かなわない、心底かなわないと。
――きっと一生かなうことはないのだろうと。
思う。

―― Vergnugt lachen

「クリフ、調子はいかがで……なにぶさいくなゆびわいじくり回しているんですか?」
「そう言うなよミラージュ……一応、なんかこう……スゴいのになるはずだったんだぜこれ?」
「結局今はぶさいくなゆびわになっているじゃないですか」
「いや……そ、そうなんだけどよ……」
朝から工房にこもって大真面目な顔で何をしているのかと思えば、どうやらずっと飽きもせず細工をしていたらしい。……とはいえ細工レベルが二のクリフの手にかかれば、現在彼の横には失敗作が目白押し。いくら躊躇しないミラージュでも、いちいち指摘するのは気の毒になってくる。
へろへろなピアスをつまみ上げて、さて何をどう言ったものか、というかひょっとして空腹感を覚えていないのだろうか、とちらりと目をやれば。ぶさいくなゆびわをようやく諦めたらしいクリフはいつの間にか新作にとりかかっていて、おもいゆびわなぞをいかにも不器用な手付きでさっそくこねあげていた。
……まあ……何というか。
一心不乱にがんばっている姿、というものは魅力的ではないでもないわけだけれど。
「クリフ……?」
「ああ、……ちょっと待ってくれ、これが、こう……」
「いえ、もうそれおもいゆびわ確定ですから」
きっぱり言い切ったならちまちま不器用に動いていた手がぴたりと止まって、何というか、情けなさ全開の顔がゆらりと彼女に向いた。

◇◆◇◆◇◆

そろそろ諦めれば良いのに、まだまだがんばるつもりらしい。むしろ、がんばる意思表示なのか。細工道具片手のクリフが剣呑な目を向けてきたので、ミラージュはとりあえずゆっくり瞬いた。
――別に、彼をからかうためにわざわざ彼以外誰もいない工房を訪ねたわけではない。
いや、真剣な彼に対して間の抜けた用件だというのは事実にしても。
「マリアが、昼食を一緒にどうかと声をかけてきたんです。待ち合わせ時間は……ああ、もうすぐですね。時間までに来ないようなら、何か他に用件があるんだろうということで、別にどうともしませんけど」
「もうすぐ……て、うぉ、もうこんな時間だったのか!?」
「あと一回くらいは何かをしてみる時間はあると思いますが。……でもクリフ、あなたの細工レベルでは、きっとまた失敗作しか作れませんよ。いくら失敗作全般が安く作れるといっても、こうも作ればコストもかさんでいるでしょうし……」
「いや……あんましはっきり言うな……さすがのオレでもちょっとヘコむぜ」
「多少は凹んでください、無駄なことに時間とお金をつぎ込んでいるんですから」
「いや……その……」
「クリフの得意は鍛冶や機械でしょう? よりにもよって一番不得意な細工を、クリエイターの助けも何もなしになぜ選んだんですか」
まっすぐ彼を見たなら、きょろりと目がそらされる。薄く汗なんて浮いていて、いかにも何かこう、薄っぺらい企みをしていましたと身体全体が物語っている。
他の人間にはどうか知らないけれど、ミラージュにとってのクリフは、基本的にはいつまでも出逢ったときのやんちゃな少年のままで。いつまでも成長しないいたずら少年のままで。
「クリフ?」

◇◆◇◆◇◆

「……ミラージュ、今日が何の日か覚えてるか?」
「今日……ですか?」
がっくりしたクリフがうめいて、ミラージュは小首をかしげた。何の日も何も、――覚えているか、の言い回しからしてたとえば誰かの誕生日のような、そんな記念日のはずだけれど。少なくともパーティメンバー、クォークメンバーの誕生日では、なかったはず。
悩んでいれば少し嬉しそうなクリフがさあ答えろと無言で促していて。分からないと言ったなら、きっと得意満面正解を教えてくれるのだろう。
思い当たらなかったミラージュは、眉を寄せた。
「マリアを拾った日ということ以外、思いあたりませんけど」
「……いや……それなんだが……」
「それ?」
得意満面が一気に崩れ去ったクリフが、呻く。
がっくりした相棒が、その表情の変化が少し面白い。いや、面白がっている場合ではないかもと、まだがっくりしているクリフの、普段は見ない、今はこちらに向いているつむじなどを見つめていると、
「マリアに、何か渡そうと思ったんだよ……ほら、何つーか……出逢ってくれて感謝、みたいな」
「はあ」
「で、どうせなら買ったもんじゃなくてオレが作った何かをだなあ、」
「クリフが作った細工失敗作を?」
「違うっ! そうじゃなくて……!!」
別にボケたつもりはなかったけれど、ボケたこたえでしたねと自己反省をしながら。けれどもう時間もないし、クリフの細工レベルでは結局同じことになるのではと思いながら。
長年の相棒を、次にどう出るかを待ってみたなら。

「……ミラージュ、ところでお前の得意は……?」
「私ですか? ……細工と機械、ですね。ああ、でもクリフの腕をカバーできるほどには細工が大得意とは言えませんけど」
「……この際色気がなくてもいいよなあ……もう意地だ。
時間、少しはあるんだろ?」
「そうですね……今から何かをして、一回分くらいならぎりぎり間に合いそうです」
「じゃあ機械やる、手伝ってくれミラージュ」
細工は諦めて、どうやらそれでも養女に手作りの何かを渡したいらしいクリフに、その意地っ張りでやさしい心に。
彼女の心が、ふわりとほぐれた。
「……はい」
この人に必要とされている、それを思うととてつもなく誇らしい感じがした。

◇◆◇◆◇◆

かなわない、心底かなわないと。
――きっと一生かなうことはないのだろうと。
思う。
基本的には少年のままのクリフに、いくら普段は偉そうにフォローに回っていても。結局、最後の最後では絶対にかなわないのだろうと。むしろずっとずっとそうであってほしいと。
――できるなら、クリフにもそう思っていてほしい、お互いにお互いを尊重しあう関係でありたい、と。

思う。

―― End ――
2006/05/05UP
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Vergnugt lachen
[最終修正 - 2024/06/26-15:10]