視野が狭くて世界が狭くて、
自分の中でお前の存在がこんなに大きかったなんて。
――知らなかったんだ。分からなかったんだ。

―― Scheuklappen haben

町に着いたのが午後を過ぎたころ、そのままこの町を出て次の村に向かったとして、着くのは真夜中になるからと。出発は明朝に決定、それまで自由行動になった。
道具や武器の買い出しやら、アイテムクリエイションがどうとか、それ以外の仕事とかで。
気が付けば彼以外のメンバーはなんだかんだと用事ができて、気が付けば宿にいたのは彼一人きりで。
もちろん本当に何もすることがないのかといわれれば、そんなことはない、やるべきことやった方が良いことはたくさんあったけれど。何をする気も起きなくて、ただすべてがどうしようもなく面倒だったから。
フェイトはひとり、今日はこの部屋から出るものかと決めた。なぜだか強く決意して、深い意味もなくアイテム袋に手をのばしかけて。

――そして、ふと気が付いた。
……気が付いて、しまった。

◇◆◇◆◇◆

部屋に入った瞬間外して放り投げた防具、脱ぎ捨てた上着と武器。窓の閉まった部屋の空気はどんよりにごった感じがして、椅子の上小テーブルの上床の上、ばらばらと広げられている荷物。
先ほどまで整えられていた宿の一室に、ぶちまけられたような状態で。
どう言い繕っても、散らかっている、以外の言葉が出てこない惨状。

そして気付いてしまった。いや、部屋の汚さではなくて。
そうではなくて、
――幼馴染の彼女がしてくれていたこと、を。知ってしまった……思い出して、しまった。

――もうフェイト、こんなに散らかしたままにしとかないでよ。
――フェイト、ほら、ぐーたらしてないでさっさと起きて! 片付けなさい!!
――やだもう、こんなに汚くてどうして平気でいられるの!?
――わたしはフェイトの家政婦じゃないんだけど!?

たとえばただ黙って、さりげなく片付けてくれた。あるいは精一杯のしかめつらで彼に片付けさせた。文句をぐちぐち言われたし、怒ったようなすねたような顔で彼をにらみつけてきた。
けれど、それでも。
そんな彼に呆れることなく、愛想を尽かしてどこかに行ってしまうこともなく。
ただただずっと、彼のそばにいてくれた少女。

今は離れ離れになってしまった、
――あるいは家族のような、ひょっとしたらそれよりも近いような。

◇◆◇◆◇◆

「ソフィア……」
――こんな部屋見たら、お前はきっと、
――きっと僕をしかって、ぷんぷんしながら僕に説教をして、
――それでも、文句を言いながらきっとこれを片付けてくれるんだよな。

窓の外を見る。窓に近寄って、上を――空を見上げてみる。
角度の関係なのか太陽は見えなくて、ただどこまでも青い、澄んだ、地球からではとうてい見ることのできなかったほんものの空を。
フェイトはふと、見上げてみる。

脳裏に浮かぶのは、すねたような愛らしい顔。ぷくっと頬をふくらませた不満顔。
そうして、けれど惜しげもなく向けてくれた、
いつだって彼のものだった、輝くような笑顔。

◇◆◇◆◇◆

――なあ、ソフィア。
――僕はこんな星にいる。
――なあ、ソフィア。今、お前は元気かい。
――どこで、何をしてる……?

依存していたわけではない、
ただ、向けられていた包み込むような気配が懐かしい。
してくれたすべてに感謝を、けれど何よりも、
――何よりも、彼のために何かをしようとしてくれた、その心が懐かしくて。

気付かなかった。
知らなかった。
ただそこに在るもの、それがどれほど大切だったのか。
当たり前のようにそばにいてくれた、それがどれほど貴重だったのか。

◇◆◇◆◇◆

「……天気、良いなあ……」
――やっぱりこんなところで腐ってたら時間がもったいない、かな。
部屋の惨状を、景気よくぶちまけられたアイテムを、どうやって片付ければいいのか途方に暮れたくなる背後を。
みないようにして、一人ぐちる。
もしかしたら、ここにはいないソフィアに話しかけていたのかもしれない。

視野が狭くて世界が狭くて、
自分の中でお前の存在がこんなに大きかったなんて。
――知らなかったんだ。分からなかったんだ。

「ソフィア……」
叱るでもいい、何もしてくれなくてもいいから、
一生のお願いで、エゴを全部注ぎ込んで。願うよ。

――逢いたい。そばに、いてほしい。

つぶやいた空は青く青く、ただどこまでも青く。
背後のごちゃごちゃをみないふりのままで。
フェイトはただ息を吐き出した。
やるせない気持ちで、深く深く深く、

ただただ息を、吐き出した。

―― End ――
2006/03/26UP
フェイト×ソフィア
OFP
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Scheuklappen haben
[最終修正 - 2024/06/25-10:14]