懐いてくれるのはむずがゆい、自分を師と見られることにはくすぐったい。
それを素直に単純に言ったなら、それは「嬉しい」なのだけれど。
――だからと言って、こんなところまで真似をしてくれなくても、と。

―― Schulerin

「クリフ……!?」
マリアの悲痛な声に、遠退きかけた意識がなんとか戻ってきた。ぼんやりする頭とかすむ目で、けれどなんとか背後を見たなら。先ほどの声そのままの悲痛な顔をした養女がそこにいた。
半端にかまえた銃はまるで今にもそれを投げ出しそうに見えて、
――バカなことすんなオレは平気だ、
……ついそんな台詞を言おうとして、
「どこ見てるのよ!?」
「あ?」
がつん。
衝撃と、それと前後して見えた閃光。身体のどこがと思うことさえできない全身の激痛の中、いやこれは先ほどマリアを庇ったとき負った怪我だ、モンスターの攻撃にしては軽い、だったら何だ? ああ、さっきの閃光はマリアの銃か、敵はどこだ? くそ、血が目に……!
一瞬の間に無数のことを考えて、けれどどれもが結論の出ないままに今度こそ意識が闇に沈んだ。
――耳の奥に、マリアの悲鳴が残っているような気がして、それがひどく気持ち悪かった。

◇◆◇◆◇◆

「クリフ、あなたね……!」
「わーかった分かった。悪かったって言ってるだろ」
「分かってないわよ、本気で悪いなんてカケラも思っていないくせに!!」
「――だってよぉ、」
――身体が勝手に動くもんは仕方ねえだろうが。
言いかけて、けれど言葉を呑み込んだ。にらむように、恨みがましくにらみつけるように。けれどその翠の目にいっぱいの涙をためているマリアに、言葉が出てこなくなった。
「クラウストロ人は頑丈でしょう、クリフは中でも丈夫な方かもしれないわよ。でも、不死身じゃないのよ? 銃弾が見える動体視力にそれを避けられる身体能力、けど、もしも避けきれずにその銃弾が心臓にでも当たったなら、……死ぬに決まってるじゃない」
――演技でもねえこと言うなよ。
思ったけれど、舌がこわばって動かなかった。全身包帯でぐるぐる巻きで動きづらくて、先ほどほぼ無理やりに呑まされた体力回復の薬の味が口の中に居座っている。そんなもの普段の彼ならまるで無視できるのに、できないのはつまりそれだけ「ヤバい」状況だったのだろう。
そんなことを冷静に分析している自分の存在に、腹が立つ。
クリフの内面に気付かないマリアが、悲鳴のように声を張り上げる。
「守ってくれるのは嬉しいわよ、けどね!」
――石のようにかたまった腕を、ぎしぎし動かして、ひどく苦労してマリアの頭にぽふりと乗せた。丸きり子ども扱いの証明に、けれど今日のマリアは怒らない。
いや、すでに怒っているからかもしれない。
瞬けばすぐにでもこぼれそうな涙が、揺れた。きしり、彼女の噛みしめた奥歯が小さな音を立てた。
「……けど……! 私をかばって死んだりなんかしたら、許さないんだから……!!」
「――悪ィ……」
今度は罪悪感に謝れば、けれど翠はまだ怒っている。きっとずっと許してくれないような、クリフが変わらない限り本当には許してもらえないような、そんな感じがする。

――などというやりとりがあったのがつい先ほど、一行はまたしても別の一団と戦闘をしていた。一行を見つけるや否や近寄ってくる敵が山ほど、全部を避けられるほど全員が隠密に長けているわけではない。
ので、まあ戦闘は仕方がないにしても。

◇◆◇◆◇◆

「マリア!? お前何やって、」
「だってクリフは病み上がりでしょう。仕方ないじゃない」
言葉どおり確かに頭は貧血にふらつく。けれど彼の前に盾になるように立つ養女より、まだ今の彼の方が打たれ強い。
きっと牽制目的の光弾は外れて、土煙がふわりと舞って、
「……知ってるもの」
「ああ!?」
細い肩をつかんでどかそうにも、心配したくなるほど軽いはずのマリアが、そのときはなぜかびくとも動かなかった。もう一度力づくでもと思ったところでとうとう敵が突っ込んできて、まず一撃をかまえた銃身で受けるマリア。そのまま流れるように蹴りを放って、当たったけれどダメージが走らない。
「知ってるわよ、勝手に身体が動くのよね。仲間を、誰かを守らなきゃって思うと、どんな無茶でもするのよね」
別の敵の横手からの攻撃を、バックステップでかわす。少しだけかせいだ距離で、両手にかまえた銃のトリガーを引く。瞬時に放たれた光の弾が、追撃しようとした敵二対に突き刺さって、けれど一撃では倒れない。
かわいらしい顔に似合わない、マリアの舌打ち。
「どんなに心配しても、生きているからいいだろって笑い飛ばすのよね? 知っているわよ!!」
――いつもは中、遠距離で戦うくせに、なんて無茶を。
焦るのに、もちろんクリフだって暇なわけではない。同時に三対を相手しながらでは、マリアのフォローに回ることができない。
「知っているわよ、いつも自分のこと忘れて誰かの攻撃かわりに喰らって血みどろだってことくらい。安い回復アイテムこっそり隠し持って、時々それで回復して平気な顔してることくらい、知ってるわよ!!」
細い足がしなって、けれどダメージがやはり微々たるもので、最悪なことにその足首をつかまれた。それでも取り乱したりせずに瞬時に銃をかまえて、その顔を射抜く。のけぞり、すぐに脱力する敵から足首を取り戻しながらそのまましゃがみこんで、ついさっきまで頭のあったあたりを行き過ぎる太い腕、
いつの間にどんな攻撃を食らったのか、彼女がせき込んで少し血を吐いた。
「だから、無茶するなって言って、全然通用しないなら思い知らせるしかないじゃない!!」

◇◆◇◆◇◆

――ああ。

――ああ。懐いてくれるのはむずがゆい、自分を師と見られることにはくすぐったい。
――ああ。それを素直に単純に言ったなら、それは「嬉しい」なのだけれど。
――ああ。――だからと言って、こんなところまで真似をしてくれなくても、と。
思った。

戦い方はもちろん違う、けれど彼の行動パターンを真似しなくても。
自分でも悪い癖だと分かっている、それを真似てくれなくても。
せめてこの手の届く範囲は全部完璧に守る、そんな自分の中への誓いを、
――真似なくても、良いのに。

心底思う。
心から思う。
エゴだと分かっていても、祈ってしまう。

――無茶するのはオレだけでいいんだ。
――お前は、ただオレに守られていてくれれば、

「そんなワガママ聞くわけないでしょう!?」
口に出した覚えはないのに、絶妙のタイミングで一喝されて。
見えてくれなくてもいいのに、敵の攻撃の勢いにやられたのだろう。

青い髪が数本、宙に漂ったのが見えてしまった。

―― End ――
2006/04/08UP
クリフ+マリア
OFP
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Schulerin
[最終修正 - 2024/06/25-10:41]