これは一体何なんだ、と。
遠い目をして、彼はそんなことを思った。

―― Inzwischen

「フェイト! ね、今から時間ある?」
「……ソフィア? え、うん……別に急ぎの用とかは何も入ってないけどさ、」
「じゃあじゃあ!! ちょっと付きあってほしいなあ! ――部屋行ってもいい?」
「? うん……」
すごい勢いで駆け寄ってきた幼馴染の少女に、これまたすごい勢いでまくし立てられて。丸きりわけが分からないながらも、フェイトはかくかくとうなずいた。
単に、勢いに押されただけなのかもしれない。
「えへへー」
「嬉しそうだな、ソフィア。……あ、荷物持つか?」
「大丈夫だよ! ありがとフェイト」
スキップまでしそうな勢いの彼女にかなり気おされながら、ふとその手に持った袋に気が付いて。中身は見えないけれど、ソフィアの細腕にはどうやらそれなりに重そうだと気が付いて。
申し出たら、けれど瞬時に首を振られた。
――いつもは、普通にありがたがって渡してくるのにな?
首をかしげながらフェイトが部屋に向かって、その数歩前をうきうきとソフィアが歩いている。

◇◆◇◆◇◆

「おじゃましますーえへへへー。じゃーん」
「なんだよこれ……酒?」
「違うもん」
フェイトの部屋で、うきうきしたソフィアが重そうに抱えていた袋から取り出したものを見て。彼の部屋に入ることに何の抵抗も躊躇も、そもそも一瞬たりともソフィアの動きは止まったり鈍ったりしなかったことに、ひそかに落ち込んでみたフェイトは浮上して、首をかしげた。

普通、に、酒の瓶に見える。
ダムダ・ムーダあたりなら大喜びしたかもしれない。

けれど思ったことそのままつぶやいた彼に、ソフィアがベーっと舌を出した。ほおずりしかねないほどのうっとりした目でそれを見下ろして、
「入れものは、ちょうど良いのがなかったから空き瓶使っただけって言ってたし!」
「誰が」
「ゴッサムさん」

――待て。
――よりにもよってあのエロジジイの名前がなんでここに出てくる。

裏拳でツッコミかけたフェイトに、気付かないソフィアがにへらっと笑う。
「薬作ってもらったんだー」
「……なんでゴッサムに」
「その場にいたから。……あと、話しても鼻で笑われないだろう、って」
「?」
ホテルの宿につき、備え付けの備品グラスがあった。それをとってきて封印もかねている紙のバンドもためらいなく破り捨てて、

「ぱんぱかぱーん ねこになるくすりー」

「!?」
「で、こっちは解毒薬ー」
硬直したところで、きっと誰も責めないと思う。
とりあえず、そんなフェイトに気付かないソフィアが、何と表現するべきか、浮かれたうきうきそのままにその「薬」とやらでグラスを満たした。
……フェイトの目には、それはやはり酒にしか見えないのだけれど。
とにかく、満たしたグラスをソフィアが軽く宙にかかげる。

どうやら、彼女が無茶を言い出したらしい。
――で、難題を押し付けられたゴッサムは、口先一つでそんなソフィアを追い払ったらしい。

まずは一口、ねこになる薬とやらのはずなのに特に何が起こったわけもなく。きっと確実にアルコールなのだろう、ただ一気に真っ赤になったソフィアの顔に。フェイトはひとつ、うなずいてみた。
――うん、きっとそれが合っている。
その推測が実際正解かどうかは、明日ファクトリーに殴りこんで確認することにしよう。

◇◆◇◆◇◆

うんうんと一人納得するフェイトに、いつの間にかぐっと距離を詰めた真っ赤な顔のソフィアが、
「フェイト、ねえ、ねこみみ生えた?」
「いや、そのまんまだよ」
「うー、しっぽも生えない……」
「そうだよなあ」
先ほどまで生き生きうきうきしていたのが、なんだか一気に暗くなった。一口じゃ足りなかったのかなとかなんとかつぶやきながら、さらにあおる。
期待して向いた再びのまなざしに、けれど彼は首を振って。
うなだれたソフィアを尻目に、解毒剤とか、先ほど言われてた酒瓶を見てみた。

なぜこれでソフィアがだまされるのか、封も切られていない単なる酒瓶。特筆する部分も何もない。
――まあ、渡した人間を考えれば惚れ薬系列でないだけ、幾分かマシ、か……?
……迎え酒でもさせるつもりなのかあのバカは。一度締めとかないと。

不穏なことを考えるフェイトに、よれよれと近寄ってきた人影。完璧酔っ払ったソフィアが半べそでえぐえぐやっている。
「ねこー……!」
「残念だったなあ。いやあ」
「わーん、フェイトのばかー!!」
「いていていて!」
そしてうんうんとうなずいたなら、やつあたりにぽかぽか殴られた。

◇◆◇◆◇◆

そうこうするうちに。
かくん、いきなり糸が切れたように、そんな勢いでソフィアが前のめりにつんのめった。目をみはっているうちに、それはもう完全に弛緩して倒脱力して――ばったり倒れかけるので。
「ソフィア!?」
あわてて肩をつかんで顔をのぞきこんでみたら。

――寝ていた。
それはもう、熟睡というか爆睡というかそんなレベルで。

――これは一体何なんだ、と。
遠い目をして、彼はそんなことを思う。
――まあ、妥当だろう。いつもは何があっても呑まない人間が、一気にだいぶ呑んだのだから。
遠い目で、脳みそはぐるぐるはたらいて。けれど思考はまともにまとまらずに、ただただそんなことを思って。

――どうしよう、この、無条件に彼に懐いてくる物体を。
――このままベッドに寝かせて、僕は買いものに……いやしかし、施錠はどうする?
――無防備そのままの今の彼女の前に、もしも不埒物が紛れ込んだりしたなら。
――どうする?

すやすやと平和に眠るソフィアを見下ろして。
……他の何も似ているとはいわないけれど、こんなワガママで無責任なところだけはなんだかねこっぽいなあ。
ぼんやり、フェイトはそんなことを思った。
……まだ中身のたっぷり詰まった「薬」入りの瓶を、ヤケまじりに空にしてやろうか。
そんなことも、思ってみたりした。

―― End ――
2006/04/07UP
フェイト×ソフィア
OFP
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Inzwischen
[最終修正 - 2024/06/25-10:14]