深い色の目の奥に、一体何を隠しているのか。
「大佐ってホントに何考えてるか読めないですよねー」
「あはははは、――知っていますかアニス? そういうのを失礼というんですよ」
「えー、でも事実じゃないですかー。もうだいぶ付き合い長いのに、いまだにあたし、大佐の底が知れないというか」
「おや、ミステリアスで魅力的だと評判なのですが……」
「……誰にですか?」
「まあ……主に街にいる妙齢の女性などに」
旅の最中、道をゆっくり行きながらふとアニスがつぶやいて、他にすることもなく暇だったのもあってジェイドは少し喰い付いてみた。年齢の割にわきまえている少女はどこまでが計算でどこからが天然なのか、馬鹿みたいな話がよく弾む。
馬鹿みたいな話ばかりよく弾む。
「えーっと。大佐がすっごいひとだってのはよく分かるんですよ? フォミクリーとか、あたしでなくてもきっと普通思い付かないし」
「……まあ私が考案したのは、現在のフォミクリーではなくて、それの元になる術ですけども……」
「あたしにとっては同じですよぅ。ていうか、何かの拍子でふと思い付いたとしてもそこで終わり、実現しようだなんて思わない。絶対」
断言しながらうんうんとうなずく彼女に合わせて背のトクナガも動いていて、それがまるでトクナガまで力強くうなずいているようだ、なんてまったく関係ないことを思った。思っているうちにくりんと彼女の目が見ていて、そうですねえ、などとつぶやきながらあごに手を当ててみる。
「フォミクリーはともかく、何かを思い付いてそれがおもしろそうなものだった場合、まあ仕事だったならそれが義務になりますけども、どうにかしてみたい、なんてよく思うものでしょう?」
「……まあ、それは」
「思い付いて面白そうで、そのことばかりを考えていて、何かの拍子でそれが実現できそうな方法を思い付くことも、たまにはないですか? ……そうですね。たとえばアニスの得意なもの……新しい料理とかなら」
「うーん……まあ、それが料理なら。
食材見たときにそれをどう調理しようかなーとか、いつもと違う調味料で味を調えたらどうなるかなーとか、それに合う別の食材は何があるかなーとか、……まあ、料理なら確かに思いますけど。
料理と大佐の技術とは大部違うと思いますけどー」
「同じですよ、それが得意分野が違うということです」
そうかなー、と納得いかない調子で首をかしげるアニスにジェイドは小さく笑う。たぶん話をそらすことで彼女を煙に巻こうとしていることを、察しの良い彼女は気付いている。それでもこうして喰い付く程度にはジェイドの興味を引いていると知っていて、だからこうして話が続いているわけで。
――本当に腹の底を読ませないのはどちらの方だ、なんて。
年齢のわりにわきまえている少女にただただ思う。生まれついての特性やら自身の性格やら周囲の人間の影響やら、そんなものが大いに関係しているとはいえ、若干十三の少女がそんなものを身につけてしまっていてどうする、と。
思っても、――まあそれを表に出さないくらいには、彼は腹の底を見せない性格をしていて。それを自覚していて。
「……てゆーかまあ、そもそもひと一人を全部完璧に読むなんて、最初から無理だってのは分かってるんですけど」
気をそらせていたせいか、つぶやきのような独白のようなそれに反応する隙はなかった。思わず瞬いたジェイドに瞬間だけ微笑んだ少女が、それがどんな種類の笑みなのかジェイドにさえ悟らせる前に、アニスがそれとはまるで違ういつもの底抜けに明るい人懐こい笑みを浮かべて、
「――そういえば大佐って年齢も読めないですよねー。マルクトにはそういう関係の術でもあるんですかってぐらい」
深い色の目の奥に、一体何を隠しているのか。ひっそりうかがってもそれはまるでいつもと同じ目でしかなくて、まるでいつもと同じアニスでしかなくて。
「年齢不詳ですかー。……それって誉め言葉なのでしょうかけなし言葉なのでしょうか?」
「さーて、どっちでしょう」
旅の最中、道をゆっくり行きながらアニスが馬鹿みたいな話を振って、他にすることもなく暇だったのもあってジェイドも少し喰い付いてみた。いかにも腹に何かを抱えていそうな笑みを互いに浮かべて、あはははは、なんていつもどおりの薄っぺらい絶対に本心からではない笑みを互いに浮かべて。
馬鹿みたいな話が弾む、馬鹿みたいな話ばかりがよく弾む。
