きょとんと瞬いた青年の手の中、どこまでも乱暴な手つきに。
けれど聖獣は嬉しそうに笑っている。
何の用だったか、一行はチーグルの森にいた。もはや道端の石なみによわっちい魔物を蹴散らしてそういえば長老が呼んでいるというミュウの言葉に、彼らがねぐらにしている大きな樹にまで足をのばす。
「みゅう、みゅみゅみゅ……」
「ええっと、よくぞまいられた、と言って……」
「だああっ! 挨拶から訳すな!! うっとーしい!」
出迎えた長老が鳴いて、ミュウがそれを訳す。もはやいつものことになっていたけれど、最初の挨拶だけで短気なルークがぶちきれた。
「みっ!?」
ミュウの頭をつかむと、抱えられていたリングを乱暴にはずす。じたばたする小さな身体にはまったくかまわない。
「みゅぅみゅみゅう!?」
「うるせえリングなしのお前に用はねえよ、話が終わるまでどっか行ってろ!」
そのままぽーいっとそこいらに投げ捨てて、落ちたチーグルの仔に同じようなチーグルたちがわらわら駆け寄って、
「ルーク! かわいそうじゃない!!」
「いいんだよミュウアタックでもぴんぴんしてるやつなんだから」
「あれはリングがあってこそなのですよ! ルーク、あなたはいちいち乱暴すぎますわ!!」
「……ていうか、ミュウアタックだって十分……なあ?」
「はっはっは。……まあいいじゃないですか乱暴な扱いされても肝心のミュウが嫌がっているそぶり見せませんし」
「大佐ってば地味にひっどーい」
乱暴なルークに噛み付いたティア、その援護をするナタリア、一歩引いた場所でガイとジェイドが言い交わしてアニスが茶々を入れる。すっかりいつもの雰囲気にチーグルたちがなんだかきょとんとした目を向けてきて、ぎゃいぎゃい言われているルークは片耳を押さえながらその場にしゃがみこんだ。
手にしたままのリングを、何やらもごもごみゅうみゅう言っている長老にずいと手渡して、
「うっせえからとっととすませてくれ。で? 一体何の用だって??」
何だよマジメにやってんのはおれだけか、と頭上を仰いでわざとらしい息を吐く。
「……こ、これは……」
「少々困りましたわね……」
長老から話を聞くのはどうやら彼だけで間に合いそうだと、いっせいに振り返ってそれを目にした一向は再び顔を前に向けた。そして一様に黙り込む――ジェイドだけはいつものとおり、意味もなく何かをたくらんでいる風ににこにこしていたけれど。
チーグルの巣穴ということで、あたりはチーグルだらけ。毛色の青いのからピンクのから黄色いのから、大きさも様々だけれど、長老のように明らかに見た目から違っていればともかく、普段のミュウのようにリングを抱えていればともかく。
このチーグルの山の中では、先ほど投げ飛ばされたミュウがどのチーグルなのか、はっきりいってまったく分からない。
「これかな?」
「みゅううみゅみゅ」
「あ、違うっぽい声が低い」
「よ、よく分かりますのね……」
カンで一匹、ひょいと抱えあげたチーグルにみゅうみゅう言われて、アニスはあきらめてその仔を適当な場所に下ろした。本当は声うんぬんというよりも反応で判断したのだけれど、どうやらナタリアは信じてしまったらしい。別の青毛のチーグルを抱え上げると、真剣この上ない顔でにらめっこをはじめる。
「ま、心配しなくても話が終わってソーサラーリングが返ってくれば……」
「旦那旦那、あれ一応オレたちの持ちものじゃなくて元はこいつらの……」
「いやですねーガイ、分かっていますよー。大体リングだけあっても私たちには何の役も立たないじゃないですか」
「本当にそう思っているのかしら……」
本心ではどれがミュウでもかまわずに、周囲をチーグルに囲まれて幸せいっぱいのティアが小さく息を吐いて、まったくだよとガイがしみじみうなずいた。
向こうではまだルークが長老と話しこんでいる。なんだかげんなりした彼の顔からして、誰かフォローに行ったほうがいいかもしれない。
思っているうちに話は終わったのか、リングを持ったルークがこちらに歩いてきた。
「……何やってんだ」
「おや、ルーク。話は終わったんですか」
「んー……終わったっつーか、なんだか世間話だったんだよなー。……何だ?」
「おいおい、何だと言われても長老の話聞いてたのお前だけだぞ」
「んなこと言ってもよー」
はあ、と息を吐いたルークが無造作にそこいらにいたチーグルの仔をつまみ上げた。あらルークいいところに、やら、ねえルーク何も考えずにミュウほかっちゃったみたいだけどさぁ、やら話しかける二人を無視して、つまみ上げたチーグルにソーサラーリングをはめさせる。
「おいブタザル、おまえもっぺん長老んとこいって話聞いてこい。んで、分かりやすく簡潔にまとめて報告な。
おらいってこーい」
「みゅっ、分かりましたですのご主人さま!」
「ルーク!」
「……んだよティア、別にこいつはこんな程度じゃ死にゃしねえって……」
「ミュウ……どの仔か分かりましたの?」
「へ?」
リングつきのミュウを長老に向けて投げ飛ばそうとした姿勢で、ルークはぴたりと動きを止めた。不思議そうな顔を横に向けて、声を上げたナタリアばかりか、その脇のアニスやら声を荒げたはずのティアやらその向こうのガイまで驚いた顔をしているのに気が付いた。
ジェイドは相変わらずにこにこしていたけれど。
「だってこいつ……いちばんウザってー」
「えへへーですのー」
きょとんと瞬いた青年の手の中、どこまでも乱暴な手つきに。
けれど聖獣は嬉しそうに笑っている。
――つか、喜ぶとこじゃないだろミュウ!!
とりあえずルーク以外のメンバーの心がひとつになった。
