白い世界で微笑む彼女はとても、
とてもきれいで今にも白にとけてしまいそうで。

―― neige persistante

「うわー」
ケテルブルクの港について、そして港町から一歩足を踏み出して。ルークは思わず声を上げていた。寒い。……まあそれはともかく、視界は一面の白。天から今も舞い落ちる雪片で白はいよいよ白く、ただただ驚嘆のため息しか出てこない。
「……雪はひょっとしてはじめて?」
笑いを含んだ声にちらりと振り返ったなら、声から想像したとおりの表情のティアがいつものように腕を組んで立っていた。馬鹿にされてはいないもののまるで目下の存在に対するような態度に気が付いて、ルークはむっとくちびるをとがらせる。
先ほどまで足元にいた、今は寒いですのすごいですのと叫びながら周囲を転げ回るチーグルの仔と、同じように見られるのは面白くない。
「そんなことねーよ、バチカルだって冬には雪が降るし。ただ、……こんなに積もってんの見るのは圧感だなって」
視界を埋め尽くす白、すべてを染め上げる白。おかしてしまった消すことのできない罪さえ、ひょっとしたら、なんて思わず期待してしまうような。
そんな圧倒的な白は、今ここではじめて目にしたから。
「そう。……わたしははじめてだわ。知識は本当に知識でしかないのね、雪が積もると、こんなにきれいだなんて」
白い息を吐きながら、ティアの視線が周囲の雪に向いた。
そしてそのとき、ぞくりとルークの背筋に何か寒いものが走る。

◇◆◇◆◇◆

――きれい……そう、きれいだ。
――純白の世界はすべてをその色に染め上げて、ただ光の濃淡が複雑に世界を形作っていて。
――どこまでも単純なのにどこよりも複雑な自然の造形は、
――多分この旅をはじめて知った美しいものの中で、それでも上位に入るほど美しい。

そして同時に。

白い世界で微笑む彼女はとても、
とてもきれいで今にも白にとけてしまいそうで。

◇◆◇◆◇◆

「……ルーク?」
「え、あ!? わ、悪い……!」
引き寄せられるように手をのばして、包み込むように抱きしめていた彼女が不思議そうな声を上げる。触れ合った体温になぜほっと息をついた瞬間それに気が付いて、ルークはどうしたらいいのか分からない。
――すぐそばにいたはずの仲間たちの姿が見えないのは偶然なのか何かの意図があるのか、ああ、今はそんなことどうでもよくて、

ちゃんと彼女に触れることができる、
彼女が自分が今ここに確かに存在している、
それを確かめることができて、
――だから今はそれ以外のすべてがどうでもよくて。

白い世界はティアによく似合っていて、きれいで美しくて冷たくて厳しくて、どこか淋しくて。その白に今にもほどけて消えてしまいそうなティアは、けれどこうして触れ合ったなら確かにあたたかくて今ちゃんとここにいる。
それは、きっと嬉しいのだと思う。

◇◆◇◆◇◆

一度触れてしまったなら手放すことのできなくなった、胸に抱いたぬくもりは、そしてふっと微笑んだようだった。こてんと頭があずけられて血が沸騰しそうになったけれど、それさえもなんだか嬉しい。
「……変なルーク」
「へっ、……変て言うなよ」

白、視界一面の白見るものを圧倒するような容赦なく白に染め上げるような、
けれどどこまでもきれいな怖いほどの白。
――けれど今、彼女がここにいてくれるなら。
ああ、そうだ。彼女さえここにいてくれるなら、

怖いことはきっと何もない。

―― End ――
2006/09/30UP
ルーク×ティア
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
neige persistante
[最終修正 - 2024/06/27-09:56]