再会、というわけではないけれど、昔から見知ったつもりになっていた女は、
けれどやはり初対面だった。

―― 七日ぶりの再会

お守りを任されて、ぞろぞろと移動する、その最後尾についた。女子供の数のほうが多い一行。その物腰からすると当初の印象よりは――単なる民間人よりは、戦えるかもしれないけれど。いくら戦い方を知ってはいても、この連中は現地調査のプロであって、戦いのプロではない。……先ほど別れたあの赤毛の男も同じ立場だったはずだけれど、さすがにあの男は規格外に決まっている。
なので最後尾について周囲の気配に気を配りつつ、ふと、淡紅色の後頭部に目が止まる。
――これが。

◇◆◇◆◇◆

任務のかたわら、クロウが気にしていた女のことは知っている。いっそ恋仲なのかと勘ぐったこともあったほどだ。戦場を渡り歩くような危険な任務の最中なのに、その懐に常にあったのは、戦闘とはまるで関係ないボイスレコーダー。
その内容も知っている。脱出のかなわない沈没しかけた船の中、取り残された男が恋人だか妻だかに遺した言葉。個人のプライバシーに関することなので直に聞いたことはなかったはずだけれど、その認識さえ曖昧になるほどくり返し説明を聞いた。
――軍人のエイルマットに偉そうに言うことでもないけどさ。
――死にかけたひとが遺されるひとに宛てた言葉は、ちゃんとそのひとに届けるべきだと思うんだよ。俺は。
――知らなければ無視できたかもしれない。けど、知っちまったからさ。
何か過去にあったのかもしれない。それともそれだけ生真面目なのか。軽薄に思うほど常には明るいくせに、この件に関しては別人のような目をしていた。まっすぐに、ひょっとしたら熱に浮かされたように。

その目が、ちっぽけな機械を通して見ていた女。
死に行く男が、自分がいなくなったあと、ただその行く末だけを心配していた女。
――二人の男を振り回していた女。
当人に自覚があったかなかったかはともかく、それだけの価値のある女なのだろう。

◇◆◇◆◇◆

「なあに? そんなに熱っぽく見つめられたら、気になるわ」
「別に凝視していたつもりはない。たまたまだろう」
「そうかしら?」
不意に振り返った女は、果たして艶っぽく微笑んでいた。二人の男どころか、大抵の男のこころを絡め取るだろう、そんな笑み。目の奥が今も哀しみで揺らいでいるからこそ、その笑みにさらに深みが増している。
ただし、自他共に認める朴念仁のエイルマットに女の色香は通用しない。

「――クロウがやたら気にしていたからな」
「……」
「それがこの女かと思っていた」
「あら、じゃあやっぱり私を見つめていたんじゃない。うそつきね」
「結果論だ」
一行はずんずん先に進み、エイルマットもそれにあわせて歩を進め、女は足を止めているから必然的に女に追いつくことになる。横並びになってから女が再び歩きはじめたりしたら、当然同じペースで歩くことになって、
「……何のつもりだ」
「私が横を歩いていたら何か不都合でも?」
「俺は馴れ合うつもりはない」
「じゃあ馴れ合わなくていいから話し相手になりなさい」
命令するな、と思ったけれど元から仏頂面なので表情では伝わらない。打てば響く勢いで言葉が返ってくると、話すことに長けていないというかむしろ慣れていないエイルマットのペースは、それだけで乱されて立ち直るきっかけもつかめない。
「……正直なところ、まだ落ち着ききっていないのよ。話しているうちに、多分、落としどころが見つかると思うし。
相槌うてとは言わないから、話くらい聞いてくれてもいいでしょう?」
「他にも適任はいるだろうが」
「ばかね、消去法であなたしかいないって思ったからわざわざ話しかけたのよ」
「…………」
一言に対して三倍にも五倍にもなって返ってくるので、返事をしない方がいいのだと思った。黙りこくった彼が了承したと思ったのか、ふ、と吐息で女が笑う。
「ぼうやたちに比べれば戦闘経験は私の方が上よ。敵の接近に気づかずに話に夢中になるなんてありえないから、それくらいは信用してほしいわね」
「……」
「もっとも、一人旅はあの男――クロウを探しはじめてからだから、あなたから見れば似たようなレベルなのかしら。私も、ぼうやたちも」

◇◆◇◆◇◆

再会、というわけではないけれど、昔から見知ったつもりになっていた女は、けれどやはり初対面だった。知っていたつもりで全然知らないただの他人で、けれどひどく目を奪う。

本当に声に出して話ができるならそれでいいのだろう。それとも、そう見せているだけなのか。途中から返事をしなくなったエイルマットをまるで気にしていないように、一人で話し続ける。
とりとめのないようでいて、ただ一点、一人の男のことをただ話し続ける。たった一人を想い続けて、今も想っているのだと、朴念仁のエイルマットにもよくわかる。

――男二人を振り回して、それ以外のすべての男を振り回して、けれどそれに足る。
――いい女、なのだとふと思った。

◇◆◇◆◇◆

「――それで、って、……あら」
「気づいたか」
肩に預けていた大鎌を握りなおす。女が足を止めて、こちらは杖をかまえながら多分軽く肩をすくめた。明らかに自分を――自分たち一行を目指した気配が近づいてくる。殺気が近づいてくる。
どうやら、実際にこの一行の戦闘能力をはかる機会がやってきた。

「――敵だ!!」
前方に声を投げつけながらじりりと歩を進めたなら、
入れ代わるように後ろに自分の下がる女が、多分、
なぜだか笑ったのが、わかる。

―― End ――
2009/05/22UP
一から十のお題_so4CP混合_
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七日ぶりの再会
[最終修正 - 2024/06/17-13:23]