それでも。
彼女と花はよく似合うから。
花と彼女はとてもよく似合うから。

―― Irrefuhrend

「よぉ、ネル。……まだ仕事か? よく飽きねえもんだな」
「飽きる飽きないじゃないだろう、それがあたしの任務なんだから」
「へーへー」
こりゃ野暮なこと言いまして。
大きく肩をすくめたクリフに、呆れを隠さない紫が振り返って――ふと、目を止めた。彼女の目がどこを見ているのか瞬時に分かって、柄にもなく少しばかり照れながら、彼はそれを差し出す。
殴られた。

「……このバカ! 何やってんだい!!」
「ってー……何もいきなり殴るこたあねえだろうがよ」
途中だった書類を放り出して、ついでに握っていたペンも放り出して。たった今彼を殴ったげんこに目を落としながら怒りにふるふるするネルに、クリフは唇をとがらせた。
反省の色がないと色めき立つだろうネルはもちろん承知の上で、想像通り彼女の顔にかあっと血が上る。
「モンスターの全力攻撃喰らってもぴんぴんしているヤツがこのくらいで何言って……じゃないよ! あんたこれどこの、」
「別にやましい理由で手に入れたんじゃねえよ!」
きっと延々続くだろう愚痴を、少し大きめの声で遮る。ぴたっと声が途切れて、けれどまるで信用していないじとっとした目に、普段自分はどんな目で見られているのかと少しばかり落ち込んでみる。
同情の言葉はなくて、ただ無言で促されて。
彼は手に持ったものを――今を盛りに咲き誇る淡い色の花をつけた木の枝を、見下ろした。

ごついイメージの枝に対して、可憐という言葉がよく似合う小さな花々。枝が黒っぽい分、花の白さがひときわ目立つ。少し揺らせばはらはら小さな花びらが揺れて舞って、ただたたずむのもそうして花を散らすのも、すべてがひどく絵になって。
この星の花で、クリフはその名前を知らないけれど。
けれどきっとそれを美しいと思う心は、どんな人間でも同じだと思う。

◇◆◇◆◇◆

「――することなくて散歩してたら、」
「うん」
「あっちの公園通り過ぎて、なんだか高級住宅地? で泣き喚くガキに会った」
「……公園?」
「いや、向こうの。……広場か? よく知らねえけど」
「いや、どこのことか分かったよ。……で?」
「暇だしやかましいからワケ訊いてみたらよ、風船が風に飛ばされたとかで、指差す方見たら確かにあったんだよな。赤いのが、どこぞのお屋敷から出っ張った木の枝に引っかかって」
そこまでで大体事情が呑み込めたのか、少しばかり気まずい顔になるネルにクリフは気付かないふりをして、
「ガキにとっちゃ大した高さでもよ、オレに取っちゃどってことなかったし。だからちょいとジャンプなんぞして取ってやって、ちょうどそれをガキに手渡してやったあたりでガキのおふくろさんとかがやってきた」
「……うん」
「「ああ、ありがとうございますどうもご親切に!」「いや別にかまわねえよ大したことしたワケでなし」「まあ! なんて謙虚な方なんでしょう!!」」
「……いや、大袈裟な声真似はいいから。むしろもう説明は、」
「「ぜひともお礼をしたいですわ!」「別にかまわねえって」「そういうわけにもいきません!!」「あー……訊くけど、この木ってあんたんちの?」
……おふくろさん、ちょうどそのお屋敷の入口あたりから歩いてきたんだよ」
「――もういいよ」
「で、「そのとおりですわ。あの、何か?」「じゃ、ちょうどいいこの花ちっとくれねえかな?」「まあ、そんな程度でよろしいんですの!?」「じゅーぶんじゅーぶん、」……いて」
「だからもういいって言っただろう!?」
きっと照れ隠しも入っているのだろう、真っ赤になったネルに再び殴られて、大して痛くもないそのこぶしに声を上げれば。怒ったのと呆れたのと気恥ずかしいのといたたまれないのとその他、まとめていうなら何というか、ういういしい愛らしいネルがぷいとそっぽを向いた。

◇◆◇◆◇◆

にやり、勝手に持ち上がる口の端をどうにも誤魔化すことができない。
「……別にやましいことして手に入れたわけじゃねえよ」
「分かった……分かったよ。
――早とちりして、悪かった」
……紛らわしいことするんじゃないよ、ガラじゃないだろう。
照れ隠しに決まっている言葉、つぶやくようなささやくような悪態。聞こえていたけれどわざとらしく、
「あ? 聞こえねえなあ」
「調子にのるんじゃないよ!!」
そして耳まで赤くなったネルが振り上げた手を、細い手首をクリフがつかんだ。ぴくんと震える彼女に、つかんだその手に。
持っていた花のついた枝を、握らせる。
「……いいじゃねえか、調子に乗ったって。俺が持っても荷物にしかならねえけど、お前だったら……うん、似合うぜ」
「ば……!」
「振り回すなよ、……花が散る」
「……っ!!」

からかう気持ちと、半分は本心でつぶやけば。くやしさいっぱいのネルが、真っ赤な顔を花の中に沈めた。動きで指摘どおりに花びらが舞って、けれどそれも、いや、彼女がいるからこそそれはとても絵になって。

◇◆◇◆◇◆

「なんつったっけ……これ地面に植えたら、木が生えるとか?」
「挿し木かい? ……ばかだね、たぶん無理だろう」
「そっか……悪いことしたかもな」
「…………ばか」

それでも。
彼女と花はよく似合うから。
花と彼女はとてもよく似合うから。

花に顔を埋めて、真っ赤な顔でささやくようにつぶやいたネルに。
クリフは笑った。

ただ花びらが舞って、そんな中にいるネルはきっと何より愛らしいと。
そんなクサいことを、
――何となく思ってみる。

―― End ――
2006/04/04UP
クリフ×ネル
OFP
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Irrefuhrend
[最終修正 - 2024/06/25-10:48]