猫の仔のようにくるくる表情を変える彼女が。
けれどどうか上機嫌でいてくれるなら。
そのための労力なんて、きっとなんでもないと心底思う。
なんだかいまいち会話がかみ合わないことは、実のところしょっちゅうある。
夢見がちなソフィアに合わせるにはどうやら自分は現実的すぎると、そう悟ったのはいつのころだったのか。それでも彼女のそばにいたいと、自覚したのはいつのことだったのか。
「ソフィアごめん! 本当にごめん僕が悪かった!!」
「いいよ別に悪いって思ってないのに謝ってくれなくたって。ふん、フェイトなんて大きらい!」
「悪いって思ってる!! 本当に思っているもうこの場で土下座してもいいくらい僕が悪かったから! だからソフィア、お願いだから機嫌直してくれよ……」
「いーだ、別に機嫌悪くなんてないですよーだ。それに別にわたしの機嫌が良くても悪くてもフェイトには関係ないでしょ!?」
「そんなことない関係あるに決まってるだろ! ソフィアの機嫌だぞ!?」
「……フェイトの大バカ!! すっごくおとなっぽくなったって思ったのに思っただけ損した!」
べーっと、それさえも愛らしい顔でソフィアが思いっきり舌を出してそっぽを向いて、フェイトはといえばそんな彼女のまわりをおろおろぐるぐる回っていた。
はっきり言うならフェイトは自分が何か悪いことをしたとは思っていなくて、けれど現実にソフィアがなんだか激怒している。となれば多分フェイトが悪いのだろうと、きっかけはともかくその後のどこかで彼女を怒らせたフェイトが悪いのだろうと、長年の経験からそう思った。
思ったので本気で土下座でもしそうな勢いで謝って、どうやらそれが悪いのかもしれないと思ったころにはいよいよ怒ったソフィアが大またで彼に背を向け去っていくところだった。
いつものことだ。
けれどいくらいつものことでも、小さな背中が遠くなっていくのを見送るのは彼にとってつらくてつらくてつらくて。
いつだって、ソフィアが怒ったなら悪いのは彼の、フェイトの方だった。
変えてみた髪形に、新しい服に気付かないフェイトが悪くて、
かわいいマスコットをかわいいと誉めないフェイトが悪くて、
おいしいお菓子を甘すぎるとケチつけるフェイトが悪くて、
怒ったソフィアに対してとりあえず謝ってみるフェイトが、モノで釣ってなだめようとするフェイトが悪くて、
やさしくて、ことソフィアに対してべたべたに甘いフェイトが悪かった。
女の子は難しい、フェイトはつくづく思う。
細かいところに目くじら立てるし、些細なことにも目敏く気が付く。
価値観の違いにやけに怒り出すし、その価値観自体がころころ変わっていく。
前回は喜んでくれたから、とそれをくり返したならむしろ怒られる。
理由を説明しようとすると、いいわけをするなとへそを曲げる。
苦労の割に、まったく割が合わないことのなんと多いことか。
けれど、どうにも彼はソフィアにべたぼれで。
割に合わないはずなのに、彼女が笑ってくれたならどんな苦労も報われる。
怒られるとなんだかへこむし、泣かれるとどうしたらいいのか分からない。
猫の仔のようにくるくる表情を変える彼女が。
けれど上機嫌でいてくれるなら。
そのための労力なんて、きっとなんでもないと心底思う。
本当に自分でもあきれるくらい、心底そう思う。
どうしてもどうしても、願ってしまう。
「ソフィア待ってくれよ、僕は何すれば良い? どうしたら機嫌直してくれるんだよ??」
「ほっといてよフェイトのばかぁっ!!」
追いかけて肩をつかんで熱っぽくささやいたなら、潤んだ目にきらいと言われた。言葉のあやだ勢いだとぐらぐら揺れる頭に言い聞かせて、だけど、と続けたなら。
さあ、きみはどう出てくれますか?
