その青に、ふざけの色はまるで混じっていなくて。
――なんてふざけたやつだろう、と。思う。
「――なあ、ネル。賭けをしねえか?」
「……は?」
最初にその話を持ちかけられたのは、一体いつだっただろう。確かまだ三人で旅をしていたころで、ひょっとしたら警戒心をむき出しに、それを隠そうともしなかった、本当に最初のころだったかもしれない。
それが「いつ」だったかは忘れてしまったけれど、話の中身はよく覚えている。
「……なんだい藪から棒に」
「いや、別に深い意味はねえんだけどよ?」
青い目が、笑っていた。笑っていたけれど真剣だった。口元はにやにやと笑みのかたちに持ち上がっていて、けれど目はまっすぐだった。
「――そうだなあ……この天気が、いつ回復するか」
「……あんたね」
――ああ、そうだ。確かその日はかなりひどい嵐で。先を急ぎたかったけれど、雨がひどかったから出発をのばしていたんだ。
「いや、別にもっとゆっくりしてたいとか、そういうんじゃねえ。この時間まで、てライン引いてよ。それまでに回復するかしねえか、
……何だよにらむなよ罪もねえ遊びだろう」
「あんたが言うと、何かがうかがい見えるような気がするね」
「ひっでえなあ、そんなことねえぜ?」
憤慨したような声と顔、すくめられた広い肩。
――そうだ、確かそんな会話だった。結局どちらがどちらに賭けたのか、指定した時間はいつだったのか。その結果はまるで覚えていないけれど。
ただ、
「負けた方が勝った方の命令を一つだけ聞く、てのは? 拒否権ありで」
ただ、そんなことを言ってイイ笑顔を浮かべた彼は、印象に強い。
きっかけはそんなので。
けれど何が気に入ったのか、それから以後、クリフは何かあるたびになんだかんだとネルに賭けを持ちかけるようになった。勝ち負けはどうでもよくて、――ただ話かけるきっかけがほしかったのだ、と最近のクリフはそんな風に言う。
馬鹿馬鹿しい、と思いながらも乗るネルもネルで、
――そのときの気持ちに色をつけるなら、果たして何がどういう色になるだろう。
――一体何を考えて、ネルはその思い付きにノっているのだろう。
そんなことが何度かくり返されたから。
そうだ、付き合いが長くなってきたのもあるけれど、あまりに何度も賭けを持ちかけられるから。その賭けも、たとえば天気のことだったり、たとえば――たとえばそうして二人で話をしている間、二人の先を歩くパーティリーダーが果たして振り返るかどうか、とか。
そんなどうでもいい時間つぶしの賭けが何度もくり返されたから。
大体どちらも同じくらい勝った負けたをくり返していたから、
だから、
「――なあ、ネル。賭けをしねえか?」
だからその日そう持ちかけられたとき、思ったのは、
「――またかい?」
そんな言葉。
勝てないかもしれない賭けをなぜいつもいつも持ちかけるのか。そんな疑問で。
「どんな賭けなのさ?」
「ええと――そうだな、とりあえず条件はいつもどおり勝った方が負けたほうに、ってヤツで、」
「……うん……?」
言いたいことが読めなくて眉を寄せたなら、
珍しく真剣そのものの青が、向いていて。
「オレが勝ったら、ネル、お前オレに「好きだ」って言ってくれ」
「…………は……??」
その青に、ふざけの色はまるで混じっていなくて。
――なんてふざけたやつだろう、と。思う。
「心がないなら、そんなの意味ないじゃないか」
「そうだな――いや、それでも、」
――それでも、たとえうそでも冗談でも、言ってほしい言葉ってのはあるぜ。
真剣でふざけた目に、戸惑いの色はなくて。すでに決まったことをただ報告しているよな、そんな淡々とした声で。
そして、
――そんなこと言うなら、あんたがあたしに真面目に告白すりゃいいんじゃないか。
そして、ふと浮かんだそんな利己的な考えで。
「……そうだね? それじゃあ、賭けの中身は……?」?」
突拍子もないことを言いはじめた彼に、けれどおだやかな声でネルは返していた。心はまだそこまでいっていないのに、多分彼に向いていないのに、それなのに。それなのに、
――それなのに、彼の悪ふざけに付きあってやろうなんて。
――どさくさにまぎれて、彼の方から真剣に何か言ってくれればいいのに、とか。
ふざけているのは、一体どちらだろう。
そんな冗談嫌いなはずなのに。
それなのにあたしは、
――あたしは、
