何もできないわたしだけど、ほんのちっぽけな力しかないわたしだけど。
ひょっとしたなら、何かができるのかもしれない。
何かできることが、あるのかもしれない。
FD界からエリクールに降りて、自分たちが電脳の住人だという夢物語が事実と突きつけられて。それを否定する根拠がなにもなくて見つからなくて、ふらふら動いたパーティリーダーを。何気なく追って気付けば一行は森の中にいた。
闇雲に先に進むにつれて一行の中、数名の表情がさらに暗くなったりさらに強張ったりさらに剣呑なものになったり。もちろん自身もショックを受けていたけれど、ソフィアはそれよりもそちらの方が気になって。
――なんだろう、どうしたのだろう。
――この先に、何か……?
彼女にとってははじめて来る場所で、先導するようにふらふら歩くパーティリーダーの、幼馴染の足はここを見知ったもので。考えても分かるものではなくて、誰かに訊ねることのできる空気でもなくて。
分からないまま一行の歩みに足を合わせる。
やがていくつめかの曲がり角の向こうには、
「おはな……ばたけ……?」
人の手の加わらないだけに雑然と、けれど今を盛りに開いた花々。深い森の奥、そこだけ開けた空間にぱらぱらと咲いている。
「ちょっと、ここで休憩しよう」
つぶやくような幼馴染の声に振り返れば、すでに一行は思い思いにばらばらになっていて。きれいな花を見て心を和ませるにしては、数名の表情は先ほどよりもさらに重く硬く厳しいもので。
それがなぜなのか、ここで何があったのか訊ねることができないままに。
さくさくふらふらと歩いたソフィアは、ふと、
「……?」
素朴に咲く花々の中、ふとその一角に何か違和感を覚えた。何が引っかかったのかも分からなくて周囲とそこを見比べた彼女は、小首をかしげてそこにしゃがみこんで、そこだけ妙によれよれと茎の折れた花が草が多いことに気が付いた。
「何か、が……?」
何か、もしくは誰かが。ここに倒れこんだりしたのだろうか。だから花の茎が折れて、それがなんとなくの違和感の正体だろうか。
思っても、答えを知る人間は、
「……あれ?」
「おう、嬢ちゃん。どした? 気分でも悪くなったか??」
いつの間にか、背後に大きな人影があった。ちょうど視界に花畑とソフィアをおさめるようにしていた彼が、クリフが。まるで困ったように、おだやかに笑う。
いつもとはまるで違う笑みを浮かべる。
「あの……、」
「風邪とかか? 参ったな、一度ディプロに戻れば、」
「いえ、体調は悪くないんですけど!」
視界を遮るように大きな手が額にのびて、思っていたよりもごっつい、けれど思っていたよりもやさしいそれにびっくりして。ぶんぶん首を振って否定したかったけれどそれもできないまま、ただ声を上げれば、そうかとその手は引いた。
手がどいて再び彼の顔が見えて、けれどやはりいつもと違う。どこがどうとは言えないけれど、絶対確実に何かが違う。
ここで何があったのか、訊ねたかったけれど訊いたなら応えてくれるだろうけれど、そうしてはいけないと思わせる。おだやかでやさしくて淋しい、そんな笑みがそこにあって。
「……花、」
「ん?」
「ここだけ、折れていて……わたしの術で、癒せるかなって」
「そんなことが?」
できるのか、と丸くなる青い瞳。なんだか無理しているような驚きの色。
本当はそんなこと思っていなくて、ただ口からでまかせだったけれど。やってみてもいいかなと、ソフィアは思った。
そうすればこの哀しいおだやかさが、
少しは晴れて、くれるのではと、
何もできないわたしだけれど、
たとえば何の意味のないことでも、たとえばできるのかできないのか分からないことでも。
やってみれば意味があるのかもしれないし、やってみれば叶うのかもしれない。
何もできないわたしだけど、ほんのちっぽけな力しかないわたしだけど。
ひょっとしたなら、何かができるのかもしれない。
何かできることが、あるのかもしれない。
――これが、この花々が。元気になったなら、たとえばクリフさんは、喜んでくれますか?
それに意味がないことくらい、たぶん分かっていたけれど。
それでも何かの意味があるかもしれないと、そう思った。
世界の成り立ちにではない、きっとこの場所に思い入れのあるクリフはじめ三名の。今はひどく沈んでいる彼らに再び笑顔が戻るなら、ひび割れた心に少しでも潤いが戻るなら。
いや、それだけではなくて。
茎が折れてもなお健気に咲こうとするこの花々の、たとえば手助けができたなら。
精神力は大切だけど、こんなところで無駄遣いして良いものではないけれど。
それでも、
――それでも、
そしてソフィアのてのひらにぽっと癒しの光がともった。
彼女と花畑を視界におさめていた金髪の男が、その表情がかすかに動いて、
ちっぽけなソフィアの力で、
花が、
クリフが、
