運も実力のうち、
――ではその逆は、何と言うのだろう。
ソフィアの目がきらーんとばかりに光った。彼女の表情の変化に彼女の以外の全員の頬がひくりと引きつって、けれど誰もが何もできないうちに、
「あがりです♪」
「だあああああっ」
「ちくしょー」
明るい声と共に二枚のカードがするりと山の上にすべって、大袈裟な声を上げながらフェイトが宙を仰いだ。似たような声を上げながらその横のクリフががっくり首をたれる。場に捨てられたアガリの二枚のうち、片方をつい先ほどまで持っていたのはアルベル。今は一見憮然と、実は呆然としていて。そんな彼を心底恨めしそうににらんでいるのはマリアで、にぎやかな一同にネルがやれやれと肩をすくめた。
某日某所、本日の天気は雨。宿屋に閉じ込められた一同は、ただひたすらトランプに興じていた。
「フェイト、あのね、これ鞄の底に入ってたの」
雨がひどくて誰もがこの中を出かけたくなくて、だったら今日は休みだと決めたその日。
どうしようか、何をしようか。無駄に時間をつぶすのは馬鹿げているけれど、たとえばファクトリーまで行くにもこの雨が邪魔で。好き好んでぬれたくはなくて。
考えるフェイトに、彼がいる男部屋に。ひょこっと首を生やしたのはソフィア。彼を見つけるとにこっと微笑んで、そして手に持ったモノを見せてきた。
「何が……って、ああ、トランプか」
「暇でしょ? 時間つぶさない??」
「そうだなあ……」
結局はこれも時間つぶしには違いなくて、あまり気乗りはしない。けれどここしばらくずっと緊張にひそめられていた幼馴染の顔がほころぶのを見るのは嬉しいし、久々にやってみるのも良いかもしれない。
そんな風に思ってフェイトがうなずいて、
――けれど二人でできるトランプゲームなんてたかが知れている。
「……フェイト、真面目にやってよ」
「やってるじゃないか。――ほら、ソフィアの番」
「うぅ……二人じゃばばぬきしても面白くない……」
「今さら言うなよ」
「――何よ」
「ソフィアが言い出したんだろ」
他のゲームもいろいろやったけれど、どうしても盛り上がらない。
目の前であくびをかみ殺したフェイトに、ソフィアはぷくっと頬をふくらませた。
――なんだか面白くない、どうしても楽しくない。真面目にやってくれないフェイトに腹が立つ。
文句をこぼせばフェイトが子供っぽく唇をとがらせて。そのまま口喧嘩に発展する直前、何だか視界のすみに黒いモノが揺れた。
「……?」
小首をかしげてそちらを向けば、
「……あ、ネルさん。いつ来たんですか?」
「ついさっきだよ。なんだ、気付いてなかったのか」
「フェイトは黙ってて。――ええと、ネルさん。どうかしましたか?」
「うん? いや、暇だったから。あんたたちの故郷の遊びかい??」
「そうです。いろいろなゲームができるんですけど」
それでも二人、扇形に広げていたカードのうち。フェイトのカードから一枚引いて、ソフィアはネルが見やすいように少しカードの向きを変えた。そうして同じ数字とペアにして、場に捨てる。フェイトがソフィアのカードに手をのばす。
「でもこのゲーム、二人でやっても面白くないんですよフェイト真面目にやってくれないし」
カードが引かれて、二人でやるとどうしても毎回確実に一枚減る。数回やりとりすればあっという間にフェイトが二枚、ソフィアが一枚。うろうろと彼女の指が動いて、フェイトの顔は必死に無表情。
引いた、……外れた。今度はフェイトが引いて……これもハズレ。けれど確率は半分で、そうなるとそのうち、
「……はい、ソフィアの負け」
「ううっ」
手元に残った道化師の札をソフィアは情けない顔で見つめる。フェイトは山になった札を集めて器用な手付きでシャッフルしながら、
「ネルさんもやってみませんか? 見ているよりもやった方が面白いですよ」
何気なく声をかけた。
――いや、やめとくよ。ほら、情けない話だけどあたしこの文字読めないしさ。
――数なら絵を数えればすみますし、そうなると残りは三種類とジョーカーだけですよ。やりましょうよネルさん。
――ソフィア、いや、そんな風に言われてもさ。
――あ、なんだったらマリア呼んできますか。スキャナの文字データ言語データ、一番充実してるのあいつだし。
――あ、それいいかも。今何やってるかなあマリアさん。暇なようなら混ざってもらおう。
――お、何盛り上がってんだ。つかうらやましいじゃねえかフェイト、両手に花かよ。
――なんだよクリフ。
――あ、クリフさんも混ざりましょう? ええと、そうなるとアルベルさん……。
――アルベル? あいつならさっきロビーのソファでゴロ寝してたぜ。近付くヤツに片っ端から喧嘩売る目向けて、従業員が迷惑してたな。
――しょうがないヤツだなあいつ、仕方ない、呼んでくるか。
――ええと、……二人とも?
――じゃあ僕がアルベルつれてくるから。ソフィアはマリアな。で、クリフ、お前ネルさんに簡単にばばぬきのルール教えといて。
――……お?
こうしてメンバーが揃ってみると、それぞれ勝ち方が違う。特に誰かがほぼ確実に勝つわけでもなく、
勝つときはほとんど運だけで勝つソフィア、
緻密な戦略で勝つマリア、
同じ戦略でも、「勝つ」ではなく「負けない」戦略のフェイト、
勝ち負け、というか当たり外れの差が大きいクリフ、
一番にはほとんどならないものの、確実にビリは回避するネル、
――そして、
「……で、またアルベルの負け……と」
「さっきから負けを呼んでいるみたいね?」
「あれだお前、ムキになりすぎんだよ。おとなげねえなあ」
「そんなに悪いカードばっかりくるものですか?」
「――馬鹿だねえ」
好き勝手言われて、ひくりとアルベルの頬が痙攣する。手元に残った道化師にさえ笑われているような気がして、けれどペラいそれを握るつぶす前にひょいとそれが引き抜かれて、
それぞれの特性で勝ったり負けなかったりする一同の中で、
――たった一人、はじめから今までまだたったの一勝もしていないアルベル。
「……読めるかこんなもん!!」
「負け惜しみ言うんじゃないわよ」
「アルベルアルベル、ネルさんはちゃんと分かってる」
「最初の言葉どおりだね、やって見れば案外大して難しくない」
「ですよね?」
「そーなると全部お前が悪ぃんだな。あ、勝てないからって部屋ん中で暴れんなよ」
またも好き勝手言われて、握りしめたこぶしにしかし気勢を制されて、
「……もう一度だクソ虫ども!!」
運も実力のうち、
――ではその逆は、何と言うのだろう。
「良いじゃない、受けて立つわ」
「あ、今度から罰ゲームなんてどうかな」
「金賭けりゃあやる気も出るよな?」
「……っ!!」
「……馬鹿だねえ」
ちなみにその日、雨はずっとやむことはなく。アルベルはひたすらカモられ続けたとか。
