大人になったら、と約束をした。
だから明日がくるのが、いつだって楽しみだった。

―― personne adulte

一行の最後尾を歩いていた青年がふいっと立ち止まり、風のにおいをかぐようにゆるりと首をめぐらせた。そしてひどく哀しそうに、あるいは感情さえわきあがらないくらいに呆然と、誰にともなくぽつりとつぶやいた。
耳に届いたその言葉が理解できなくて、信じたくなくて息ができなくて。
ショックに目の前が真っ暗になるなんて、大袈裟なたとえ話でしかないと今まで思ってきたのに。それなのにナタリアの目の前は、今、

◇◆◇◆◇◆

幼いころ約束をした。
自分と同じ王族に生まれた、自分より一年ほどあとに生まれた彼と幼いながらも真剣に約束を交わした。彼も彼女も努力は必要だったけれど、それは決してかなわない約束ではなかった。互いに王族に生まれたからには、果たされてしかるべき約束だった。
彼の事情が変わってしまって、約束を果たすことができない状況になっていたと知ってからも。
けれど信じていたのだ、いや、実現を疑わなかった。
たとえ形を変えても、あの約束はきっと果たされるものだと。
信じることが、いつだって彼女の根本にあった。

約束はきっと果たされる。
彼が彼である限り、彼女が彼女である限り。

――では、彼が彼でなくなってしまったら……?

◇◆◇◆◇◆

粘つく空気をまるで泳ぐように、おぼつかない足取りで青年に近付く。そんなタチの悪い冗談を口にする青年ではないと知っていたけれど、かすかな望みに嘘を疑ってみる。
罠にかかった青年と合流して、彼もここに来ていると知ったあのとき、覚えた悪い予感はきっと気のせいだと。まるですがるように信じて、嘘と否定してくれることを期待して、自分の声さえ聞き取れない動揺の中青年に訊ねる。

――嘘でしょう?
だって、あの日彼と約束したのに。
遠い昔に、つい最近朝焼けの中で。
誰より強く苛烈で、けれど思慮深く誠実な彼と、確かに約束したのに。

浮かぶ思考に身体の動きがついてこない。思考が早いのか、それとも身体の動きが鈍いのか分からない。仲間たちの声が聞こえるのにその意味を汲み取ることができなくて、詰め寄っているはずの青年が何か声を荒げている、けれどその言葉がうまく理解できない。
それでも先ほどの言葉を否定しているわけではない、ただそれだけが伝わって。

彼がいなくなってしまったら、
ではあの約束はどうなってしまうのだろう。
あの約束を、彼の存在を核にして生きてきたナタリアの人生はどうなってしまうのだろう。
核がなくなってこれから先、ナタリアはどうやって生きていくのだろう。

◇◆◇◆◇◆

大人になったら、と約束をした。
だから明日がくるのが、いつだって楽しみだった。
今日より明日の方が約束に近付くから、果たされるその日がどんどん近付くから、
そのための努力を惜しんだりしないで、だから毎日明日がくるのが楽しみだった。

国も民も、いや、
――彼が隣にいてくれるのが、

黒く塗りつぶされた目の前、急に無理やり照らし出したのは足元に浮かんだ譜陣。彼が、彼とまったく瓜二つの、彼ではない青年がナタリアに向かって手をのばしてきて、その顔はどこか焦ったようなどこまでも真剣な顔で。

◇◆◇◆◇◆

――ルーク、
――わたくしの大切な、愛するひと。
――目の前に、となりにいなくても、目の届かないこの世界のどこかで、
――あなたもがんばってくださっていると、思ってきたのに。

いつか大人になったらと、約束してくれた彼は、
彼は……?

―― End ――
2006/07/22UP
アッシュ×ナタリア
OFP
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personne adulte
[最終修正 - 2024/06/27-10:08]