「こんなもの、かな」
なじみの宿屋のいつもの部屋で、旅の間に雑多に押し込んでいた荷物をざっと整理し終わって、フェイトはやれやれとのびをした。ごきごきごき、と小気味がいいほど肩と首と腕が鳴る。
緊急事態からはじまった彼の旅も気づけばずいぶん長くなっていて、それに比例して旅荷も増えている。いつかやろうと思っていたものの面倒くさくて放置した結果、下手に手を出すことができないくらいの混沌と化していた。途中何度かそんな混沌に手を出して自分を呪ったものの、ずっと気になっていたモノを片づけたとなれば気分はいい。
「さーてと、あとはこれを売り払って……」
ぶつぶつつぶやきながら、いらないもの分類してあったアイテムをざかざかと適当な袋に入れて、よいしょ、とばかりに抱え上げた。
「……あれ? ソフィアはいかなかったんだ」
「ああ、フェイト」
宿屋のロビーにある見慣れた姿につぶやけば、声を聞きつけたのかすぐに笑顔がこちらを向く。ソファセットのテーブルに茶器があるとはいえ、渋い色のソファを背後に湯気はない。
「てっきりみんなと一緒に工房にいったもんだと思ってたよ」
「わたしも、フェイトは工房にいるものだとばっかり思ってた」
嬉しそうに立ち上がって、こちらに駆け寄ってくる。
「ずっとここにいたのか?」
「ううん、そんなことないよ。……ちょっと気分転換」
「ふーん」
明らかにうそっぽかったけれど、そこはあえてつっこまない。
「フェイトは……、」
「気分が乗らなくてさ、で、うっかりアイテム整理なんてはじめちゃったからずっとカンヅメ。さっき終わったから、売るもの売ってこようと思ってさ」
「あ、わたしもいきたい! 貸して、なにか持つよ……全部は無理っぽいけど」
「袋はこれしかないからいいよ。別にそんな重くないし。……じゃあ、いくか」
なんだかこういう時のソフィアって子犬っぽいよな、なんて考えながら、手伝いの手だけは断って彼女の歩幅に合わせて歩きだす。
エリクールに自動ドアなんてハイテクは期待できないけれど、動いたこちらにあわせて宿の人間がドアを開けてくれた。
考えてみたなら、ソフィアと合流してからまだそんなに経っていない。ずっと旅を続けていたフェイトはすっかり未開惑星にも慣れたけれど、ずっと監禁されていた彼女はいろいろ勝手がわからないのだろう。
この星の文化にも、そしてフェイト以外のパーティメンバーにも。
そういえば、この街に彼女が入るのは今日がはじめてだったのかもしれない。下手をしたら工房、クリエイションさえも。
「大丈夫? 重くない??」
「大丈夫だよ。とりあえず近くの店でこれ売るだけだし」
コンパスの差で、何も考えていないとおいていってしまうソフィアを気づかうのも久しぶりな気がする。幼なじみのカンを思い出して気持ちゆっくり、彼女にあわせる。
いきなり戦闘だらけの旅に駆りだされて、それでも文句ひとつこぼさないソフィア。今さら彼女をねぎらいたい、なんて本当に今さらだと思う。思うけれど気づいてしまったからには、少しくらい気を配りたい。
それくらいのこころの余裕くらいは持ちたい。
そんな気持ちを見透かしたわけではないだろうけれど、ソフィアがくすくすと笑う。
「……なんだよ?」
「あ、ううん。フェイトを笑ったわけじゃないの。
なんだか久しぶりだなー、って」
「え、こんなバーチャルシティに行ったことってあったっけ?」
「違うの、そうじゃない。
こうしてフェイトと歩くのが久しぶりだなって。そう思ったら、なんだか懐かしくてちょっと嬉しい」
「ただ歩いてるだけだろ」
「ただのそれだけが嬉しいの!」
こころを見透かされたわけではないのに、まるでこころを見透かされたようなことばに、思わず吐いてしまったぶっきらぼうなことばにさえソフィアは笑っている。
なんだかいじらしくて、両手が荷物でふさがっているのが惜しいようなありがたいような。
いくらなんでもこんな往来でうっかり彼女に抱きついたなら、いくらソフィアでも激怒するだろうから……やはりありがたいのかもしれない。
ここからいちばん近い店は、雑貨屋だっただろうか。
この大量のガラクタを売り払ったら、彼女が好きそうなねこのぬいぐるみ……ストラップでも買ってあげよう。そのあと雑貨屋を出たら、消費アイテムの補充をする前に適当な喫茶店に誘おう。
確かケーキがおいしい店があったと、いつか誰かがいっていた。
かわいいソフィアにそうやって甘いものをおごってあげたなら。
――もっとかわいく、甘い笑顔をくれるだろうか。
