結局は体質なのだと思う。
体質なんて人それぞれだと思う。
思う、けれど。

―― Mahlzeit ist Krieg

反銀河連邦組織クォークの現リーダーは、マリアは朝に強くない。
「おう、起きたかマリア」
「んー……」
ペターニの朝。ドーアの扉一階ロビーに現れた彼女は、髪を整えて顔を洗って服をびしりと着こなして、そうして身なりこそきちっといつもどおりをつくろっていたけれど。けれどまだまだ頭は覚醒しきっていないことが、見ただけで分かる。
声をかけたクリフは、それなりに長年の付き合いの彼女の養父はいつものことだと特にツッコミもしないで、返事が返ってきただけまだマシだと新聞紙をがさがささせた。
ぼんやりと目元をこすって、マリアはとりあえず手近なソファに身体をしずめる。
「あっちでバイキングやってるぜ」
「……いらない……食欲ないわ……」
一応、声をかければまともに返事はある。まったくのちぐはぐな言葉ではなくて、けれど声が上がるまでに明らかにタイムラグはあるし、話しかけない限り彼女の方から話を振ってきたりはしない。
反銀河連邦組織クォークの現リーダーは、マリアは朝に強くない。
このまま放っておけばたぶん、きっとすぐさま眠りに落ちる。

「……クリフ」
「ん?」
「……コーヒー飲む……」
「あー……」
――つまりは持って来い、と。
まあ、別に大したことでもないしなと立ち上がりかけた彼の前に、腰に手を当ててぷんと頬を膨らませた仁王立ちの少女。
ただし視線はマリアに向いている。
「マリアさん、おはようございますっ!」
「……おはよう」
「朝食しっかりとらないと一日力出ませんよ!!」
「…………食欲ないのよ……」
「でも朝がコーヒーだけっていうのは胃にやさしくないです!」
「……んー……」
「しかもブラックですよねマリアさんが飲むのって、胃が痛くなっちゃいますよ!!」
「……じゃあコーヒーもいらない」
「ダメですっ!」
ここで、すでにがっつり食べたあとのクリフは追い払われた。やれやれと新聞紙片手に振り返れば、少女はやはりマリアに噛み付いている。
――少しだけ、気の毒に、と思ったりする。

◇◆◇◆◇◆

「マリアさんっ! ちゃんとご飯食べましょう」
……うるさい。
起ききっていない頭に甲高い声が響いて、マリアは眉を寄せた。
昨夜多少アルコールを摂取したけれど、二日酔いではない。ないけれど、とにかく朝はいつもこんな感じに、頭がなかなか起きないし食欲はないしすべてが面倒臭い。放っておいてくれれば良いのにこうしてまとわりつかれると、逃げる気力も怒る気力もないからただひたすら鬱陶しい。
「マリアさんてば!!」
「……ほっといて……」
……ああ、このままこのソファで二度寝できたら至福かもしれない。
……というか、この、噛み付いてくる少女さえいなければ、
「何も食べないから、だから血糖値上がらなくてだるいんですよっ! はいっ、オレンジジュース持ってきました!! 果汁百パーセント、絞りたてです美味しいですよ!!」
「んー……」
押し付けられたグラスを、とりあえず受け取る。そうしないとさらにうるさそうだから、とりあえず。
――まったく、面倒臭い。
そして受け取ったなら今度は、飲め飲めとちくちく突き刺さる視線が言うので。
仕方なく手にしたグラスを口元に持っていった。ひたすら、気持ち悪いほどの食欲のなさを押さえつけて、無理矢理一口。口いっぱいに広がる、果物のさわやかさとぷちぷちした果肉の食感が少し面白い、かもしれない。
少なくとも気持ち悪さを増長させたりは、しない。
「美味しいですか!?」
「……まあ」
ふなり。
うなずいたマリアに満足したか、よし、とうなずいた少女が気が付いたらいなくなっていた。起ききらない頭が、行動の中にグラスを傾けることをインプットして、マリアはゆっくりゆっくりグラスを干していく。
中身の減っていくグラスに反比例して、体内の血糖値が上がってまるで霧が晴れるように頭の中が鮮明になっていく。
――これからは寝起きのジュースを用意するべきか、と思ったりする。

◇◆◇◆◇◆

空のグラスを片手に、ゆっくりと瞬くマリアの目は先ほどのようなどんより濁ったものではなかった。すべてを、事態の裏まですべて見通すような鋭い目はすっかりいつものマリアで、ソフィアは満足感に一つうなずいたりする。
「マリアさーん、食欲なくてもスープくらいはいけませんか? 持ってきましたー、ポタージュですから、少しはおなかにたまると思います」
「ああ……ありがとう」
カップに入れたそれを、今度は促さなくても受け取ってくれて。空になったグラスと交換したソフィアは、完璧なテーブルマナーでスープを口にするマリアをじっくりと観察してみる。
細く、どこまでも細く華奢な肉付きの薄い体躯。陽に当たらない、栄養がいまいち行き届いていない感じの白い肌はいつもどおりではあるものの、先ほどまでの、いかにも寝起きのひどい顔色と比べるならだいぶ回復した。いつもは纏う雰囲気で誤魔化しているけれど、実は今にも倒れそうな儚い感じは。こうしてちゃんと食事を取り続けてもらえばきっとどうにかなるだろう。
――いや、なにごとよりも優先させて、絶対に体質改善をさせてみせる!!

「……何」
それほどまじまじ見つめていた自覚はなかったけれど、マリアがどこか居心地悪そうにソフィアを見上げた。誤魔化すようにえへへ、と笑ってみせると、きっと誤魔化されてはくれなかった薄い笑みが返ってくる。
その笑みがなんだか威圧してくるので。何かを言わなければ、とソフィアは脳をフル回転させて一生懸命言葉を捜す。
……本音は言えないから、ええとええと。
「し、食欲出たようならもっとちゃんと食べましょう? さっき、すごい顔色だったんですよ!」
「……そうかしら。別に、平気なんだけど」
「ダメです!!」
いきなりの大声に、驚いた顔がなんだか珍しかった。しまったとあわてる一方でそんなことを思って、とりあえずソフィアはマリアをテーブルまで引っ張っていくことにする。頭のいい、目敏いマリアは簡単には騙されてくれないけれど、こうなったら知恵比べ根気比べだとソフィアは内心こぶしを握る。
――負けない、絶対に勝ってみせる!
一人で勝手に対抗心を燃やす。

結局は体質なのだと思う。
体質なんて人それぞれだと思う。
思う、けれど。

◇◆◇◆◇◆

彼女の幼馴染の青年は語る。
――え? ああ、マリアのことか。
――うん、最初聞いたときのソフィアの顔は、僕にも怖かったよ。なんていうか、きっと親の敵でもあんな顔しないと思う。ソフィアだからね。
――コンプレックスなのかなあ? 気にしなくても良いと思うんだけど。
――でも、だからって自分がダイエットさせるよりもマリアをどうこうしてやろうってのがすごいよね。
――それでマリアが健康になるんだったら、もう何も言わないけどさ。ていうか、ソフィア怖いし。

彼女のターゲットになってしまった少女の、養父は語る。
――最初はワケ分かんなかったけど、大体飲み込めてきたぜ。
――アレだろ? 食欲の薄いマリアに……ありゃ嫉妬か?? つか、食欲うんぬんてよりもあの細っこい身体にかもなあ。
――細けりゃ良いてもんじゃねえだろうが……マリアもなあ。あいつも、もちっと肉付けてくれりゃあオレも安心なんだけどよ。
――クラウストロに連れてったとき、絶対倒れると思ったぜ。ま、あれに耐えたんだから今さらどうこうしなくても平気だとは思うがな……女の子ってのは怖いねえ。

―― End ――
2005/08/11UP
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Mahlzeit ist Krieg
[最終修正 - 2024/06/26-15:08]