ああ、こんなにぎやかな――子供たちに接するのは、果たしてどれくらいぶりだろうか。

―― 三度目の告白

最初に顔を合わせたあのとき、悠長に説明をする手間を省いたことは、あとから思い返してもいい選択ではなかったと思う。確かに時間は惜しかったけれど。それでも青年は突然現れた自分を信用して、同行することにうなずいてくれた。青年と共にいたほかの三人も、青年の決定に異論はなかったらしい。もしくは青年の判断にそれだけの信頼をおいているのか。
ともあれ。
「じゃあ急ごうか、バッカス」
「同意する。ミスタ・エッジ」
先ほど自身が破壊した壁を、先導するかたちでくぐり抜ける。青年は危なげなく、黒髪の乙女はどこかこわごわと、そして――年端もいかない栗色の髪の少女に破壊跡は親切な道ではなかったらしい。瓦礫に足を取られて小さな身体が転がりかけたのを、最後尾にいた少年があわてて支える。そんな一連に周囲を警戒しながらも気づいて、なんともいえない気持ちになった。
そしてそんな気持ちになったことに、他でもない自分がそんな気持ちになったことに、違和感を覚える。
この鋼鉄のボディを得てから、いや、生身の肉体のときからすでに。そういった人情の機微を、自分は不要のものとしていなかっただろうか?
「……バッカス?」
「すまない。――こちらだ」
かけられた声に些細なことに気を取られている場合ではないと思いあたって、中央隔離室への道順を示すと、やはり先導するように足を踏み出した。想定外の時間をとってしまった――余計なこと、だとはまったく思わなかったけれど。

◇◆◇◆◇◆

「……バッカスは、」
「なんだろうか、ミスタ・エッジ」
「あ、いや……なんていったらいいのかな。……実は」
「うむ」
「――実は、回復アイテムの手持ちがあんまりないんだ。こんなことならさっき道すがらにあった自販機でしこたま買い込んどくべきだったな、って思ってさ」
「カルナスに――ええと、わたしたちの乗っていた船なんですけど。戻ろうと思えばすぐに戻れるつもりでいたんです。もしも怪我をしたならカルナスに戻って少し休めばいいって思って、やっぱり、ほら、カルディアノン人の扱う回復アイテムがわたしたちにちゃんと有効か、なんて人体実験するわけにもいかなくて」
「もう少し時間などに余裕があったなら、一度、買ったものを持ち帰って分析したんですけど。まさか転送されて監禁されるなんて、想像できなくても仕方ないですよ、エッジさん」
「……むぅ。こまったのよ」
歳若い四人組は、顔を突き合わせてにぎやかにため息を吐くと、なぜかこちらにいっせいに目を移した。何かをいいたいのだろう、とは判断できても、つい先ほど会ったばかりでは彼らのいいたいことを推測する材料が足りない。不法侵入だったり破壊活動をしていたりで、ひとところにじっとしていると当然ながらセキュリティに引っかかって防御ロボットが集まってくるため、歩きながら、彼らが何をいいたいのか考えようとして、答えに思い当たる前に解答が示された。
「つまり、避けられる戦闘は避けたいんだ。むしろ、戦闘になってもできるだけ逃げて被害を抑えたい」
「エッジとリムちゃんには回復の魔法が扱えるんですけど、精神力を回復させる手段がアイテムしかなくて、それが今心許ないんです」
「れーたん、魔法じゃなくて呪紋なのよ」
「もしも先ほどのような自動販売機がこの先にあるようなら、そのときはためしにいろいろ買ってみましょう」
「――なるほど。了解した、ミスタ・エッジ。ミス・レイミ、ミスタ・フェイズ、ミス・リムル。
……む」
話し声で敵を寄せたのか、それとも話に夢中になって歩くことがおろそかになっていたのかもしれない。さっそく防御ロボットに鉢合わせそうになり、けれどそれなりに距離があるので移動速度を上げれば引きはがせそうだと判断する。
バッカスは、やおらリムルを抱え上げた。
「ふわっ!?」
「ミスタ・エッジ。背後四時の方角に防御ロボットを感知した」
「――ああ、わかった。ありがとう、バッカス。リムルを頼むよ。
レイミ、フェイズ。走るぞ」
「了解!」
「わかりました、エッジさん!!」
身体に内蔵したセンサを駆使して、敵の少ないところをサーチしながら、もちろんエッジたちをおいていかない速度、抱えたリムルが脳震盪などを起こさない程度の速度で移動する。鋼鉄の腕に、抱えるというよりも座った格好に落ち着いた少女は、最初こそ途惑っていたものの、すぐに――むしろ歓声を上げだした。
「高いのよー、早いのよ! フェイズ、はやく走らないとおいていくのよ」
「そういうことは、自分の足で走りながら言ってください!」

ああ、こんなにぎやかな――子供たちに接するのは、果たしてどれくらいぶりだろうか。
ひょっとして人生で、もちろん自分が成人して「子供」ではなくなってからのカウントだけれど、ひょっとして人生ではじめての体験かもしれない。少なくとも、こうして幼いこどもを抱えあげる機会なんてそうそうなかったはずだ。

◇◆◇◆◇◆

「……ちょっと、バッカス。悪い、もう少し、ゆっくり……!」
「すみません、じ、持久力あんまり、ないみたい、で……」
「フェイズはだらしがないのよ」
「…………っ、だから、そういう、ことは……!!」
「うむ。……すまない。ミスタ・エッジ」
正直なところ、ある意味浮かれていたのかもしれない。
エッジが上げた声にあわててスピードをゆるめて、けれど結局、カルディアノンを脱出するまでに――少なくとも三回はそんな会話がくり返された。

―― End ――
2009/05/10UP
一から十のお題_so4CP混合_
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三度目の告白
[最終修正 - 2024/06/17-13:23]