きれいな人だと思った。
強くて、その上優しい人だった。
頭の回転が速かった。
誇り高い人でもあった。
非の打ちどころがなかった。
――まさに、理想どおりの人だった。
だから。
「好きです、ネルさん」
心底そう思ったから、照れもてらいもなくフェイトはそう言った。どこまでも真面目に真剣に、目の前で胡散臭いものを見る目で彼を射る紫にささやく。
「僕は、あなたが好きです」
これまで八回ほどフェイトはネルに告白していて、そのどれもがそのたびに、過去に持つ「真剣度」を毎回軽々更新する真剣さなのに。今回のそれもご多分に漏れず、何にどう誓ってもいい、心底本気なのに。
ネルが九回目のため息を吐いた。
もう十回近く同じことをくり返していれば、いい加減分かろうというものだ。
――ああ、またふられるのか。
告白も、もちろんネルを好きになったことも否定するつもりはないけれど。無碍なく断られることは、ふられてしまうことは。
さすがに淋しい。
思うのだ。
いつも、いつだってネルは自分以外の「誰か」を優先させている。隠密だから、クリムゾンブレイドの片割れだから、そんな理由を彼女は並べるだろうけれど、多分「自分」よりも「誰か」を優先してしまうのはネルの本質だとフェイトはにらんでいる。本質は変えようがないから、フェイトはそんなネルに惚れたわけだから。
だから、フェイトは思うのだ。
ネルが、自分のことよりも他者を優先するのなら。それは変えようがないのなら。せめて自分だけでも、他の誰より他の何よりネルを優先させようと。今までネルが自分をないがしろにしてきた分が全部きっぱりチャラになるくらい、その分を取り返すくらい。
――自分だけは、自分だけが。ネルを優先させたい、させてみたい、と。
あばたもえくぼ、ネルの欠どんな点さえ今の自分にかかれば何にもかえがたい長所に見えているのだろうと、頭のどこかで冷静に判断しながら。
けれどフェイトは、やはり思ったのだ。
そう思った通りをネルに伝えたなら、ふられてしまった。言葉が足りないのかと日を変えてまた告白したら、やっぱりまたふられた。
というか、どうやらネルは怒っているようだった。
――今は、そんなことにかまけている時ではない、と。
――世界全部とひと一人を天秤にかけるなんて、無作法もいいところだ、と。
やはり、言葉が足りないのだと思う。
他すべてにマイナス修正が入るわけではなくて、ネルひとりにプラスが集中しているのだと。もっと噛み砕いて、理解してもらいたいと思う。自分をないがしろにしているわけではなく、そんな自分よりも他者を優先させているネルに理解してもらいたいと思う。
似ているけれど、決定的に違うことを。フェイトが、フェイトの目でフェイトなりに見て、フェイトなりに感じてフェイトなりに考えたことを。
それもまた、彼女を怒らせることになるのかもしれないけれど。
自分よりも他者を優先させるのがネルの本質なら。自分の「好き」を何より優先させるのが、フェイトの本質だから。
だから、何度でも何度でもアタックしたいと思う。ふられることはきっとさすがにいつまで経っても慣れないけれど慣れないだろうけれど。
アタックする相手がネルなら、フェイトにはこれ以上ないほど幸せなことだから。
きれいな人だと思った。
強くて、その上優しい人だった。
頭の回転が速かった。
誇り高い人でもあった。
非の打ちどころがなかった。
――まさに、理想どおりの人だった。
中身を知るにつれ、その頑固さとか少し柔軟性に欠けるところとかも見えてきたけれど。
けれど、どこまでいってもやはり、フェイトはネルがいとおしいと思う。
口説き落としたい、女性として扱っても許されたい常に身近にいてほしい。姿を見ていたい声を聞きたい自分だけを見つめてほしい。触れたい触れてほしい。二人だけの時間を、過ごしたい。
――最近では、そんな気持ちが少しずつ変質してきたけれど。
フェイトは思うのだ。
理解したい、理解してほしい。幸せになってほしい、自分の手で幸せにしたい。
星の数ほどの確率で、出会うことができたこの赤毛の女性が。
誰よりも、何よりもいとおしいと。
――心の底から、そう思う。
