―― 擦れ違う腕とかち合う視線

パーティ全員が体力も精神力もほぼ使い果たして、手持ちのアイテムも食料もごく一握りを除いて使い果たして、ぎりぎりの状況でなんとか街まで戻ってきた。全員が全員、いろいろと甘かったところがあるのだろう、もちろん彼も含めて。
けれど反省会よりもまず先に、よれよれになって駆け込んだ宿屋。街の外での生死の境目では何の役にも立たなかった、けれど街に入ったならこれ以上万能で強力なアイテムもないのではと思われる、お金、にモノをいわせて即座に用意させた部屋で。全員泥のように寝入ってから果たしてどれほどの時間が過ぎたのだろうか。
寝すぎのあまりガンガンにぶく痛む頭を抱えて、とりあえず顔を洗って、何の目的もなくうろうろと散歩というか探検に出かけて。
「フェイト」
物陰からぴょこんと顔を出して彼を呼ぶのは、幼馴染の彼女。

◇◆◇◆◇◆

「ああ、ソフィア。起きたんだ? まだ寝ててもいいよ、どうせ半分くらいはまだ夢の中で……打ち合わせしてないけど、出発は早くても明後日くらいかな。明日は買出しとかしたいし」
「フェイトこそもっとゆっくりしてればいいのに。わたしは大丈夫、たぶんみんなの中で一番元気だったんだよ?」
「あはは、今の顔色ならそれ信じてもいいかな。街に辿り着いたときなんて、」
「それいうならフェイトも同じだからねっ!」
「……あー、確かに。鏡見る余裕なんてなかったけど、ゾンビの一団だったよなー。冗談抜きに死にかけた。ちゃんと反省会しないとまずいよなあ」
「アイテムの管理当番とか考えなきゃだよね。あると思ってたの、誰かが使っちゃってて、それが重なったから。今回」
「だよなあ。……ああ、カフェになってたんだ」

何でそんなところから、と思いながら彼女に近づけば、角を曲がったとたん自分の方向感覚とかもろもろが間違っていたことを思い知る。おそらく宿泊客専用の施設なのだろう。宿の入口から奥まった場所に、小さな、けれどいかにも女の子が好みそうなかわいらしいカフェがあって、ソフィアはどうやらそこで一人お茶を楽しんでいたようだった。

「……あれ? よく分かったな、ソフィア。僕がこっちにきたの」
「え? だってこの植え込みの影から見えるようになってるんだよ。一回ここの前通って、そのまま通路に沿ってけばここに着くの。さっき、フェイトの脚が見えたから」
「へー」
言われて振り返って、確かに。おそらく宿の従業員が便利なようにだろう、知っていれば向こうからも気づいたかもしれない、けれど実際には植木がうまいこと目隠しになっている。向こうから来て、このカフェの存在を知らなければ、たぶん植木の向こうは壁だと信じたに違いない。事実、フェイトはそう思っていた。
正直に感心すると、ティースプーンをくるくるさせながらソフィアがくすくすと笑う。
「フェイトって、ちゃっかりしているようで変なとこ抜けてるよねえ。変わってないんだ、そういうとこは」
「なんかトゲがないか、ソフィア? いま機嫌悪い??」
「そんなことないもん。……あ、でも。
一度フェイトに言っておきたかったこと、そういえばあったんだ」
「…………え?」

◇◆◇◆◇◆

なにしろ長年の付き合いだから。彼のことごとくがバレバレなのと同様に、彼女の大体も分かる自負はある。少し前に不可抗力でかなりの長期間離れ離れで、その間にお互いに降りかかった怒涛を思えばその自負も少しは揺らぐけれど、それでも時間の積み重ねに関していえば両親よりもずっと長い間一緒にいたから。
表情で、声の調子で、まとう雰囲気で。何を言いたいかなんて、おおよそ見当がつく。
と、思っていたけれど。

「あのね、女の子扱いされるのって嬉しいよ」
「……はい?」
「フェイトにエスコートされると、フェイトに特別扱いされると、嬉しいなって思うんだ」
「ええと……ソレハドウモ?」
長年築き上げてきた自負は、あっという間に崩れ去った。たぶん文句を言いたいのだろうと思っていたけれど、この会話の流れから何が飛び出てくるのかは分からない。
そもそもフェイトにとってソフィアはソフィアだから、ことさら女の子扱いした覚えがなかった。体力がないとか腕力がないとか、細かいところに気がつくだとか、もちろんソフィアが女の子だという事実を否定したいわけではなくて、フェイトにとってそれがソフィアで、ソフィアを気遣うことは呼吸するよりも自然なことだった。下手をすれば遺伝子に刻み込まれているのかもしれない。いやいや、まさかそれは冗談にしても。
「だから、やさしいフェイトは嬉しいんだけどね?」
「……けど……?」
「フェイト、わたしを対等に見てる?」
「…………はい……?」

なにしろ長年の付き合いだから。彼のことごとくがバレバレなのと同様に、彼女の大体も分かる自負はある。
ある、けれど。
――オンナノコは、なんだってこうもムズカシイのだろう。
――無理難題ばかり、平気な顔してつきつけてくるのだろう。

◇◆◇◆◇◆

「……ソフィアはソフィアだろ……?」
「ぶぶー。答えになってません」
宿の奥まった場所にある可愛いカフェ、いるのはソフィアとフェイトだけで、何があったのか店員の姿さえない。仲間たちはまだまだベッドの中の住人で、偶然にでもここまで迷い込んで、結果的に助け舟になってくれることを期待するわけにもいかない。
ティースプーンをかちゃりと置いたソフィアが気取った仕草でカップを取り上げて、たぶんミルクティを一口含んだのが見えてもフェイトの頭は回らない。そのうちちらりと翡翠がこちらを見ても、何をどう返したらいいものかまるでまったく答えが浮かばない。
「大切にされてるって、嬉しいよ? 妹扱いでもそうじゃなくても、嬉しいしありがたいと思うし、特に旅なんか出たら足引っ張ってばっかりなのに、許してもらえるってむしろ申しわけないと思う」
「ええと……?」
「でも、フェイトたちにくっついてきてもうだいぶ経ったよ? 剣は扱えないけど、呪紋はいっぱい覚えたからそれなりに戦力になれてると思う。マリアさんやネルさんやミラージュさんに、勝てるとは今だって思わないけど負けるとも思わない。
なのに幼馴染って以上に、フェイトに過保護に心配されてるって思うの、わたしの気のせい?」

畳み掛けるように言われて、頭の回転はひそかに早いほうだと思っていたのにソフィアの話には全然及ばない。予想外の方向から予想外の攻め込みをくらって、混乱が全然収まらない。体力や精神力が回復したからこうして暇つぶしの散歩兼探検に出かけたというのに、実は回復したと思ったのは間違いだったのかもしれない。
ソフィアが、どんなこたえを期待しているのか、分からない。
そもそもソフィアの言いたいことの何ひとつ、全然理解できていない。

「フェイトにとってわたしって何、とか。今のフェイトにわたしって必要なの、とか。そんなんじゃないの。ただ、……釈然としないんだよ。
馬鹿にされてるとは思わないけど、似たようなものなのかな?
ねえ、フェイト??」
大切だと思う、特別だと思う、――それは分かっていると、目が言っている。それを否定したいわけではなくて、それをつきつめたいわけでもなくて、けれど。
なにしろ長年の付き合いだから。彼のことごとくがバレバレなのと同様に、彼女の大体も分かる自負はある。その自負をこてんぱんにノしてつぶして、翡翠の色がゆっくりと瞬く。

そして、かちゃん、と。いつの間にか空になっていたティーカップがソーサーに戻されて。ゆっくりと立ち上がった少女が彼に近づいて彼のわきを行き過ぎて、けれどどんな魔法なのか視線だけはずっと絡んだままで。
擦れ違う腕とかち合う視線、投げかけられた不可解な質問。
瞬きで一瞬呪縛は解けても、
――フェイトの頭の中に問いの応えは、その欠片さえ浮かんでこない。

―― End ――
2008/09/23UP
切情100題_so3CP混合_
OFP
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擦れ違う腕とかち合う視線
[最終修正 - 2024/07/10-17:04]