込む。
脳裏に、会話がリピートされる。

……覚えたての術を使わなかったから……?
……でも、それは。

◇◆◇◆◇◆

ソフィアは黙って背後を向いた。
敵が倒れて、味方たちは近場に横たわっている。――先ほどは時間的余裕から一人を蘇生させるのに精一杯で、こうしている今はある程度魔力を補充させないことにはむしろすぐにでも倒れてしまいそうで。
そして、周囲はアルベルの言う「光」によって滅茶苦茶に破壊された自然。

術が強力になればなるほど、制御が難しくなってきた。味方に被害を出さないようにするのに精一杯で、周囲のことにはかまけていられない。回復の術や補助の術ならともかく、攻撃の術ともなるとそれはさらに顕著で。
むしろ先ほどは、アルベルを助けようとするのに必死で焦りが術の制御をさらに難しくした。

抉れた木々、深く穿たれた地面。空気は今もどこか焦げ臭く、そのにおいはどうにも落ち着かない気持ちにさせる。
このすべてをソフィアが呼び込んだ。
焦げ臭い奥の鉄のにおいはアルベルによってもたらされたものだけれど、そのきっかけはすべてソフィアが招いた。

◇◆◇◆◇◆

――だって、わたしは。
――わたしはまだ、未熟で。使わないと制御の仕方を覚えないとしても、こんな強力な術、使うのが怖くて。
――これだけ強い術が。
――もし誰かに、たとえばアルベルさんに向いたらとか、考えるとすごく怖くて。

……それ以前に大きすぎる力は、それだけでこわい。
……こんな力なんて、いらない。こわい力なんていらない。
……ほしいのは、ほしかったのは、
……誰かを守ることができるだけの、自分を守ることができるだけの。
……「負けない」だけの、力だから。

◇◆◇◆◇◆

「――力がすべてなんて、強ければそれだけで正しいなんて。
そんなの、間違っていると思うんです」
ソフィアのつぶやきを、風がさらっていく。
アルベルが眉間をゆっくりもみほぐして、
――開いた口に、何か言おうとする気配に。

びくん、少女が目に見えて緊張する。

―― End ――
2005/12/29UP
アルベル×ソフィア
OFP
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Totes Kapital
[最終修正 - 2024/06/21-11:33]