もしももう一度を願うなら。

―― vie future

目の奥に、あのときの導師の姿が焼きついている。透き通るような笑顔、いつものようにおだやかに微笑んで、そして消えていったあの姿が焼きついている。彼女の身体から汚染された第七音素すべてを抜き取って、もらっていきますよ、と微笑んだ彼を。もう大丈夫と笑ってくれた彼を。
最期までおだやかな笑顔のまま、薄れて消えていった彼が。
目の奥に焼きついて、それは、

――もう二度と味わいたくないあの想いを、けれどもう一度味あわなくてはならない。
もうずいぶん遠いあの日からずっとそばにいた彼に、同じことが起きる。いつかは分からない、けれどそう遠くない日に。

◇◆◇◆◇◆

「……だめね」
小さく吐き出して、足元で薪拾いを手伝ってくれていたチーグルの子が、みゅ? と鳴いて振り返った。愛らしいその姿に、よたよたと抱えていた薪を礼の言葉とともに抜き去る。えへへ、と笑ったミュウに目を細くする。
「どうして、ルークなのかしらね」
周囲には誰もいない、気配で探ってそれでもささやくようにつぶやいたなら、笑顔がとたんにしゅんと哀しいものにしおれて。ああ、この仔になんてひどいことを、と自分を責めながらティアはまた息を吐く。
「ティアさん、苦しいですの? つらい顔してますですの……」
「大丈夫よ、ミュウ。わたしは平気。……本当につらいのはルークなのに、わたしばかり苦しんでるわけにいかないわ」
多分笑顔になっていない彼女の笑みに、チーグルの仔はさらにしゅんとうなだれて。
「ご主人様……かわいそうですの?」
「多分、そうじゃないわ。違うのよミュウ。……そんなことを言ったら、ルークに怒られちゃう。おれをあわれむな、って、ルークなら言うわ」
かわいそうなのではない、ただ哀しいのだ。レプリカが――イオンが、名もない大勢のレプリカたちが実際に消えていく姿を見てしまったから、それは余計に哀しい。
――消えてしまったならもう二度と会えない。遺体さえ残らなければ取りすがって泣くことさえ。
そんなことを思ってしまって、そんなことしか思いつかなくて、何もできない自分がそんなことを考えてしまって、だから彼にただ申しわけない。

「少し前なら、ルークを置いていくのはわたしだったのにね」
「ティアさん?」
「ミュウ、わたしってひどいわ。
こんなに哀しい、こんなに悔しいって、想像もしていなかった。仕方がないことだって、自分のことで手一杯だったのよ。苦しいのは自分だけなんだって、自分が我慢すればすむんだって、みんなとても心配してくれたのに、まるで分かってなかった」
「みゅぅぅぅ……」
しょんぼりうなだれた小さな身体を抱き上げる。とくとくとくと人より早い鼓動を刻む小さな心臓が分かるくらい、きつくきつく抱きしめる。小さな、小さすぎる身体を抱きしめることですがりつく。
「導師イオンのあの笑顔が、目の前にちらつくの。
……笑ってなんていてほしくなかった、何で僕を助けられないんだって、理不尽に怒ってほしかった。わたしを道連れにするって言ってくれても良かった、……だってそうすれば、ルークが消えることなんて知らずにすんだもの」
なんてひどい、なんて醜い。なんてわがままで、なんて自分勝手な願い。
腕の中の小さな身体が身じろいで、力を抜いて泣き笑いによく似た笑みを向ける。
「ルークが大切なんだって、彼が消えるって知ってはじめて分かったの。わたしが死ぬことでかわりに彼が生きるなら、そのほうがずっとずっと気が楽だって、そんなことはじめて知った」
……ああ、本当に本当になんて。

◇◆◇◆◇◆

「……ご主人さまも、前、同じこと言ったですの」
「え?」
「何でおれじゃないんだって、ティアだけなんだって、あのときのご主人さまと今のティアさん、同じ顔してるですの」
「……ルークが?」
あの時、とはティアが障気障害で苦しんでいた時のことだろう。不器用に気遣っていてくれていた彼を知っている、けれど彼女の知らない陰で、ミュウにそんなことをこぼしていたなんて。
「言ってたですの」
……そんな、そんなの、
――なんて。

もしももう一度を願うなら。
もしも、……もしも。
――彼に禁じた「もしも」が頭に渦巻く。
どこまでさかのぼったなら、この「今」を変えられるだろう。もしももう一度今までがくり返されたなら。

きつく目を閉じる。小さな手が彼女のあごにためらいがちにぺたりと触れる。
「ばか……っ」

小さなうめき、――脳裏に浮かぶのは、ただ。

―― End ――
2006/10/08UP
ルーク×ティア
OFP
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vie future
[最終修正 - 2024/06/27-09:56]