こんなことが贅沢だというなら。
いくらでも、甘えさせてあげるのに。

―― Luxus

銀色のフォークが、たっぷりの生クリームとふわふわのスポンジ、それにはさまれた生クリームプラス果物たちに。さっくりと突き刺さった。そうして一口分切り分けて、小さなカタマリにフォークが刺さる。口に運ばれる。
あーん、開けられた口に入っていくそれ。もぐもぐもぐと動いて、
「んー! おいひー!!」
頬に手を当てた少女が、心底しあわせそうにうっとりつぶやいた。

今日は、久しぶりにオフで。そういえばなにかもの言いたげにじっと見られていることに気付いてしまって、苦笑して話を振ってみたら。尻尾があったらちぎれるくらいに振っていそうな勢いで、ものすごい勢いでこの店まで引っ張ってこられた。
そうして注文したフルーツケーキと紅茶が運ばれてきて。いただきますの言葉でさっそく食べはじめた幼馴染の少女に、フェイトは苦笑する。

◇◆◇◆◇◆

「……何?」
「いや、幸せそうに食べるよなあって思ってさ」
勢い注文して、一緒に運ばれてきた生クリームがふんわり添えられたコーヒーのムースにはまるで手を付けずに。砂糖もミルクもない、ブラックのコーヒーカップで口元を隠したフェイトはただ苦笑する。ちまちまケーキをつついていたソフィアがそんな彼に顔を上げて、首をかしげる姿はまるで小動物だ。
「そんなに美味しいかい?」
「美味しくなかったら、そういう風に食べてるよきっと」
――それよりも人の顔色いちいちうかがわないでよ。
ぷくっと膨れた彼女に、ごめんごめんと彼は謝った。

「……てより、マリアあたり誘えば良かったんじゃないのか?」
「マリアさんとは何度も来たし、また来るから良いのっ!!」
何がどう良いのか、何が悪かったのか。思い付いてつぶやけば、膨れたままだったソフィアがつんとそっぽを向いた。フェイトの顔を見ないように身体の角度ごと少し傾けて、ぷりぷり怒りながらひたすらにケーキを攻略している。相変わらずちまちまながら勢いがそれだけすごければ、皿はあっという間に空になっていって、
「? なに怒ってんだよ」
「知らないっ! フェイトの朴念仁、百回死んじゃえ!!」
なんだかものすごい言われように片眉をはね上げて、けれど彼にはまるで分からないことにソフィアが怒り出すのはすでに毎度のことで。以前と、この闘いに巻き込まれる前とまったく同じで。
「悪かったよソフィア。……これ食べるか?」
「食べもので釣ったりしないでよ! わたしの食い意地が張ってるみたいじゃない!!
……いただきます」
怒ったわりに、あっさり皿を持って行った彼女に。
ぶふっとフェイトは吹き出した。なによ、とにらんでくるのに、いや、むせただけだと苦しいいいわけをして。むっと怒りながらもフォークをスプーンに持ちかえて、ぱくっとやったソフィアに笑いはおさまらない。
怒っているはずなのに、それでも口に運んだ瞬間ほわりと表情をゆるめた幼馴染が、なんだか愛しくてたまらない。

◇◆◇◆◇◆

――フェイトのばか。
――フェイトと来たかったから、だから誘ったのに。連れてきてあげたのに。
ぷりぷり怒りながらも、ムースは美味しかった。先ほどのフルーツケーキも美味しかったけれど、口に入れるととろりとろけるムースはまたそれで美味しい。上品な甘さとコーヒーの香り、ほんのちょっとビターな感じが口元に残るのが、それはそれでとても美味しい。
自分で作っても、なかなかこうはいかない。クリエイションで作るケーキとお店で売られるケーキは、なんだかどうしても何かが違うと思う。
思いながらもフェイトが気になって。
ちらりと目を向ければ、まだくつくつ笑うフェイトがいた。コーヒーカップ程度で本当に笑いを隠せると思っているのだろうか。

――昔は甘いもの、大好きだったのに。お菓子取り合って泣かされたことだってあるのに。
――いつの間に、ブラックコーヒーなんか飲むようになったんだっけ。
苦くてそれが飲めないソフィアがぼんやり考えていると、やっと笑いを収めたフェイトの目が彼女を向いた。
「――で、何だっていきなりケーキ? アクセサリでも買わされると思ったのに」
「違うもんっ、ケーキ食べたかったんだもん!!」
なぜだか反射的に、子供みたいに言い返して。しまった、と思う間もなくフェイトがまた笑い出す。今度ばかりは笑われた原因も、その理由も分かるので。黙ったまま膨れたソフィに、まあ、続き食べろよ、とフェイトの手がひらり舞って、
「……たまの贅沢くらい、いいじゃない」
「贅沢、かい? これが??」
びっくりして目を瞬く青年に、むっとする。
「贅沢でしょ。……フェイトなら、自分で作れば良いのに、とか思ってるんじゃないの?」
「いやまあ、……否定はしないけどさ」
うそでも、そんなことないよ、とか言ってくれれば良いのに。再びぷりぷり怒り出したソフィアに、それでもムースを食べる手は止めないソフィアに。驚きから立ち直ったらしいフェイトがまたまた笑い出す。悔しいのに、その笑顔が嫌いではないから。ソフィアはしばらくだけ、我慢することにする。

◇◆◇◆◇◆

けれど、それはそんなに長続きするものでもなくて。いつまで経っても笑いから立ち直らないフェイトに、やがてソフィアの我慢は限界がやってきて、
「……だから、何よ」
――そりゃ、甘いものがあまり好きではないことを知っていて。それでもこんなケーキ屋さんに連れてきたのは、悪かったかもしれないけど。
――でも、来たかったんだもの。自分が幸せになれる場所に、いつも闘いばかりで怖い顔するフェイトに、来て欲しかったんだもの。
唇を尖らせるソフィアに、フェイトはにやにやと、
「いや、ソフィアの口元にさ、」
「何」
「クリームついてるよ」
「……え?」
ひょいとのばされた手にびっくりしていると、さりげなく口元に触れた指がそっとそこをなでて。すぐに引っ込むと、ぺろりと指をなめるフェイト。
ソフィアの顔にぼっと血が上る。

……この、男は。
……ソフィアを「幼馴染」としか見ていないくせに……!
……それなのに、不意打ちでこんな、こんな……!!

「? どうした、ソフィア?」
「……知らないっ!」
きょとんと首を傾げるフェイトは、絶対に分かっていない。分かっていないのに説明してあげるのは、なんだか悔しいしなにより恥ずかしいし!
ぷい、とそっぽを向いたソフィアに、フェイトはそれまでとは逆の方向にかくんと首を傾げなおして、
それがまた腹が立つ。

「……ソフィア、」
「何よっ!?」
「また来ような」
「…………っ!!??」
さらりと嬉しい言葉を吐く幼馴染が、
――ただただひたすら、腹が立った。

◇◆◇◆◇◆

――あんなことが贅沢なら。
――いくらでも、甘えさせてあげるのに。

ぷりぷり怒ったままの幼馴染に、今回山ほど笑ってしまったためか今度ばかりはなかなか機嫌を直してくれないソフィアに。帰り道、そのほそっこい背中を見ながら、フェイトはぽつりとつぶやいた。
ささやかなことを「贅沢」扱いする幼馴染の少女が。
愛しくて、――ただ、いとしい。

―― End ――
2005/12/11UP
フェイト×ソフィア
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
Luxus
[最終修正 - 2024/06/25-10:14]