陽だまりに咲く、あの花のように。
決してくじけないあの花のように。
「……アニス、服に何かくっついていますよ?」
「ほえ? ――あーっ、もう!」
ぱたぱたといつものように元気よく駆け回る彼女に何か白っぽいふわふわがくっついているのを見つけて、イオンは小首をかしげた。なんだろうと思って彼女を呼び止めて、とりあえずは目に付いたうちのひとつ、彼女の肩あたりをさしてみる。
きょとんと瞬いた少女は彼のさしたあたりに目をやって、次の瞬間大げさにいやな顔をして。ばしっとそのふわふわを払いのけた。
「何があったんです?」
「イオンさまは気にしなくてもっ!
……うー、タンポポをサラダにしようと思ったんです」
「はい?」
「タンポポのサラダです。健康に良いって大佐に聞いたから、イオンさまにお出ししようと思って。
まあその前に自分で作って食べてみようと思って、さっきあっちの方にタンポポ畑を見つけたからちょうどいいと思ったんですよ」
「……はあ、ありがとうございます」
「まだまともに作ってないから、いつ出せるか分からないんですけどねー」
――ここにもくっついていますよ、あ、そこにも。
言いながら次々さしていけば、言葉だけは丁寧に苦笑しながら、かんしゃくでも起こしたように彼女はばしばしとふわふわを払いのけていく。乱暴な動きにその背のトクナガも踊って、顔を見れば嫌がっていると分かるのに、その動きはまるで楽しく踊っているように見えて。
くすり、うっかり笑いの吐息を漏らしたならぎっと彼女が強い目を向けてきた。
そしてその場で子供っぽい地団駄を踏む。
「はっぱとか花とかつんでたらミュウが大騒ぎして! こっちは遊んでんじゃないのに歓声上げて喜ぶんですよ?
……イオンさまはタンポポの花とか実とかって見たことありましたっけ? あれにつっこんでいって。綿毛吹き散らして転げ回ってかぜのおかげでこっちにも飛んでくるし……あーもう! 怒ったらなんだか笑いやがるし!!」
「アニスアニス、言葉が汚くなってますよ?」
「聞かなかった方向でお願いしますっ!!」
憤慨するアニスは、そうして感情をあらわにするアニスはイオンの目にけれどまぶしい。笑って怒って、その表情の動き一つひとつがほほえましい。彼のために何かをしてくれる、導師守護役以上に彼に気を使ってくれる、そんな彼女のやさしさはただただ嬉しくて。
タンポポをつんだと言っていた、言われてみたならまだその手は土にまみれていて、むしろその手にはつんだばかりらしいタンポポが握り締められていて。
――黄色いその花は、彼女にとてもよく似合う。
ふとそんなことを思って。
「――アニスのつんでくれた花なら、別に料理にならないそのままでも嬉しいですよ、僕は」
思った瞬間にはそんな言葉がするりと喉をついて出ていて。
一瞬きょとんとしたアニスが、やがてふわりとほほを染めた。
「キザい台詞はガイの担当ですよイオンさま」
「……きざでしたか?」
「ええ、そりゃもお。……自覚ないんですか」
「そんなつもりなんてなくて、思ったままを言っただけですから」
――それがキザなんだよ。
ぼそり、つぶやきが聞こえてきたのにあははと笑う。真顔だった彼女の顔も、そしてほにゃりとほころんでいく。
陽だまりに咲く、あの花のように。
決してくじけないあの花のように。
いつでも笑っていてほしいと。
思っていたら、そっくり同じことを言って――彼女が笑った。
その顔はやはりタンポポのようで。
心の底に、ぽっと明るさとあたたかさが灯る。
