それは、不意に覚える言葉にできない感情。

―― Ich ruttelte ihn wach.

町に入った。とりあえず当然のようにまずは宿を確保して、部屋に簡単に荷物を広げてから、ネルは男部屋をノックした。
「落ち着いたかい? 夕飯何か外に食べに出ようと思うんだけどさ」
「おー。……鍵かかってねえぜ」
「ああ」
勝手に入れと言われたのでその通りにすれば、ベッド周辺に店を広げているクリフと、窓際――というか窓枠に腰を下ろして、うつむいているフェイト。
ぴくりとも動かないので近付いてよくよく見たなら。
器用なことに、その姿勢のまま彼は――どうやら熟睡しているようだった。

◇◆◇◆◇◆

「フェイト?」
「さっきからずっとそうだぜ、体力ねえよなあ」
「そりゃあんたに比べればね。言わせてもらえば、あんたの体力は化けもん並みだよ」
「言ってくれるな、傷付いちゃうぜ?」
「……たまにはへこたれな。こんなことでいちいち凹んだりしない癖に嘘言うんじゃないよ」
「へいへい」
視界の外からの軽い声に、深く考えないまま返事の声を上げて。
けれどネルの視線はフェイトからはずれない。まるで魅入られたように、視線を外すことができない。

伏せられた意外と長いまつげとか。寝息を漏らす口元とか。決して頼りないわけではないけれど、線が細いようでいてその実けっこうがっしりしてきた体躯とか。彼の体臭とか。
「そこにいる」のは確かなのに、フェイトはただ寝ているだけなのに。
なんだか彼の周囲だけ「空気」が違うような気がする。
――本当に今ここにフェイトがいるのか、触って実感したい、と思う。

思った瞬間、ネルの腕が持ち上がった。気持ちよさそうにどこまでも無邪気な寝顔を見せる年下の青年へその手が伸びて、触れる直線その勢いは止まって。
血なまぐさい世界に生きる彼女が。
寝顔だけならまるで天使のような彼に、果たして本当に触れても良いものだろうか、と。

◇◆◇◆◇◆

「……ねえよな、ったく……おい、ネル。絆創膏かなんか持ってねえか?」
何かを探すために荷物をひっくり返していたらしい。
いきなり声をかけられて、それだけ集中していたのか。びっくりして思わず跳ね上がったネルに気付かないように、クリフはやはり荷物に目を落としていた。
なんだか馬鹿らしくなって、ネルは息を吐く。
「――そうだね、持っているかもしれない。急ぎかい?」
「んー……いや、ねえならねえで良いんだが」
「うん、じゃああとでこっちも荷物探しとくよ。
――フェイト」
ネルの手が、今度は直前で躊躇することなくフェイトの肩をつかんだ。思っていたよりも厚みのある肩になんだか内心驚きながら、
「フェイト、夕飯だよ。起きな。
――寝るなら寝るで、ちゃんとベッドに横になりな。こんなとこでうたたねするもんじゃないよ」
先ほどまでの、気後れがまるで嘘のように。いつものように、無遠慮に叩き起こす。

年齢よりも幼い寝顔とか。
こんな生活をしていれば、きっといつか失われてしまいそうな無邪気な雰囲気とか。
そうでなくても日々成長している青年の、きっと本人は自覚していない「男らしさ」とか。
同時にまだまだ彼に存在する、子供っぽい部分とか。
――そういったものに動揺した自分がなんだか馬鹿らしかった。

動揺を誤魔化すような乱暴な起こし方に。
フェイトの眉がよって、緑の目が――至近距離で彼女を映し出す。

―― End ――
2005/08/28UP
フェイト×ネル
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
Ich ruttelte ihn wach.
[最終修正 - 2024/06/25-10:07]