お互い一歩も引くものかという強い強いまなざしで、
ある種殺気までおりまぜて二人はじっと見つめ合っていた。

―― livrer bataille

「……ナタリア。民の手本となるべき王女がそう意地をはるのはどうかと思うが」
「あら、それは違いましてよアッシュ。今は自分のことよりも優先すべきが、他にあるというだけですわ」
くっ、と額に青筋浮かべたアッシュが無理に笑ってみせて、ふっ、とひょっとして犬歯がのぞくのではないかという野生味あふれる笑みをナタリアが浮かべた。両者手をのばせば互いに触れるほどに距離は近くて、けれど想い合っている男女独特の甘ったるい空気は今二人の間にない。欠片もない、微塵もない。
あるのは戦闘のときにも似た、心地よいというには緊迫しすぎたかたいかたい空気。

◇◆◇◆◇◆

――いや、事実戦闘はあったのだ。つい先ほど。
もちろんこの二人が争ったわけではなく、周囲にうろついていた野良の魔物と。
術も使うことができるとはいえ、基本は剣を片手に敵に突っ込んでいくアッシュは当然怪我を負った。補助の術やら治癒の術やら、あるいは得物が弓のナタリアは本来そうそう接敵しないはずだけれど、今回ばかりは向こうの数が多かった関係で無傷ではいられなかった。
互いが互いの心配をして、自分のことは後回しにして、結果今こうして、ぎすぎすした笑みを交わす羽目になっている。

平たい話、しょーもない以外の何者でもない。
しかしマジメにズレた天然の二人はそのしょーもなさ加減にまったく気付かない。

◇◆◇◆◇◆

「……おとなしくしてくださいませ、アッシュ、楽にしてさしあげますから」
「おまえこそ大人しくしていろナタリア、すぐにすむ」
聞きようによってはとってもヤバげな台詞まで吐いて、ついでに相手を取り押さえようとする手つきまでなかなかヤバげで、じり、とお互い相手の脇を取ろうとする。
その目はお互い真剣、しかし相手を気遣う色はとうに消えていた。
あるのは――……意地?
ちなみに少し離れた場所でのほほんと眺める仲間たちの存在その他は、双方脳内からきれいさっぱり消し飛んでいる。

「ちなみにわざわざあなたの手をわずらわせるほどでもないですわこんなかすり傷」
「それは俺の台詞だ、おまえがわざわざ精神力消費して治癒するほどの怪我じゃねえ」
しかし相手の傷は気になる、あくまで自分の手で応急処置をしたい癒しの術をかけたい。本人が嫌がっていても、どうしても気になる気になる気になる。

お互い一歩も引くものかという強い強いまなざしで、
ある種殺気までおりまぜて二人はじっと見つめ合っていた。

それはもう、太陽の傾きが感じられるくらいの長時間たっぷりとじりじりと。
そしてやがて、

◇◆◇◆◇◆

「ほーらじゃれてないでいい加減行きますよー」
「休憩時間とっくに終わったってのに、何やってんの二人とも?」
「「!!??」」
ツッコミが入ってそろって時間を確認してがっかりして恨めしそうな目で互いをねめつけてはっと気付いてふいっと顔をそらした。本人としては確実にそのつもりはないに違いないのに、鏡に映したように同じ動きをする二人に。
ギャラリーがふき出した。

……本当に何やってんだあんたら。(ツッコミ)

―― End ――
2006/08/04UP
アッシュ×ナタリア
OFP
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livrer bataille
[最終修正 - 2024/06/27-10:09]