この蒼は、あの人と同じ色。
あの人とのやさしい思い出が、そして今は胸を締めつける。

―― comme si c'etait hier

どんな話の流れかなんて、覚えていない。
ただ、気が付けばルークが間近にいて、まじまじと彼女の目を見つめていた。
「……ティア、おまえさ、」
「な、なに……」
意外と大きな彼の手がティアの右側頭部あたりにあって、その手にかき上げられていつもは髪に隠れている方の目まであらわになって、彼女の顔はきっと真っ赤になっていて、彼はどこまでも真剣に彼女を覗き込んでいた。
逃げようと思えば十分逃げることができるのに、先ほどからティアの身体はまるで動きを忘れてしまったように動かない。
間近い距離の、彼の顔。実年齢はたったの七歳、けれど外見年齢は十七歳の青年。やんちゃな顔やらふてくされた顔やらしょんぼり落ち込んだ顔やら、そんなものがすっかり見慣れた今では、たまに見せる真面目なこの顔の、その端正な顔立ちが意外でただ息を呑む。

「おまえ、髪の色も目の色も、師匠と同じなんだな」
「……っ、え……?」
「――わり、いきなり変なこと言った」
まったく気を散じていたから、彼の言葉の意味がよく分からなかった。彼女の呆けたつぶやきに間近な顔が半瞬息を呑んだのが分かる、そして彼の手が離れていく。

何かを思ったつもりはなかった、そんな余裕なんてなかった。
ただ手がのびて、彼の服に届いてそれを握りしめていた。

いかないで。
――そんなこと、思わなかった。ただ身体が勝手に動いていて。

◇◆◇◆◇◆

髪の色、目の色。そうだ、いつだって鏡を見るたびに浮かぶのは、
「――ティアの目を見て、きれいだって思ったんだ」
「うん」
「思って、ああ、この色を見たことがあるなって、思って、さ……」
「……うん」
そんなつもりはなかったけれど、結果的にどう考えても呼び止めたかたちになって。なんとなく二人、その場に腰を下ろしながらルークがぽつぽつつぶやく。ティアがこくこくうなずきながら相槌を打つ。
「師匠の目の色、だったんだな。なんか懐かしいって思ったのも、きっとそのせいだと思う」
「……ええ、そうね。同じ、いろ……だから」

そろりと、それは多分ティアの反応をさぐるためだろうけれど彼が目を向けているのが分かる。分かっているけれど彼女は、まるでそんな彼から隠すように手を上げて目を覆う。
同じ色だ、髪も目も。ヴァンと――今は自分たちの敵に回ったひとと。いつだってやさしくて、強くて正しかったひとと。絶対だと、信じていたあのひとと。
兄と。
同じ色だ、髪も目も。彼とティアが血がつながっていることを証明する、それはたとえば一番身近なもの。

◇◆◇◆◇◆

「好きだったんだ。……好きで、特別で……尊敬していて、」
「うん」
「ほんと言えば、今だって尊敬してるんだ。みんなが呆れても、師匠自身がおれのことをいらないモノみたいに切り捨てても、……それでもどうしても、嫌いになんてなれない。憎むなんてできない」
「うん……」
彼のつぶやきは、まるでティアの心そのもので。周囲に他に誰もいないから、本来は裏切りにさえ取られかねないルークのそのつぶやきに彼女は素直にうなずく。
――好きだった。今も、好き。特別で、絶対で、信じていたし、……本当は今でも信じたい。教官と仰ぐあのひとに誘われなくても、本当はすぐにでも兄の元へ行きたい。行くことができたらいいと、今でも思うことがある。
――分からなかったヴァンの目論見が分かるにつれ、過激すぎるアラだらけのその計画の真意が少しずつ分かるにつれ、いよいよ考えがはなれてしまったのだと、心がはなれてしまったのだと何度も何度も思い知っても。
――それでも。
――今でも好きだし、嫌ってなんていないし、憎むことなんてできるはずがない。

だって、やさしかったのだ。今だって、変わってしまったと思う今だってきっと彼の本質は変わっていない。
公正で潔癖で、誰よりも正しくあろうとする兄だからからこそ。だからこそ狂っているとさえ見える無茶な計画を実行に移した。計画を実現するために、きっと今もどこかで動いている。
ルークをレプリカと呼んで、使い捨てた駒扱いをして今では見向きもしないことだって。見てしまったなら情がわいてしまうと、多分あのひとはそんな自分を知っているから。

「師匠が好きだったよ、尊敬してるんだ。
……それでも、倒すって決めて……うん、決めたんだ。止める、師匠をこのままほうっておいて、世界を滅ぼさせたりなんてしない」
「そう、ね……わたしは、兄を止めるために外殻世界へ出てきたわ。こんなに大事になるなんて、こんなにとんでもないことを兄さんがたくらんでいるなんて、知らなかったけれど」
「刺し違えても?」
「それで兄が止まるなら、躊躇なんてしていられないわ」

◇◆◇◆◇◆

やがて手を下ろしたら、顔を上げたならルークがすぐそこにいて。先ほどと同じように手をのばしてきていて、今度は両手でティアの顔を包み込む。
逃げられなくて、逃げる気もなくてまっすぐに彼を見据えたなら。
間近なルークの目に自分が映っているのが見えて。

この蒼は、あの人と同じ色。
あの人とのやさしい思い出が、そして今は胸を締めつける。

倒すのは妹の権利、止めるのは弟子の義務。
それはきっと、今だって胸を締め上げる――たとえ別の誰かとこの心を共有しても消えない薄れない、この胸の痛みだって。

今も、きっとあのひとが大好きな証。

―― End ――
2006/08/10UP
ルーク×ティア
OFP
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comme si c'etait hier
[最終修正 - 2024/06/27-10:01]