守らなきゃ、と。
――いつだって、気負っていたんだ。

―― Verteidigung

「……もう、いいよ」
「え?」
ある日、言われた。
わけが分からなくて、分かるような気はするものの分かりたくなくて、ただ瞬きをくり返すフェイトに。手をのばせば十分届く至近距離のソフィアは、どこまでも静かな声で、
「もういい……もう、いらない」
戸惑うことしかできないフェイトに、声そのままの静かな笑みを向けてくる。
「もういいから……無理しなくても、いいから」
――何が、と訊けない。訊くことができないフェイトにまるで駄目押しのように、
「もう、無理してまで守ってもらわなくても、いいんだよ」
触れようと思えばそれだけで触れることができるはずの少女は、どこまでも遠く遠くささやいて。フェイトは何も言うことができずに黙りこんだまま、ゆっくり何度も瞬く。

◇◆◇◆◇◆

生まれたときから、もの心ついたときからそばにいた。そばにいることが当たり前で、仕事が、研究が忙しい両親よりも心の距離はきっとずっと近かった。
二次成長を迎えて、自分が男でソフィアは女で、違う生きものだと意識してからも。
やはり近くにいて、やはりそれが当たり前で。

ハイダの一件で分かれて、状況からどうしようもないとしてもしばらくまったく音信不通で、それから久しぶりに再会してからも。
やはりソフィアは誰よりも近くにいた。
近くにいるのが、どこまでも「当たり前」だった。

◇◆◇◆◇◆

「わたし、守ってもらわなくてももう平気だよ」
くり返して、彼女がくるりと後ろを向く。やわらかい栗色の髪がふわりと舞ってすぐに落ち着いて、けれど遠ざかろうとはしないでその後ろ姿が、
「ねえ、フェイト?」
その後ろ姿が話かけてくるから。
「……うん?」
呆然としていた意識を無理矢理引き戻して、ほんの少しの不自然を置いてあわてて返事をする。くすり、見なくても分かる笑いのさざめきが、彼女の頬にきっと浮かぶ。
「わたし、そんなに頼りないかなあ? 確かに戦闘にはまだまだ「慣れた」なんて言わないけど。言えないけど。
でも、一撃ではもう気を失うこともないし、そうなれば自分で回復できるよ。
ねえ、フェイト。わたしそんなに頼りない? 信用できない??」
静かな声、苦笑するような声。
彼の幼馴染の、その細い細い背中。

◇◆◇◆◇◆

一緒にいることが当たり前だった、「おにいちゃん」としてソフィアを守るのはフェイトの役目だった。
お互い成長してしまえば、「男」として少女を守るのは当然だった。

近所の悪ガキから、吠えてくる犬からソフィアを守るのはフェイトの役目だった。他の誰にも渡せないフェイトの役目で、だから再会したあとモンスターからソフィアを守るのも、当然フェイトの役目で、

◇◆◇◆◇◆

「まも、」
「わたしは、守ってほしいなんて言ったことないよ」
声、遠い声。遠くなってしまった声。
「今までありがとう、それは本当に思うけど。
でも、わたしフェイトの命を賭けてまで庇ってもらいたくなんかない。フェイトがわたしのせいで怪我するのなんか、嫌だよ」
怒るでもすねるでも泣くでもなく、淡々と、声。
「わたしのために無理してほしくなんかない。もう、無理しなくていいんだよ」
――ああもう、黙ってほしい。
――一寸刻みに言葉でフェイトを刻んでいることに、どうか気付いてほしい。

◇◆◇◆◇◆

守らなきゃ、と。
――いつだって、気負っていたんだ。
……いや、それは違う、ことに今気が付いた。
――守りたかったんだ、「誰か」を。
守ることで自分を実感したかった、感謝されることで存在を認めてほしかった。そのためならどんな無理も無茶も平気だったし、その充足感を得るためなら、
生命さえ、捨てられる。

◇◆◇◆◇◆

「ねえ、フェイト、」
「ソフィア」
凍りついていた、強張っていた腕がようやく動いて。少女の細い肩に届いて、それを包みこんで、
――こんなに細いのに、と思う。
……そう思うのは驕りだと、ようやく思う。
体力や腕力はなくても、土壇場で強いのはソフィアだから。いつだって強いのは、本当に強いのは少女であり、女性だから。
だから、
「……ソフィア」
「ん?」
――お願いだから、一生のお願いだから、
どうか、どうか。
「守らせて、ほしい」
簡単に包み込むことができる細い肩、どこまでもまろく華奢な少女。一緒にいることが当たり前の幼馴染。
「守りたいんだ、「もういい」なんて笑ってほしくなんかないよ。
できるだけ、無茶するのはやめるから、なるべく怪我しないように気を付けるから、」
だからどうか、
――どうかもうしばらくは、できるならずっと、
「守らせてくれよ」
ソフィアに「守ってもらいたい」「誰か」が現れるまで、フェイトに「この人を守りたい」「誰か」が現れるまで。
今は「誰でもいい」、今のフェイトには「誰か」を守ることができるならそれで満足だから。
けれど誰も守ることなく、誰にも必要されることなく日々を過ごすことはできないから。
その「誰か」で、いてほしい。
今は。
「頼むよ……ソフィアを守りたいんだ」
――今は。

「一生のお願いだ」
少女が振り返って、翡翠の色が困ったように揺れている。

―― End ――
2005/08/18UP
フェイト×ソフィア
OFP
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Verteidigung
[最終修正 - 2024/06/25-10:13]