多分相手が彼だからこそ。
――ムリだろう?
そう言って笑ったクリフが、腹立たしいくらいその笑みが見事で。
――だからオレに任せろよ? ひとには向き不向きってもんがあるんだからよ。
続けて言った台詞は、きっと確かにそのとおりで。
――無理するなよ、タマには頼れって。
そう言ってくれるのは嬉しくて、慣れないけれどそうしてもいいかなと確かに思って。
けれど。
けれど無理だと断定されるのは、この上もなく不愉快で。
「面倒に巻き込んで本当にすまないね」
銅鉱を採りに行く最中、青髪の青年が手に入れたライトストーンをものめずらしげに眺める背中を見ながら。ネルはふと、一歩うしろに立つクリフにぼそりとつぶやいた。
「……いまさらじゃねーか。別にどってことねーし」
「それでもさ、すまないとは思ってるんだ」
アーリグリフの地下牢から助け出したことはともかく、その後ネルは彼らに迷惑をかけどおしで。地理に明るくない右も左も分からなかった彼らでも、一緒に行動してきたこのしばらくで、少なくともこの男がいればどうにでもできただろうとネルは思う。
どうにでもできた彼らを、ただ地下牢から助け出した、それだけで彼女の彼女たちの面倒に巻き込んで。花売りの少女の一件も確かにあったかもしれない、けれど嫌がっていた青年を結局は武器作りなんかに巻き込んで。
――本当に、すまないと思う。
だから、思ったこころのままに、たった一言、それでも万感をこめて謝ったのに。
「それがおまえさんにとって最良の選択ってヤツなんだろ?
アーリグリフに落っこちてきたオレらの存在知って、イーグルの……あの艦の性能知って、未完成だった紋章兵器を完成させるだけの技術力を嗅ぎ取って。地下牢からオレら助けだして、部下をおとりにアリアスに駆け込んで、でもその部下見捨てられなくて。
何回くり返したって、おんなじ選択おまえはするだろ? 別の選択なんて、ムリだろ??」
「……なっ、」
「悪いとは言わねえし、言えねえよ。オレにだって、正しいとか間違ってるとかじゃなくて同じ選択すること山ほどあるし。
だから気にすんな」
いつでもへらりと笑っている男が、そう見せている男が、けれどその時浮かべていた笑みがなんだか見事だった。野太くて、思わず頼らなくてはならないと思わせるような。ネルにさえ、この男に頼りたいと思わせるような。
何か胸にうずく何かを生むような。
「オレに、オレらに任せとけよ。今のオレはフェイトのおまけだけどな、一度手伝うって決めた以上は、全力でサポートするぜ」
――そろそろ行こう、と、青年が声を上げて。それに手を上げてぞんざいに応えながらクリフが笑う。
「ネル、おまえって不器用だろ? 手先が、じゃねえ、人間として。
それって悪いことじゃねえぜ、確かに生きてくの大変かもだけどな。だからまあ、大船に乗った気持ちで任せとけ」
軽く促されて、むっとしながらぽかんとしながらネルが足を踏み出して。そのすぐ後ろを、彼女の背中を守るかたちにクリフが追って。
「強いとか弱いとかじゃねえ、そういう観点から見りゃおまえさんは十分強いしな。
けどまあ、向かねえことってのはあるからよ。これはそういうことなんだって、開き直っとけ。いまさら謝らなくていいからよ」
背後の、圧倒的な熱を感じる気がする。それはくすぐったくて安心して、けれどなんだか悔しくて。
「いつもってのは束縛されてる感じでなんだかいやだけどな。たまにだったら大歓迎だぜ」
顔を見ることのない、ただ彼女にだけに響くこの声が、嬉しくてくすぐったくて腹が立って。
「……たとえ無理だとしても、無理だって言われるといやになるね」
「ほう?」
「忘れな、愚痴さ。……行くよ」
何が腹が立つかといえば、多分彼の言葉通りで言い返すことができない、そのことだから。
ぼそっとつぶやいて、あとはネルは暗闇に青い髪を追う。
――頼ってもいいかもしれない、この男にだったら。
多分相手が彼だからこそ。
そんな風に思ってしまった自分に、多分いちばん腹を立てながら。
