それは、そうかもしれないけれど。
いや確実に、そうなのだろうけれど。

―― Hemdsarmelig

「やだ、はなしてくださ……!」
何気なく町を歩いて、ふと高い声が聞こえてきた。声にはもちろん聞き覚えがあって、すぐにそちらに走る。
――町のこの辺はごろつきが多い、と。一応事前に釘を刺しておいたのに。
思いながら足早に向かって、そのつもりはないのだろうけれど邪魔な人ごみをかき分けたなら。三人ほどに絡まれ今にもかどわかされそうな栗色の髪のやさしげな少女が、それでも彼女なりに必死に抵抗していて。

「そこまで!」
「ま……マリアさん……!」
「……へっ、ねーちゃんあんたも来いよ」
確かにこういったごろつきには十分馬鹿にされるだけ、彼女も細く華奢で。それでも日々モンスターと戦っているのだ、大体、ソフィアひとりでだってこんなごろつきの三人程度なら、叩きのめすことのできるはず。
「汚い手で触るんじゃないわよ、下衆」
のびてきた手を蹴り飛ばす。手で触れることさえおぞましい。
「このアマ!!」
「マリアさ……!?」
三人のうち、一人はソフィアと揉み合って、こちらには二人。こんな程度運動にもならない。――キレた男がそのうちソフィアに刃物を向ける前に、

「――お前ら僕の恋人と仲間相手に、何してんだよっ!」
そして背後から怒声が上がって。あとは、まあ。

◇◆◇◆◇◆

「でも無事で良かったよ。声が聞こえてさ、うん、何もなくて良かった」
特に何ごともなく瞬時に三人を叩きのめした青髪の青年が振り返って、にこりとやさしく微笑んだ。笑顔を向けているのはたった一人、向けられている方が見ているのもたった一人。
確実に悪気はないなりに、ひとり彼女にはなんだか疎外感。
「ダメだろう、ソフィア。こんなとこに近寄っちゃあ」
「……買いものに出て……ちょっと道に迷っちゃって、」
――ごめんなさい、ありがとう。
しょんぼりしながら謝るソフィアの髪に、何気なく触れるフェイト。ぱっと手を離したならそこには髪飾りがついていて、重さに触れたソフィアが目を丸くする。
「プレゼント。
……怒ってないよ僕は。マリアも。ただ何かの間違いでもソフィアが嫌な想いをしてほしくないんだ」
「フェイト……」
名前は出たけれど、……ものすごく疎外感。

「はいはいごちそうさま」
馬に蹴られる気はないので、というかこの空気に飽きたので。邪魔者は退散しようと彼女は一歩脚を引いて、
「マリアさんも、ありがとうございました」
「あー、もういいから気にしないで」
ひらひら手を振ったなら、同性だって見惚れる砂糖菓子のような笑みをソフィアは浮かべて、
「フェイトが助けに来てくれるって分かっていたけど、まさかマリアさんまで来てくれるなんて思ってなかったです」
――あーはいはい……え?
「……だって、フェイトはわたしを好きなんだもん。でもマリアさんの方が先に来てくれるなんて」
――ええ?

◇◆◇◆◇◆

それは、そうかもしれないけれど。
いや確実に、そうなのだろうけれど。

なんてことのないようにほほえむソフィアに、いやあとなんだか照れるフェイト。わけが分からなくて唖然と瞬く彼女を、それを果たして分かっているものか、

――フェイトなら、わたしのピンチに助けに来てくれるから心配はしていなかったんです。
――うん、それに甘えていたかもですけど。
――でも好きな人を助けたいってよく分かるし。
――わたしだってフェイトのピンチにはもちろん駆けつけますし。

……それは、何というか惚気というやつなのだろうか。
反応に困って、というかソフィアの言葉がまるで理解できなくてむしろしたくなくて。そんな彼女にまるきり気付かないように、
ああ、いつの間にかカップルらしく手なんてつないでいるし仲むつまじく寄り添っているし、

「本当にありがとうございます、マリアさん。
フェイトもありがと、……でも、あんまり無茶、しないでね?」
「ソフィアのためだったら無理も無茶もなんでもないよ、無事で良かった」
「どういたしましてそれじゃあ私はこれで」

◇◆◇◆◇◆

――もう近くにいられない、そばに寄ってなるものか。
今度こそ踵を返した彼女を、呼び止める声はなかった。背後から――ただこう、なんと言うからぶらぶな雰囲気が漂ってきただけで。

――あの娘が、ああいう娘だったとは。
――もう二度と、助けるのはやめよう。

誓った彼女に、きっと罪はない。
フェイトとソフィアは、たぶん気付きもしない。

―― End ――
2006/05/13UP
フェイト×ソフィア
OFP
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Hemdsarmelig
[最終修正 - 2024/06/25-10:15]