いつでも強い、強すぎる彼女が。
それでも自分の力で支えたいと。
――でもわたし、しくじったみたい。
――兄さんを、止められなかった。
ユリアシティの、どうしたって夜のあの光の中で。
荷物をあさりながら、あるいはまとめた荷物を胸に抱きながら。まるで泣きそうな声でつぶやいて、彼女のその声のふるえにルークは自分でも驚くほど動揺した。動揺したけれど彼女は泣いていなくて、少なくとも涙はこぼれていなくて、ただただティアは強いなとそう思う。
そういえば、そうだ。
長いようで短いようでやっぱり長い、出逢ってから今までの間。その間にもティアにとってつらいことは哀しいことはいくつもあったはずなのに、一度として彼女は泣いたりしなかった。少なくともルークの前では。
彼女の涙を見たことは、彼は本当にただの一回もない。
細くて、彼が力いっぱい、たとえば抱きしめたならそれだけで折れてしまいそうなもろい身体しか持たないのに。身体はそんなに細くてもろいのに、けれど彼女の心は身体の細さもろさを補うように強くて、どこまでも強くて。
ルークには張り合うなんてできない、張り合ったところで絶対にかなわないくらいに、ただただ強くて。
強さには憧れていた。それがどんな種類のものでも、強いこと、それにはどうしようもなく憧れる。
たとえば剣技、たとえば腕力。眼光、声、
……ああ、そうだ今までのルークにとっての「強さ」はつまり師匠に直結していて、どちらが先か分からない、けれどやはり師匠に憧れているのだと思う。
思い知って、けれど心の強さは。身体のもろさを補って余りあるほどの心の強さは、多分師匠の中にではなく、ティアの中にきっとはじめて見つけたもので。
声をふるわせても、詰まらせてもぐっと何かを飲み込んでも。
それでも涙をこぼすことのないティアは強いと思うし、その強さはすごいものだと思うし、強さには憧れる。変わりたいと持って髪を切って、変わった自分にこの強さは身に付くだろうか、なんてそんな風に思う。
思って、同時に。
けれどたまには弱いところを見せてくれてもいいのに、なんてそんな風に思って。
ヴァンのしようとしていることを、その片鱗を知って、止めようと思ったティア。
刺し違えても止めようと、そのために、きっと今では世界中のどこよりも安全なユリアシティを出て、外殻大地に行こうとしたティア。
彼女の両親は亡くなっていて、祖父と呼んでいた町長も実は血がつながっていないらしくて、つまり彼女の肉親はたった一人兄のヴァンだけで、
やさしかった、大好きだったたった一人の肉親を、それでも殺してもいいから間違ったことをする前に止めようと、
そんな決意を固めたティア。
決意を、ためらってもそれでも実行に移そうとしたティア。
やはり強いと思う、どうしようもなく強いと思う。たとえば自分だったらなんて想像してみて、きっと、少なくとも今までの自分だったなら何やかや理屈をこねて動かなかったよな、とルークは思う。
泣き言を言わないで、自分の決めたことをつらぬこうとして、その目はまっすぐで、哀しいくらいその目はその心はまっすぐで。
けれどたまには弱いところを見せてくれてもいいのに、なんてそんな風に思って。
弱いところを見せられても、たまには頼られても、きっとそれがティアなら悪い気はしないと思う。
ひょっとしたら嬉しいかもしれない、……そうだ、きっと嬉しい。
細い身体で懸命に立っていなくても、たまにはよろけることがあっても、それを支えることができるならそれはきっと嬉しい。歩き続けることができなくて立ち止まっても、急かしたりしないで待っていられればいいと思う。見たことのないティアの涙だけれど、たとえば彼女が泣くようなことがあったなら、その涙をせめてぬぐってやりたいと思う。
本当はよろける前につらいことを察知できればいい。歩き続けられなくなる前に、休もうかなんて声をかけられたらいい。耐えて耐えて耐え切ることができなくて泣いてしまう前に、そのつらさに気付いてあげたい。
長いようで短いようでやっぱり長い、出逢ってから今までの間。自覚さえなかったけれど何度も何度も助けてくれたティアを、同じように助けられたなら。多分最後まで見捨てないで、これからのルークを見ていてくれると約束してくれたティアに、今までもらい続けたたくさんを少しでも返すことができたなら、
そんな自分になれたなら。
いつでも強い、強すぎる彼女が。
それでも自分の力で支えたいと。
泣きそうな目で泣きそうに声をふるわせて、それでも決して泣いたりしないティアに。ルークの胸に、何かの想いが膨れ上がっていく。
悪いものではないと思う、けれど正体は分からない。その、何かを。
けれどティアに届けたいと、強いティアに届けられたらと。
思う。
