思いがけない至近距離、
翠と碧が絡みあう。

―― Grunschnabel

パーティにマリアが加わって、四人になった一行はなりゆきから聖殿カナンへもぐることになった。
ありえないほど昔に建てられたそこは、けれど今現在バンデーン兵が好き勝手やっているためか地震が頻発して。風化から建物を守っているのだろうしかけも、そういった直接攻撃には弱いらしくて。
あるいは壁がひび割れたり、あるいは瓦礫が積み上がったり。
けれど足場がどうあれ先に急がなくてはならないから。

◇◆◇◆◇◆

「……と、また瓦礫発見。たぶんアレなら上通れるな。どうする?」
「できるなら抜けたいね。あの向こうに道が続いてる」
他メンバーより頭一つ以上余裕で高くてさらには視力が良いからという理由で、先頭を歩いていた金髪の大男がゆるりと振り返った。国家レベルで機密事項という聖殿内部の地図を手にした赤毛の女隠密が男の言葉にうなずいて、訊ねるような二対の目がパーティリーダーに向く。
どうする? と訊ねる。
「……じゃあ瓦礫乗り越えましょう。ネルさん、足元に気を付けて」
「誰に言ってんだい」
どこまでも真面目な心配の声に、けれど彼女はあっさり肩をすくめた。それに嘘偽りはなく、何気ない足取りで呆気ないほど簡単に瓦礫の山を乗り越えて、小石の一つも動かない。
――さすが、と言うべきか。

感心するマリアは、自分に向いた視線にふと顔を横に向けた。先ほど隠密を心配したときときっと同じ碧が、今度は彼女に向いていた。
「……何」
「手を貸すよ、ネルさんはさすがに平気だったけどさ。同じようにマリアが渡れるとは限らないし」
「それって私をばかにしているのかしら?」
「ちっ! 違うそうじゃなくて!! そうじゃなくてやっぱりさ、マリアは、」
言葉尻に少し遊んでみただけなのに、面白いほど大きく顔色を変えた彼に。くすり、口元がほころんで、目敏くそれを見つけた彼の顔がほんの一瞬ひくりと引きつった。引きつったもののそれを隠そうとなんだか努力しているのが目に見えて、マリアは笑い出さないようにと腹筋に力を込める。
別に彼をからかいたいわけではないから、その申し出は嬉しいものだから。

◇◆◇◆◇◆

「ええと……はい」
「別にかまわないのよ? ネルほど見事に渡れなくても、最悪足元崩れて足を取られて転ぶくらいですむし」
「そんな最悪、黙って見てたくないから、――はい」
どうぞ、と差し出された手に実は途惑って。嬉しくないわけではない、こんなに「ふつうのおんなのこ」扱いされたなんてどれくらいぶりだろう、だから嬉しくないはずがない。
けれどそれだけの「久しぶり」に、どう反応したらいいのか分からなくなって。
決して彼を疑っているわけではない、ただ反応に困って。
困った結果口からついて出た言葉に、彼は、フェイトはむっとしたようで、けれどまるで意地になったようにその手は引っ込まなかった。それはそれとして、これを果たしてどうしたものかと中途半端にうろつくマリアの手にやがて痺れを切らしたのか。
その手をぐっとつかむと、すたすたと歩き出す。
「あの……フェイト?」
「そりゃ僕はクリフほど頼りにならないかもしれないけど! あいつほどアテにできないかもしれないけどでも一応男やってんだよ!! 少しはこう、任せるとか頼るとか!」
「……別にキミを疑ってるわけじゃないんだけど」
軽んじているわけでは、決してないのだけれど。
――でも、そう思われても仕方がないかもしれない。

自分の手をつかむ彼の手の大きさとか、つかむ力の強さとか。きっと慣れの問題だろう、ぎごちないリードとか。自覚と自己反省をせずにはいられない可愛くないマリアの態度に、それでも呆れもせず突き放しもせずこうして手を引いてくれる、そんな彼を。
軽んじているわけではない、馬鹿になんてしていない。むしろ意識しすぎて、どきんと高鳴る鼓動が気付かれませんようにと何かに祈りたいほどで。
それでもその心を説明する言葉を、マリアは持っていないから。

◇◆◇◆◇◆

「――これでも、感謝しているんだけど、」
……「ごめんなさい」と「ありがとう」と。伝えたいのに一度機会を逃した言葉はなかなか口から出てこない。こんなことならと後悔しても、
つぶやきかけた言葉は、けれど、

「マリア! 足元注意して!!」
「分かって、……きゃあ?」

けれど鋭い悲鳴のようなフェイトの言葉で途切れた。意味を考える前に反射的に返そうとしたマリアが、その瞬間踏んだ瓦礫は安定が悪いものだった。
あ、と思って、けれど体重はすっかりかかった状態で今さらどうにもできない。普段なら、平地ならどうにかできたかもしれないけれど、ここは足を取る瓦礫の上。
がくん、身体がかしいだ。このままではフェイトを巻き込みそうで、そう思った瞬間彼の手から逃げようとしたマリアの手を。けれどフェイトはぐっとつかむと、いや、むしろマリアの身体を抱きしめるように、

◇◆◇◆◇◆

「……お二人さん、親の目の前でいちゃこくのはカンベンしてくれねえかね?」
「だっ!! 誰もいちゃついてなんかいないわよってクリフ!」
「あん?」
「あ……その、あ、ありがとう?」
「どういたしまして」
爪先に瓦礫、子猫のように襟首をつかまれたマリアがつぶやくと、のどを圧迫していた力がゆるんでそのかわりに肩が支えられた。反射的に閉じていた目を恐々開けてもう大丈夫だと確認して身体から力を抜いて、マリアは大きく息を吐く。
「フェイト、……ありがとう。悪かったわね、あの、」
「おら、手ぇ離しやがれこのままだと痴漢と呼ぶぜ」
「誰がっ!! なんだって!?」

瓦礫の頂上を越えていた二人は、前のめりに、つまり道の先に転がりそうになった。フェイトを巻き込まないために繋いでいた手をもぎ離したマリアと、そんな彼女をかばうためにとっさに下に入って彼女を抱きしめたフェイト。
すぐ後ろをついてきていたマリアの養父が、転げそうになった彼女の後ろ襟首をつかんで。
たったそれだけで転びかけはストップ、あとに残ったのは、

思いがけない至近距離、
翠と碧が絡みあう。

一瞬とはいえ二人分の体重が襟首にかかって苦しさに涙のにじんだマリアの目と、そのまま転げていたなら確実に背中を強打していたフェイトの目が、見つめあう。

お互いそのまま凍りついて、やがて同時にかああああっと顔の血が上って。

◇◆◇◆◇◆

――修行が足りないわね。
パニックに陥ってぐるぐるのマリアの、頭のすみっこがそんな風に息を吐いた。
――それは正しいかもしれないけれど、だったらどちらの修行が足りないのか。
そんなことを思うマリアの頭は、ひょっとしたらほんの少しだけ復活したのかもしれなくて、

けれどその時点でまだ、
フェイトの手は、まだマリアの身体にがっちり回されていて。

―― End ――
2006/05/17UP
フェイト×マリア
OFP
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Grunschnabel
[最終修正 - 2024/06/25-10:01]