ぼむっ、という軽いような重いような破裂音。
一瞬だけ広がってすぐさま薄れていった煙。
「……けほっ」
どうやらそれに巻き込まれたらしく、瞬時に涙目になって一回だけ煙を吐いて、

―― Kindisch Falle

新製品開発をするんだーと意気込んで、結果失敗ということはよくあるけれど。爆発まですることはまず滅多にないから。
「……フェイト?」
執筆をしていたソフィアは思わずそちらを振り返って、小さく声を上げた。
爆発? が起きてからとりあえず視線は釘付けで、その視界の中の幼馴染が。いやもちろん目の錯覚だとか気のせいだとか、そういうソフィアがわの不調のせいだろうけれど、そうに決まっているけれど、
なんだかこうして眺めている今も、

視界の先のフェイトが、じりじりとけれど確実に一回りずつ小さくなっているような。

◇◆◇◆◇◆

ソフィアはごしごしと目元をこする。執筆作業が立て込んで、目が疲れているのだろうか。だからそんな風に見えたのだろうか。だったらそんな自分の目はあてにならないと、ほらよそ見してないで、と声を荒げる青髪の女性に顔を向けて、
「……マリアさん、アレ、」
「爆発までするのは珍しいけど……いつものことでしょ。いちいち気にしていたら陽が、」
「でもでも! なんだかフェイトが」
「ん?」
厳しいところも、シビアなところもあるマリアだけど、決して何にも耳を傾けない頑なな人ではないので。ソフィアがくり返し主張すれば、翠の目が少女の指差す方を向いた。
……三秒。
先ほどのソフィアそっくりに、彼女の手が目元をこする。
「クリフ、ミラージュ!!」
「お?」
「どうしましたか、マリア?」
養父母の名前を呼んで、視線はそちらに固定したまま、
「……アレ、あなたたちにはどう見える?」
釣られるように、マリアに向いていた視界をフェイトに移して。ソフィアの目に、パーティのリーダーにして彼女の幼馴染が。
……うん、やっぱりなんだか縮んだような。
「フェイト!?」
こっくりと自分に納得してから、凍りついているマリアたち三人を一度ぐるりと仰いでから。
とうとうソフィアはあわてた。
工房内の視線がそんなソフィアたちに集中して、集まった視線がすぐに一気にフェイトに移って。
その瞬間、ごくゆっくりだった彼の「縮み方」が一気に加速した。
「え……?」
残ったのは、小さなつぶやき声。
あとには、

「ふぇい……っ、」
すべてを放り出してそんな幼馴染の下まで走って、クリエイターたちはいまだ作業の手を止めず、ただパーティメンバーがぞろぞろ集まってくる。集中している視線の内容はなんだか単なる好奇心――いや、それはどうでもいい。
膝をついたソフィアの前に、しわくちゃになって転がった服。その真ん中で服――というよりも布地に包まれるように尻餅をついて、きょとんと目を瞬くのは、
「あの……、」
ソフィアには――見覚えがある。
青いさらさらの髪、無邪気に瞬く緑の瞳。ふくふくした頬のラインとどこをとってもまるまっちくてやわらかそうな体躯。一人事態が把握できずに困った顔で周囲を見回して、覗き込んでくる高い位置の視線たちにさすがに怯えて、
「……っ、」
一人目線が低いソフィアにぶつかってきた。力いっぱいしがみついて、いやいやと首を振る。
「……あ……の……?」
「若返り薬のリベンジ? ゴッサムあたりなら泣いて喜ぶわね――鼻血吹いて、かしら」
冷静、というよりもむしろ冷徹なマリアの声。
呆然とソフィアが見上げれば――一同の中どこか困ったように視線をそらした、
「マクウェルさん、ミスティ・リーアさん!? れ、錬金で何作ってたんですか!!」
てっきり調合をしていたのだと、ああやれやれいつものことだけどなんて人騒がせなと解散しかけた一同が凍り付いた。
ソフィアにしがみついたままだったフェイトが――推定年齢三歳ほどのぷちフェイトがおそるおそる顔を上げる。無意識にその背をなでてなだめながら、ソフィアがなんだかこわい顔をする。

◇◆◇◆◇◆

――別に変なことはしていない、と言われた。
――作ろうとしていたのは宝石類で、これも別に変な反応を起こすものではない、と。
けれど実際に今目の前にいるのは一回り半ほど幼くなったフェイトで。一時のパニック状態から落ち着けば、好奇心と無邪気さで工房内をてててっと移動するちまっこいフェイトで。
一同は頭を抱えた。
原因が分からなければ解決方法だって分かりようがない。フェイト作の調合薬だったらほぼ全般が丸一日で勝手に効果が切れるけれど、今回のこれは錬金の暴走で、いつまで「このまま」が続くのか分からない。
目を離した隙に元に戻るかもしれないし、成長がリセットされてここから人生を歩み直すのかもしれないし、下手をするとこの姿のまま固定された可能性だってある。
ディストラクションの能力は全世界中探してもフェイトしか持っていないし、年単位で待ったをかけていられる状況でもないから。だから旅は続けなくてはいけないけれど、お子さまの彼を冒険に引っ張り出すわけにもいかない。
そうなると、どんな手段を取ろうが彼を元に、
「ねーねー、なんでこわいかお?」
「うーん、ちょっと難しいクイズ出されちゃって」
くいくいっ、とスカートを引っ張られて、びっくりしたソフィアが振り返れば元のフェイトのシャツ一枚をだぼっとはおったぷちフェイト。無邪気ににぱっと微笑まれると、どうにも笑みを返してしまう。
優しげなソフィアが「ソフィア」だと気付いているのかいないのか、ぷちフェイトはソフィアになついてべったりで。他のメンバーはフェイトの世話を押し付けて、もうソフィアのほうは見てみぬふりをしているけれど。

「……?」
ふとソフィアの頭に疑問が浮かんだ。
無邪気になついてきてしがみついてきて猫よろしく全身ですり寄ってのどまでごろごろ鳴らしそうな、お子さまのちみっこい手で無遠慮にべたべた、
「……ねえ、フェイト?」
「なに?」
正面に回りこんでぎゅーっと抱きついてきたぷちフェイトに、ソフィアはにーっこりと笑いかけた。今度は彼の方がつられてえへへーと笑って、
がしっと頭を抱えられて変な汗が浮かぶ。

◇◆◇◆◇◆

結局。
錬金のあの失敗は「きっかけ」だったらしいとソフィアが決め付けた。錬金の失敗が原因の半分、あとの半分は当の本人の願望が大きかったのだろう、と。
他のメンバーにはよく分からなかったものの、その当てずっぽうぽいそれは当たりだったらしく。

半日かけて元に戻ったフェイトは、お子さまの姿形をいいことにセクハラを働いたということで。
ソフィアの往復びんたの嵐を食らってさらに半日頬を腫らしてまるで別人だったとか。

―― End ――
2005/08/13UP
フェイト×ソフィア
OFP
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Kindisch Falle
[最終修正 - 2024/06/25-10:13]