それは、
それはきっと彼らなりの。

―― Trauer anlegen

ワープ時特有の不思議な光に照らされて、彼の金の髪がなんともいえない淡い色に染まっていた。光が踊るに任せて髪の色も変わっていって、それはとてもきれいだと思った。
きれいだけど、けれど淋しくて。
マリアはきゅっと唇を噛んだ。
「……よお」
ふっと振り返った彼が軽く手を上げて、口の端に浮かんだ笑みは、しかしいつもの野太いそれとはなんだか違っていて。
――窓の外が明るくて、逆光になった養父の顔が見えない。

現在地、戦艦アクアエリーの一角。
一行は現在なりゆき上、この艦に乗ってムーンベースに向かっている。

◇◆◇◆◇◆

「……まさかこの私が、客としてこの艦に乗ることになるとはね」
「お、なんだそりゃ。お前をリーダーにまつり上げたオレに対するあてつけか?」
「さあ?」
引き寄せられるように窓に近寄って、強化ガラスにそっと手をついて。マリアは口元だけで微笑んだ。
そのまま、窓の向こうの不思議に踊る虹色を見たまま、
「――でもどの艦も結局は同じね。軍事機密で行動制限されているのもあるけど、ディプロとあまり変わらないわ」
「探検でもしてたのか?」
「……ヒマだから」
静かに、どこまでも静かにささやいたマリアに。クリフの気配がなんだか戸惑っている。
戸惑ったまま何かをごそごそする音があって。
なんだろうと目を向ければ、居心地の悪そうな、いたずらのばれた子供のような青が彼女を映していて、
「……吸っても?」
「かまわないけど。どうしたのよそれ、普段持ち歩いてないわよね?」
「ん? ああ、さっき案内役のやつにもらった。一本で良かったんだけどな、封切ってねえ新品丸ごとくれてよ。さっすが軍人サマ、気前が良いよな」
――しかもライターに携帯灰皿付きだぜ。
そして思わずマリアが見守る前で。
彼女の知る限り喫煙の習慣がないはずの養父は。しかしやけに慣れた手つきで一本くわえると、自然な動きで火を点け、深く吸って、深いため息のように煙を吐き出した。
紫煙をくゆらせる姿が、はじめて見るはずなのにとても絵になると、そんなことを思って。
「どうせ目で脅したんじゃないの?」
思った口は、けれど可愛くない皮肉を吐き出す。

窓からの光にクリフの金の髪が揺れる。光が踊って、動いていない彼の髪が揺れているように見える。煙草のおかげで彼の姿がぼやけたようで、ぼやけた向こうに金の髪を踊らせるクリフが見える。
そんなはずはないのにそんな風に見えて。
マリアはまた窓の向こうに目を向けた。

◇◆◇◆◇◆

――白い光が空を灼いた。空と、そしてヒトの身体を灼いた。
――マリアの翠の目がいっぱいに見開かれて、クリフの奥歯がきしんだ音を上げて。
――何もできないまま、防ぐことも避けることも声を上げることさえできないまま。
――クォークの現リーダーと前リーダーの前で、
――彼らの身体が、崩れ落ちた。

「……何かをしていないと、落ち着かないのよ。だから、あちこちうろついてみたわ」
窓の向こうの踊り続ける虹色は、見続けていると目に痛い。
「動いていないと、余計なことばかり考えるの。どうしようもないことばかり、考えて、しまう……」
目がちかちかするから。
瞬いて、何度も瞬いてマリアは。痛む目元をそっと指でなぞった。
「あのとき、」
光が目に痛くて涙がにじむ。
「あのとき、何かができたはずだって。そんな風に思って、たとえ本当にできる何かがあったところでもうどうしようもないのに、過去はどうにもできないのにそんな風に思って、」
にじんだ涙につられたのか、それとも光のせいか。鼻の奥まで痛くなる。
「分かっていたはずよ。選択の余地はなかったし、もしも今時間が巻き戻ったところで同じことしかできないくせに、」
声が、息が詰まって。
――違う、泣きたいわけではないのに泣くつもりはないのに、
「――死なせるつもりで、殺すつもりであの場に連れて行ったわけないのに……っ」
耳に聞こえる自分の声は、まるで泣いているみたいで。

――泣いてはダメなのに。
――泣いて、立ち止まるわけにはいかないのに。
――心を、思考を。止めてしまうわけにはいかないのに。

思うのに、目の奥が痛い。鼻の奥が痛い。つんと痛くて、勝手に涙がにじむ。
視界がにじんで、踊る虹色までにじんでいく。
大きな手が、煙草のにおいが。ぽんと頭を軽くたたいて、さらに視界が潤んでいく。

◇◆◇◆◇◆

――フェイトが、あのときロキシを喪ったように。父を、家族を喪ったように。
――マリアやクリフだって、ある意味では家族以上だった仲間を喪った。
――何人も、たった一瞬で。

くしゃり、今度は髪を乱雑にかき混ぜられて。ちらりと見れば、青い視線はやはり窓の向こうを見ていて、それが安心して同時になんだか淋しくて。
細く息を吐く彼女に、そっと降る包み込むような、
「……別に泣いたって問題ねえだろうが。ため込みすぎるのはお前の悪い癖だぜ、マリア」
「泣いたってどうにもならないじゃない。今、思考を、歩みを止めたら彼らの死が無駄になるわ」
「だから、そうやって思い詰めんなって言ってんだよ」
あたりを照らし出す光。やわらかく、けれど冷たくただそこにある光。
流れて、散っていく紫煙。ゆらりと揺れて、手の届かないままどこかに消える。
「あいつらの死を悼んだところで、あいつらは喜びこそすれ、お前を恨んだりしねえよ」
「……私が、したくないのよ」
それは、まるで人の、亡くなった彼らの魂のようだ、と。現実主義のマリアの頭に、ふっと浮かんで消えていったそんな思い。
それを追い出すようにゆるく首を振って、クリフの手は彼女の青い髪をいじっていて、
「泣くのはいつだってできるから。でも、一度でも泣き出したらきっと多分なかなか止まらないと思うから。
だから全部終わってからって決めたの。それまでは何があっても先に進むんだ、って」
振り仰げば、煙草をくわえた養父は虹色の光の向こうを見ていて。きっとマリアには見えないどこか遠くを見ていて、
「――クリフが、そうやって煙草を吸って彼らの死を悼むように。これが私の悼み方よ」
自分でも分かっている、強がりでしかない笑みを無理矢理口元に浮かべて。

――クリフが紫煙の向こうに彼らを送り出すなら。
――マリアは、泣かないことで彼らの安寧を祈ろうと。

養父の口元がにやりといつものようにゆるんで、――そういえば軍人だった父も、軍支給のこの煙草を吸っていたな、と。
マリアはそんなことを思い出した。
「――言うじゃねえか」
だから普段ならきっと言わないことを言ってしまったのだろうか、と。
思うマリアの背をゆるく回りこんだクリフの手が軽く叩く。煙草のにおいに、クリフの大きな身体に包まれて、無骨な抱擁にマリアは目を閉じる。
――彼らの魂が、あるか分からない彼らの魂が。
――けれどどこかに漂っているなら、心安らかであるように、と。
――そのためならこの苦しみも哀しみも、耐えてみせるから、と。
マリアはそんなことを思って、

現在地、戦艦アクアエリーの一角。
客人として招かれた彼らを乗せて、ただ艦は永遠の夜の海を行く。幻想の光の洞を行く。

―― End ――
2005/09/09UP
クリフ+マリア
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
Trauer anlegen
[最終修正 - 2024/06/25-10:41]