――あなたのように、なりたい。
いつだって思っている。

―― Der Schlussel zum Erfolg

一緒に旅をするようになって、もうだいぶ経っていて。
ソフィアはお荷物なだけの人間ではなくなって、たとえば誰にも扱えないような強力な術をばんばん連発できるようになった。一見誰よりも完璧なマリアが、実はとても脆くて儚くて危うくて、けれどそれでもどこまでもまっすぐだから、だから誰よりも強く美しいのだと分かった。
そして、そんな今だからこそ――思う。
無理だと分かっていて、それでも。

――彼女のように、なりたい。

◇◆◇◆◇◆

「……マリアさん?」
「ああ、……もう少しでキリをつけて、寝るわ。悪いわね、遅くまで明るくしていて」
「かまいませんけど……あんまり手元だけ明るくしていると、目を悪くしますよ。あ、ホットミルク淹れてきたんです。飲まれますか?」
「ありがとう」
女部屋、夜。女隠密は仕事があるとかで今夜は部屋にいなくて、両手にカップを持って部屋に戻ってきたソフィアに、もう一人の部屋の主は机に向かっていた。彼女の前にはクォッドスキャナよりも数段性能が上の個人端末、どうやらクォークの事務仕事をしているらしい。
「お仕事、進んでますか?」
「うーん、まあ……それなりにって感じかしら。サボってたらだめね、まず量だけで気が滅入るわ」
ハチミツを少し落とした甘いミルクを一口、美味しいと微笑んでくれたマリアの雰囲気がやわらかくなって、それが嬉しい。いつも気をはりつめている彼女が少しでも息を吐く、その手伝いができたなら嬉しい。
冒険の合間に暇を縫って、細かく通信を受けては何か指示をしている彼女。こうして常に何かをしてないと立ち止まりそうだから、一度立ち止まったならもう二度と歩き出せそうにないから、そう言っていつか笑ったマリア。
強くて、鉄の女といわれるほどに強くて、けれど強すぎるから心配で仕方がないマリアに。ソフィアの力で何か手伝いができるなら、それはとてもとても、
――ああ、でも何を言ったらいいのか見当がつかないから。
――できることならやりますよと言ったところで、それを彼女が喜んでくれるかどうか分からないから。
――気遣っている、そうと感じとることさえ彼女の負担になるかもしれないから。

「飲み終わったなら、声かけてくださいね。わたしもこのカップ、一緒に返しに行きますから」
「分かったわ」
冒険続きでずいぶんくたびれた服の、ほつれたところを直そうと。そうして同じ部屋にいることで、自分にはとうていできないことを平然とやってのけるマリアの手助けをしようと、その隙を探そうと。ソフィアは裁縫道具を手に、ただ意識をマリアの細い背中に向ける。
憬れの女性の背中に、意識を向ける。

◇◆◇◆◇◆

ほんのり甘いホットミルクに、こわばっていた何かがふんわりほぐれた感じがした。
そうしてカップを手に再び目を落とした画面には、近況報告と指示を仰ぐ問題点、以前指示を仰いだ点の改善結果、――そしてベッドに腰かけてどうやら服を繕っているソフィアの姿が映っている。
甘さと温度がちょうど良いホットミルク、それと同じくらい心ほぐす少女の姿が映っている。
もう一口カップをあおってとんと机に落ち着けて、本格的に文字を打ちながら。けれどマリアの心を占めるのは、仕事ばかりではなくて。

最初は甘ったれている足手まといとだけしか思わなかったのに。
今では、……そう、こうして同じ空間にいてくれるだけで気分が落ち着く。何気ない会話で心がほぐれる。ふんわり微笑んでくれたなら、その笑顔を目にしたなら。たったそれだけで、きっと心が温かくなって。
そばにいるだけで精神安定剤になる、そんな人間が存在するなんて思いもしなかった。そんな彼女に癒される自分がいるなんて――彼女に出会うほんの少し前までの自分は、思ったこともなかった。
事務的で冷たくて、常にとげとげしている自分とはまるで正反対の。
彼女がそこにいる、いてくれる、それが嬉しくて。

自分には、到底真似できない。立場が逆だったとして、あたたかい飲みものを持ってくるなんて、自分がそんな気の利く人間だとはマリアは思わない。何かあたたかいモノを、何か甘いモノを。――知識としてリラックスるモノが何かを知っていても、それを誰かに差し入れようだなんて。
マリアには、きっと思い付くことができなくて。
そんなソフィアのために何かをしたくても、マリアには何も思い付くことができなくて。

感謝の気持ちを、伝えることさえ。

◇◆◇◆◇◆

――あなたのように、なりたい。
いつだって思っている。
――あなたのために何かができるなら。
いつだって、思っている。

―― End ――
2006/04/29UP
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Der Schlussel zum Erfolg
[最終修正 - 2024/06/26-15:09]