分かっていたことだった、頭では理解していた。
そのつもりだった、
――けれど、

―― choc brutal

すぐそばの気配がなんだか揺らいだような気がした。はっと目を向けたなら、けれどいつものルークがいつものように――お世辞にもしゃんとした、とはいえない足取りで歩いていて。別にそれはいつもどおり、何かが違うというわけでもない。
「? ティア?? 疲れたか?」
「そ、そうじゃない、けど……」
「そうか?」
嘘ではない、確かにしばらく前までは障気障害に苦しかったけれど。あのとき、導師イオンのおかげでその原因の汚染された第七音素はすべて体内からなくなった。あのときのことを思い出すと今もまだ心が苦しいけれど、それなりに長期にわたって削られた体力はまだ完全には回復しきっていないけれど、それでももう、気を使われるほどではない。
彼女は。
そのかわりというように、いや、本当はそれとはまったく関係なくて単なるタイミングの問題だけれど。今度はルークが音素乖離で消えかけている。いつまでもつものか、タイムリミットは誰にも分からない。彼の生まれたフォミクリーの技術を編み出したジェイドにさえ、それは。
……けれどいつなのか分からないそれが遠い遠い未来ではないことだけは確かで。きてほしくない決定的な瞬間が、きっともうすぐそこだということは確かで。

◇◆◇◆◇◆

何かが、こみ上げる。
怒りかもしれないし哀しみかもしれない。何もできない自分に対しての、残酷な舞台しか用意しない世界に対しての、もしかしたらいついなくなってしまうものか分からないルークに対してかもしれない。
分からない、本当は何ひとつ分からないけれど、それは時に不意に襲ってくる衝動。

――彼が大切なのに。
――いつか、彼が大切なのに。
――本当に、何を引きかえにしてもいいと思ってしまうくらいに。
――生きていてくれるだけでいい、この世界のどこかで元気にしていてくれるだけで。
――もう二度と会えなくなってもかまわない、そう、たとえばそのかわりにティアが消えるとしても。

それで彼が生き延びられるなら。

◇◆◇◆◇◆

「……ティア?」
「な、なんでもない、わ……少し、考えごとをしていただけなの。疲れていないし、つらくない。平気よ」
そう、身体はまったく平気。重くない、息苦しくない。思ったとおりに動くことができる、疲れやすくもない。だから嘘は吐いていないのに、ふと足を止めてそんなティアをじっと見るルークの表情は冴えない。
「ルーク、」
――本当よ、だから気にしないで。
言いかけて、けれど何かを振り払うようにゆっくり首を振った彼にその言葉を思わず飲み込んだ。どこか淋しい微笑を口元に刻んで、けれどなぜか泣いているような表情に胸をつかれて。
「――ごめんな?」
「何を、謝るの?」
何もできないティアに対して、何を。
「多分ティアが哀しそうな顔してんの、おれのせいだろ?」
「っ、そ!」
「ティアはやさしいから、多分そうだと思ったんだ。違ってたら、自意識過剰だったらそれもごめん。……ごめんな、見ていてくれなんて、あの時あんな約束しなけりゃ……今だってそんなつらい顔、しなくてすんだかもしれないのにな」
「もしもの話は、無意味だって、仮定の話は無意味だって。……前に、言ったでしょう?」
「うん、……ごめん」
謝らないでほしい、どうか。そんな哀しい笑顔を向けないでほしい。どこかあきらめたような、つらいすべてをすべて受け入れたような、苦しいのにきっと苦しいのにそれをまるで感じさせないそんな笑みなんて。
ああ、……けれどこの笑みはきっと少し前までの自分だ。障気障害を仕方のないことだと、平気なふりをして飲み込んでいた自分だ。

◇◆◇◆◇◆

分かっていたことだった、頭では理解していた。
そのつもりだった、
――けれど、
けれど不意に衝撃に襲われる。

ふるえる手で彼の服をつかんで、困ったように首をかしげるルークに首を振って。
――まだ、消えないで。まだ、……この先もずっと。
自分でも分かっている愚かな願いは、いつだって不意に襲ってくる。

―― End ――
2006/10/03UP
ルーク×ティア
OFP
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choc brutal
[最終修正 - 2024/06/27-09:56]