いつもどおり、いつもどおり、いつもどおり。
――けれど別にそれにこだわるつもりなんか、ない。
「ええと……あとほしいのは、」
「薬草類よ。フェイト、キミメモ持ってたんじゃないの?」
それは、もはやいつものことだった。
町に着いて宿を確保して。
日暮れまで時間があるようなら足りないものを買い揃えるのは、いつの間にかフェイトの役目になっていた。その彼に何やかや理由を付けてマリアが同行するのもすでにいつものことだったし、嫌な顔をするわけでもなく、けれど特に喜ぶわけでもなく。まるでそれが当たり前のことのように、フェイトが特に反応しないこともまた、いつものことだった。
そうして今日も、二軒三軒と店屋を回って。必要なもの、足りなくなったものを買い足していって。
「……うーん、」
「……?」
特に何があったわけでもなかったけれど、マリアは、そういえば先ほどから何度となくフェイトが自分のこめかみあたりを押さえていることに気が付いた。一度気が付くとどうしてもそこに注目してしまって、
確かにことあるごとに、彼がこめかみを押さえている。
「……フェイト?」
「うん? あとは、何があったっけ??」
「いらなくなったものを売りたいって、売って軽くなりたいってこの前言ってたけど」
「……うん、そうだったよな。じゃあ、次の……このままだと武器屋が一番近いか。のぞきがてら、売ることにしよう」
こめかみを押さえて、そしてなんだかぼんやりしている。
宿屋で仲間たちとぎゃーぎゃー騒ぎながら書き殴っていたメモをどこにしまったのか、取り出して眺める様子がない。
なんだか……なんだか。いつもと同じなのに、いつもと違うような。
どこか、……元気が、ない……?
「――フェイト」
「うん? ああ、マリア。重いなら僕が持つからさ。無理しなくていいよ」
「申し出はありがたいけど、別に重くなんてないわよ。多少かさはあっても、かさばるってほどでもないし。キミこそ、そんなに大荷物抱えて大丈夫?」
「平気平気、まだまだいけるさ」
にっこり、さわやかに笑う顔はいつもと変わらない。
旅疲れたおかげで少しホコリっぽいのは、まあ仕方がないだろう。マリアも似たようなものだけれど、彼女の場合は女性らしく気をつけているので、多少はマシのはずだ。
何気なく目を向ければ、荷物を抱えている腕、リストバンドの下あたりに擦り傷を見付けて。いったいどこでこすったのかしら、などとぼんやり考えてみる。
……じゃなくて。
「フェイト、」
「これ売ったらさ、どこかで一息ついていこうか。なんだっけ? この前マリアが見つけたっていう……ケーキ屋??」
「喫茶店ね。確かにケーキは美味しかったけど。
――そうじゃなくて。フェイト、キミ本当に大丈夫?」
「何が??」
きょとんと幼い顔に見つめられて、それが演技でもなんでもないことに気が付いて。マリアは音もなく息を吐いた。彼女のため息にさらに目を丸くしている彼に、手をのばす。
抱えている荷物が多くて動きが鈍いのもあるだろうけれど、やすやす触れた、その額が確かに熱い。
「……熱、あるけど」
「え……?」
「キミ、実はしょっちゅう体調崩すじゃない。たぶんこれもそうよ。……風邪かしらね? 今日はもう早めに切り上げて、宿でゆっくり休んだ方がいいわ」
「そんなことないよ?」
――マリアの手が冷たいんじゃないかな。
完璧にタイミングのずれた言葉に、頑固に認めようとしない彼に。むっとしたマリアは、たった今までフェイトの額に触れていた手をそのまま彼の後頭部に回した。
ぐっと引き寄せる。
驚いたフェイトの顔が迫って、それなりの勢いで額がぶつかる。
「……ほら、平熱じゃないことくらい分かりなさい」
「え、いや、……ちょ、あ、……マリアさん!!??」
――ここはあの、往来で、
などともごもごあわてる彼からぱっと手を離して、マリアは肩をすくめた。かさばるけれど重くないものを目敏く彼の手からさらって、つん、と横を向く。
「確かに往来よ。それが何? ちょうど人通り途切れているじゃない」
「で……っ、でもさ、仮にも若い、」
「――キミ一体いくつよ?」
あわてているからだろうけれど、きっと必死の思いで言いかけた言葉の、その的外れ具合に思わず脱力する。そんなマリアに、まだ落ち着きが取り戻せないフェイトがやはりあたふたと、
「せ、せめてほら、武器屋にいらないものを、」
「帰り道の道すがらなら文句はないけど、角曲がって向こうでしょう? やめときなさい、ほら、呂律も回らなくなってるじゃない」
「こっ、これはさっきマリアが、」
「いやね。人のせいにするつもりなの?」
「せいもなにも、」
平然としてずばずば返すマリアが時々意地悪く笑っていることにフェイトが気付くのは、いつになるのだろう。彼が体調を崩すのはともかく、こうして言いたいことをぽんぽん投げ付ける、それはきっとマリアとフェイトの「いつものこと」で。
いつもどおり、いつもどおり、いつもどおり。
――けれど別にそれにこだわるつもりなんか、ない。
少なくともマリアには、カケラだってないから。
そんなことにこだわって、大切なモノを見逃したくなんか、ないから。
「ほら、いいから帰るわよ」
「っ、いやあの、別に逃げないからさ、マリア、腕はなし……!」
「そのうちふらふら千鳥足になりそうだから、仕方ないじゃない。ほらほら。残った買いものとか売りに行くのはクリフあたりに押し付けるから気にしなくていいわよ」
「そうじゃなくてさ、マリア……!?」
宿にもどったら、――そのまま布団に押しやるには少し汚れているから、まずは着がえさせるべきかしら。
そんなことを考えるマリアにぐいぐい腕を取られて。
引きずられるフェイトがおろおろあたふたともがいて、まるでそんな二人をくすりと笑うように。
ふわりと風が一陣、行き過ぎる。
