安心して休んでほしい。
そしてどうか、よい夢を。

―― Haftenbleiben

「……ったく……」
今まで平和な世界に生きていれば当然、パーティ内で一人弱かった少女が。それでも彼女なりにがんばって戦場に立っていたのが、魔法の使いすぎで気絶した。崩れ落ちた少女にまず幼馴染のパーティリーダーがあわてて、けれどひと一人運ぶには少しばかり筋力が足りなかった。というか、筋力の問題より先に体力ががんがんに減りすぎていた。
細身の割に体力も筋力もそれなりの男は、自分から荷物を抱え込む性格ではなくて。
いくら男顔負けに戦うとはいえ、パーティリーダーと同じくだいぶ疲労のたまっている女性に大荷物を運ばせるわけにもいかなかった。そんなこと男の沽券が許さない。
――そんなわけで、クリフがソフィアを運ぶことになった。
ソフィアに変なことしたら殺す、と碧の目がとてもとても怖かったけれど。
背に負った大したことのない重みに、なんだかほんわかしたものを感じたのは事実だった。

◇◆◇◆◇◆

「……ったく、なあ? 怪我しまくりのオレが言ってもどうかと思うがよ、もちっと配分、てのを覚えろや、嬢ちゃん」
ぼやくように、気絶した少女に話しかける。先頭をずんずん歩く彼女の幼馴染は目に見えて機嫌が悪く、その本人にも、原因になった彼女――を背負ったクリフにも、仲間たちは寄ってこない。
けっこう薄情だ。
ともあれそうなるとひたすら暇で、だからクリフは相手の意識がないことを承知でぼやいていた。彼の性格から説教はガラではないから。むしろ意識を失っているからこそ、ぼやくことで言い聞かせていた。
「嬢ちゃんが入って、回復の術を覚えてくれて楽になったのは事実だぜ。そこは誇ってくれていい。――簡単な術はネルとかも使えるけどよ、あいつは戦う方……じゃねえな、その前の敵の情報持ってくるのが本職だからよ」
ずり落ちかけた彼女をよいしょと引き上げる。そういえばいつの間にか彼女の手が服をつかんでいるようで、本当は邪魔でしかないはずなのに、それがほのかに嬉しいのがどことなく変な感じがする。
「だから、別に無茶してくれなくても、嬢ちゃんがいるだけで助かってんだよ。無理にメンバーの体力回復させて、そこに敵の攻撃食らってぶち倒れたとはなあ……」
そうしてつかんだから、ひょっとして意識が戻ったのかと。ちらりと見れば翡翠色の目は伏せられたままで、まあそうだろうなあと息を吐いた。
「ま、無理しなさんなってことだ。フォローはするし、本当なら嬢ちゃんがぶち倒れる前に回復アイテムとか渡しときゃ良かったんだよな。
気付かなくて、悪かったよ」
てくてく行く道は、そういえば舗装されているわけでもないでこぼこの道だ。連邦の本拠地、地球に暮らしていた彼女にはそれさえもつらいだろうに、それでも文句ひとつ上げることなく付いてきているわけで。
そうか、倒れた原因はそこにあるかもなあと、クリフはうかつな自分に息を吐いた。
「……なあ、嬢ちゃん、」
――あのな、
……続けようとした言葉は、けれど、
「――敵だっ!!」
パーティリーダーの声で途切れて。

◇◆◇◆◇◆

「ちとここで待っててくれよ、すぐに片付けて……と?」
当然のように彼女を下ろして、道の脇にでも座らせておこうとしたクリフは。けれどそうしようとしたところでしゃがみかけたところで、ふと気が付いた。
……なんだかひもが、ソフィアと彼とを結び付けている。
これでは、素早く下ろすことはできない。というか、素早くなく下ろそうにも、結び目が見えない。
こんなことをするのは、
「おい、マリア!?」
「いいからそこで待ってなさい! このへんのモンスターなんてみんな雑魚じゃない、クリフが出ばらなくてもどうにかなるわよ!!」
心当たりこと養女を呼べば、銃をかまえてのったり駆け出しながらの、なかなかに的確で辛辣な台詞。多分大雑把なクリフがソフィアを取り落としたりしないように、と考えてのことだろうけれど、
「ついでにあなたも休んでなさい!! 基本体力ありあまっているのは事実でも、そろそろきついんでしょうっ!?」
そう思っていたのに、どうやら別の理由まであったようで。いつもながら抜け目のない養女に、クリフは舌を巻いた。
見れば、確かに相手モンスターはここあたりに出没する雑魚敵だったから。だったら確かに加勢しなくてもすぐにどうにかなるか、と、何となく仲間はずれ間を味わいながらひもをいじるのをやめる。
「やれやれだ……」
何となく、息を吐く。

剣戟に術の呪文、悲鳴に罵声。なかなかに騒がしい中にかすかに混ざるのは、背負ったままの少女の吐息。気を失っているというよりは、深い眠りに付いているような。心底安心して、彼のそばで休んでいるような。
よいしょと改めて引き上げて、首筋に当たるそれがかすかにくすぐったい。やわらかな重みとその呼吸に、なんだかほっとする。
すぐそばで仲間が戦っていて、それが見えているのに。一人勝手にささくれた心を癒されているようで、むしろなんだか罪悪感が、
「……なあ、嬢ちゃん」
そんな感情を誤魔化すように、クリフはぼやく。そしてかりかりと頬を掻きながら、
「オレらに可能な限り、嬢ちゃんはちゃんと守るからよぉ。だから、……そんなに無茶しねえでくれよ。
おっと、こりゃオレの勝手な意見だぜ? 他のやつら、フェイトあたりの意思がどうとかは知らねえんだがよ、」
背負われたソフィアの身体がぴくりとふるえたのは、きっと気のせいだったのか。そう思うことにして、届くはずのない気絶中の彼女に、クリフは、
「オレらが守るから、無茶しねえでくれ。別に無理に戦いに慣れなくても良いんだよ、嬢ちゃんは「普通」の世界で生きてくれていいんだ。
本当はこんな旅に引きずり回したくもねえんだが、さすがにオレらにゃ特殊能力ねえからなあ……」
ため息のようにぼやく。
「嬢ちゃんは嬢ちゃんでいてくれや……それがオレの願いだよ」
彼の服を握る手に、きゅっと力が入ったのも――そう、きっと気のせいだと思う。

◇◆◇◆◇◆

やがてあっけなく戦いは終わって、あーやれやれ疲れた、おいクリフ、ソフィアは無事だろうな、などと言われて、あったりめえだろうがオレを誰だと思ってやがんだ、などと返して。
またゆっくり道を行きながら。

――安心して休んでほしい。
――この背ならいつでも貸すから。
――守るから、守りきってみせるから。

背負った少女の寝息に、どこかほっと息を吐いて。クリフはもう一度、よいしょと彼女を引き上げる。

――どうかどうか、よい夢を。

華奢な温もりに、笑いの息を漏らす。

―― End ――
2005/12/04UP
クリフ+ソフィア
OFP
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Haftenbleiben
[最終修正 - 2024/06/26-14:21]