嘘でいい、おざなりでいいから。

―― Radiator

青い目が怒っている。……怒られるだけのことをした自覚はあったので、気まずくなって目をそらす。
その目が何かを言いかけて、怒鳴られるのかとびくりと勝手に身がすくんで、
――けれどなにも言ってくれなくて、それが逆に胸に痛い。

「……マリアさん? どうしたんですか、なんだかふさぎこんでるみたいですけど」
「……どうかしたのよ。説明したくないから、ほっといて」
心配してくれたのに、つっけんどんな声で返してしまった。栗色の紙の少女はしゅんとうなだれて、マリアの胸に罪悪感が広がる。
――何をしているのだろう。
――私は、なんて、
唇をかんでうつむいて、ふいとそっぽを向いた。うなだれた少女はうなだれたままとぼとぼと歩いていってしまった。いよいよ情けない自分に、マリアはいっそこのまま消えうせてしまいたいと願う。

◇◆◇◆◇◆

無茶をした、自分の身を守ろうとしないで敵陣に突っ込んだ。
ただでさえ接近戦がそう得意ではない彼女は、けれどいつものように中距離遠距離から攻撃と援護をしたりしないで。なぜかその日は壁役の男たちに混じって敵陣に突っ込んでいって、
大きな怪我こそ負わなかった、けれどそうして――クリフを怒らせた。
意地っ張りな性格がなかなか謝らせないで、だから、この三日。
……彼とは目線も合わせていない。

やさしい彼を知っている、あるいは亡くした父親のように、自分を愛してくれている彼を。たいていの無理難題だったら仕方ねえなと笑ってくれて、かなえようとしてくれる彼を知っている。
豪快で大雑把で兄貴分で頼りになって、本当は冷徹な一面もあって、誰より信頼に足る彼を。
けれど、あのときの自分はそんな養父を信じていなかった、冷静な頭は分かっている。

――あるいは、死を。
選ぼうとしていた、自分も。

◇◆◇◆◇◆

たぶんいっぱいいっぱいなのだと思う。いろいろあっていろいろを知って。誰かに頼ってせめて愚痴を吐けばいいのにそれをしないから、容量オーバーの頭は追い詰められて、衝動的に発作的に敵の前に飛び出した。いろいろあって疲れているのは事実で、多分疲労は自覚している以上に深くて、理屈なんてどうでもいい、ただ今の自分は誰も信じられないのだと思う。
――馬鹿みたいだ。
ヒステリックにわめき散らした方がまだ何倍もマシだと分かっているのに、
強いようでいて弱い彼女に、そんなことはできない。

◇◆◇◆◇◆

ぽつん、いつかひとりきりで突っ立っていた自分に瞬く。周囲に誰もいない、そもそもなにもない。真っ白な平原にただ突っ立っている自分に瞬く。
――これが望んでいたことでしょう?
機械みたいな声がどこからか降ってきて、ああ、ここには風さえもない。
どこに行けばいいのか分からない、何を考えればいいのかも。自分の望みさえ見えなくて、ざわざわと、心ばかりが悲鳴のように騒ぐ。
――だって、これを望んでいたんでしょう?
――ここには、私しかいない。
――私をかき乱すもの、私を傷つけるもの、何もかもがない。
――望みどおりでしょう?
――空虚な、この世界が。
天から降る声はどこまでも冷徹、ああ、けれど声は自分の声だと、それは分かって、

白いだけの平坦な世界、確かに望んでいたはずの世界。
けれど、何もないこの世界は。
――ここに立つマリアさえ、世界の中心の彼女さえ、拒絶して受け入れない。

……ああ……!

◇◆◇◆◇◆

「……マリア!?」
「やだ……ひとりは、いやよ。おいていかないで、ひとりは、」
「マリア?」
瞬いた視界には、青。三回瞬くころにはどうやら夢を見ていたと知って、寝ぼけていたと知って、そんな自分が気恥ずかしい。
きっとほほを赤くしたマリアの頭を、苦笑したクリフがわしゃわしゃとかき混ぜる。
「……寝ぼけたわ」
「あんなわがままならいくらでも聞いてやるけどよ?」
「寝ぼけたの!」
ムキになったマリアに低く青い目が笑って、たぶんうなされていた自分を心配してくれたのだと分かる。
「意地っ張りなお前は知ってんだよ。強がりだけで大抵のことはどうにかできるお前をな」
「……何」
「別に? 知ってて怒ったオレが大人げねえな、ってな」
返す言葉が見つからなくて、ただ瞬く彼女に青は笑ったまま、
「分かってると思ってるけどよ、不満ぶつけろよ。どうにもできないわがままに困るのも、まあお前になら振り回されてやるから」
「……何よ、それ」
「何だろうなあ?」
怒っていたはずの青い目は笑っていて、この三日何も言ってくれなかった彼はそれでも今やけに饒舌で、

――嘘でいい、おざなりでいいから。
あきらめながらどうしても願っていた彼女の望みを、なぜだか知って口にしてくれたようで、

「ひとりになんかさせるかよ。……お前が嫌がっても、お前はオレの、オレらの娘なんだから。
クォークのリーダーだってお前で、今お前がいなくなったらクォーク全員路頭に迷うぜ?」
言って、いたずらっぽく片目が閉じられて。

◇◆◇◆◇◆

「……馬鹿じゃない」
「バカだよなあ。しかも本心から言ってるんだぜ」
低い声が笑う、太い声が彼女を呼ぶ。何ごとかと思って顔を上げたなら、
「もう少し、寝とけ。明日も強行軍だ」
視界を大きな手にふさがれて。

疲れていたはずだ、衝動的に死を選びたくなるほどに。
けれど。
――たぶん疲労はまだまだ解消されないまま、それでも内にこもっていた不快な熱が。

彼の言葉で、たしかにその温度を下げた。

―― End ――
2006/10/23UP
クリフ+マリア
OFP
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Radiator
[最終修正 - 2024/06/25-10:42]