夢を見た、たったそれだけで。

―― Umspannen

夜半ふと目を醒ましたアルベルは、ごそりと身を起こすとふらりと歩き出した。
現在地――荒野。何か名前があったはずだけれど、正直彼にはどうでも良かったのでそんなものまるで覚えていない。
ただほこりっぽい空気に腹を立てて、かたまって休むパーティメンバーたちから逃げるようにざくざく歩いて。周囲にうろつく敵は悔しいことに今の彼一人でどうにかなるものでもないので、そんなに離れることはできなかったけれど。
そして、ふと立ち止まる。何かあったわけでもないけれど立ち止まって、何気なく見上げた空には、ただ、黒。
空気さえひび割れたように乾燥したこの地に、雲で空がかげっているわけではないだろうと思った。そうなると、これが彼以外のメンバーがぎゃいぎゃい騒いでいた敵襲の、結果なのか。これを止めたいからこそ、メンバーは無理に無茶を重ねてこんな場所までやってきたのか。

黒、空を見上げているはずなのにそこのない穴をのぞいているようだ。何もない、何も見えない。闇、深遠――連想するのは、終焉、死、終わり。
彼以外のパーティメンバーには限りなく似つかわしくなくて、
まったく彼には、似あいすぎるほど。

くっと喉が引きつれた。笑いに近い息を漏らして、ふと表情すべてを消し去る。
「何か用か」
「あの、」
振り向きさえしない背後の気配は近ごろ顔を合わせた栗色の髪の少女のもので。きっと誰よりもこの空に似つかわしくないと、驚くことに彼が自発的に思ってしまう少女のもので。
声がそれを証明したので、振り向かない。
アルベルはただ無言で、空を見上げる。

◇◆◇◆◇◆

夢を見た。
いつもの悪夢だ。父が死んでいった、あのときのリピートだ。彼自身の手で、今の彼を決定してしまったあの出来事。忘れるつもりも忘れたいと願ったこともないけれど、忘れるなと呪詛の声さえ聞こえそうな、そんな不吉な夢を見た。
夢を見た、たったそれだけで。
あの場に、彼以外の気配がひしめくあの場にいられなくなって。

◇◆◇◆◇◆

「用がないなら、寝ろ。俺にかまうな」
どうしたものかとおろおろする気配に、ぶっきらぼうに言い放つ。きっと知り合って間がない今だから、様子のおかしい彼をおめでたくも心配したのだろう。彼の本質を知るにつれて、そんな心配など無用と思うようになるはずだ。
そう思って、だから面倒くさかったけれど言い放って。
探るつもりはないけれど探し出してしまう背後の気配は、

「っ!? お前、」
気配は遠ざからずに、細い腕が彼の身体に回った。細身とはいえ男女差で小さな彼女が、自分より確実に大きな彼を抱きしめる。
わけが分からなくて混乱するアルベルに、
けれど何の声もなくて。

◇◆◇◆◇◆

――この感情はなんだ。
――いとおしい、切ない。
――ありがたい、淋しい。
――この感情は何だ、俺はこんなもの知らない。
――知らないくせに、そのくせに、

――このぬくもりに、安堵している自分は何なんだ。

平穏も安らぎも捨て去ったはずなのに。気付かなかったけれど渇望していたモノを、何気なく与えられたような。
そんな資格ないのに、それなのに。
それ、なのに。

◇◆◇◆◇◆

振りほどくことができずに、ただ天上の闇を見上げる。背後の少女が、そのぬくもりが気になって、
けれど、それでも。

許されないことなのに、その温もりを、
――手放すことが、できない。

―― End ――
2006/04/09UP
アルベル×ソフィア
OFP
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Umspannen
[最終修正 - 2024/06/21-11:33]