一人じゃない、って大きいのよ。
キミがいてくれるから、私は取り乱さずにすんでるの。
何もできない、なんてそんな情けないこと言わないでよ。
キミがいてくれるから、私は十分助けられてるんだから。

―― Gedacht, getan.

「マリア……あのさ、」
「どうしたのよフェイト? 真面目な顔して」
「……あのさ、」
「……??」
何をどう言えばいいのか見当が付かなくてまごつくフェイトに。なんだかやけに無邪気なきょとんとした顔で、マリアが小さく首をかしげた。

◇◆◇◆◇◆

戦闘中だった。
「あ、っ!?」
「マリア!!??」
小さな声にはっとフェイトが振り返って、ぱっと見た瞬間に大体分かった。
崖近くで足場が悪かった、それを失念したのかそこまで追い詰められたのか。彼女の片足の下に、地面がない。今すぐ転がり落ちるところではなかったものの、バランスを取り戻すまで悠長に待っているほど敵モンスターは紳士的ではなくて、つまり、
残った脚めざして体当たりがかけられる直前、走り寄ったフェイトの剣がぎりぎり間に合った。モンスターをどうにか――斬り捨てることはできなかったものの、彼女の足元からは距離を取らせることに成功して、
けれど泳いだマリアの手を不用意につかんだのが悪かった。
結局二人してバランスを崩して、崖からすべり落ちる。

◇◆◇◆◇◆

「フェイト、あの、……大丈夫?」
「いや、別に怪我してないから。ええと……マリアは?」
「怪我? たぶん平気よ」
崖、とはいっても実質的にはひと一人――二人分ほどの高さの段差がある程度。転がり落ちたなら、すべり落ちる途中や着地時にどこか変なところに引っかけたりしなければ。無理をさせた脚はじんじんするものの、とりあえず二人とも怪我らしい怪我はない。
頭上はまだ戦闘中らしく、ひょっとしたら味方が一気に二人減ったせいかもしれないけれど、にぎやかな悲鳴やら刃物を打ち合わせる音やら気合の雄叫びやら。今も大盛り上がりで、もしかしたらいなくなった二人に気付いていないのかもしれない。

とにかく合流しなければ、と。
フェイトは崖のごつごつしたでっぱりに手をかけ脚をかけよじ登ろうとしてみた。が。先ほど怪我をしなかった、つまりは何もない急勾配の斜面。三歩のぼって四歩目で足場が見当たらなくて、バランスを崩してずりずりずりとスタート地点まですべり落ちる。
「……これ登るのは無理だな」
「そうね……躊躇なく上りはじめたなら、ひょっとして君には崖のぼりの特技でもあるのかも、なんて期待したけど。やっぱり無理よね」
「分かってたなら止めてくれよ……」
考えなしに無理をした結果、擦り傷を作ってしまってそれが痛い。ぴりぴりするてのひらを見下ろしてつぶやけば、視界のすみにマリアが肩をすくめる。
痛みと情けなさにすねた顔をしたなら。
白い手が長い髪の中に突っ込まれて、

「あ、マリエッタ? 良かった、電波は通じるのね。
……え? ううん、違うわ。クリフたちとはぐれたの。うん、分かってる――そうそう、崖一つ分はなれて。距離は大したことないけど、高さが問題なのよ。直に登れたならそうするけどそれは無理って今さっき確認したし。だから……そっち、クリフの位置は分かるんでしょう? 適当に歩くから、離れすぎないようにナビお願い。……うん。、うん、分かったわ。
――あ、マリエッタ、それでね。いま戦闘中なのよ。クリフには通信、きっとつながらないはず」
髪に隠れて、あるいは髪に隠して見えないけれど、マリアは通信機を身に着けている。今もそれで、たぶんディプロと通信していたのだろう。
髪に突っ込まれた手が離れて、翠の目がふとフェイトに向いて、

◇◆◇◆◇◆

「行きましょう」
「え、あの、」
「とりあえずは勘よ、根拠はないわ。とにかく歩いてみて、方向が違ったらマリエッタが言ってくるはずだから、」
言うが早いか、脚を踏み出した。つられるようにその横について歩きながら、フェイトは浅く息を吸い込んで、
「マリア……あのさ、」
「どうしたのよフェイト? 真面目な顔して」
「……あのさ、」
「……??」
何をどう言えばいいのか見当が付かなくてまごつくフェイトに。なんだかやけに無邪気なきょとんとした顔で、マリアが小さく首をかしげた。二人ともいまいちよそ見をしながらそのまま歩を進めて、やがてフェイトがぽつりと、
「マリアは……迷わないよな。ごめんな、僕はことごとくに後悔ばっかり積もってさ。何もできなくて優柔不断で」
「何言ってるのよ」
対するマリアの声には呆れが混じっている。ぴたりと彼女の脚が止まって二歩進んでそんな彼女に気付いて、フェイトが脚を止めてあわてて振り返ったなら。
腰に手を当てたマリアが、苦笑と呆れのかすかな笑みを浮かべていて、
「私が迷わずにすむのは、協力してくれる人がいるからだわ。今だってもしも通信機がなくて誰もナビしてくれないなら、きっと一歩も動けなかった」
そしてゆるく首が振られて。
「フェイト、キミがいまここにいてくれなかったら、私は一歩も動けなかったわ」
当然のことのようにそう言って、

「一人じゃない、って大きいのよ。キミがいてくれるから、私は取り乱さずにすんでるの。何もできない、なんてそんな情けないこと言わないでよ。
キミがいてくれるから、私は十分助けられてるんだから」

◇◆◇◆◇◆

フェイトの目には、何があっても動じずに自身が最適と思うことを迷わず実行するマリアが。そうして自分の選んだことを、合っていようが間違っていようが決して後悔しないように見えるマリアが。
絶対に人に頼るようには見えないマリアが。
そんなことを言って、どこかはにかむような微笑みで、
「今も、面倒に巻き込んでごめんなさい。そして、ありがとう。ここにいてくれてありがとう」
素直な礼の言葉をつぶやいて。

――握手をするように、あるいは小さな子供のように手をつなぐことができたなら。
なぜか唐突にフェイトの頭がそう思った。
――そうして彼女に触れられたなら、彼女の強さが少しは流れ込んでくるだろうか。
――そうして彼女に触れられたなら、彼女の弱さを少しは受け止めることができるだろうか。
そんなことを、思って。

再び二人は歩き出す。そちらに行けば崖上に登る道があると決まっているわけではないけれど、根拠はないけれど、二人はただ黙々と歩いて。
――ひとりじゃない、触れようと思えば触れられるって、良いな。
なんだかしみじみそう思った。
――思ったことを、思い付くままに実行に移すのも、良いものなのかもしれないな。
そんなことをただしみじみと、

フェイトの頭が、噛みしめる。

―― End ――
2006/04/20UP
フェイト×マリア
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
Gedacht, getan.
[最終修正 - 2024/06/25-10:01]