最初にエッジに出逢ったときのことは、そのあたりのことは、レイミの記憶にずいぶん薄い。どちらかといえば細かい過去まで覚えている彼女だけれど、ことエッジと過ごした時間は密度が濃くて、きっとそのためだろう、あまりよく覚えていない。
ただ、断片的にいくつか覚えていることはある。
そう、だから身に染みてわかっている。

◇◆◇◆◇◆

「……レイミ」
「ま、まじめくさった顔してもダメだからね! 船長だろうがなんだろうが、シミュレータに夢中になったあげく船の備品壊したのはエッジのミス!! 始末書と反省文と修理の手配と、あと、修理費用はエッジのお給料から天引きです!」
「ち、ちょ……!」

天球室にあるベンチのひとつの収納システムにちょっとしたトラブルがあって、収納しないままバッカスの修理待ちの状態だった。そもそもレイミにそれを告げたのはエッジだったのに、修理が終わるのを待つよりも、ワープ中で身体が鈍るからとシミュレータを優先した理由がレイミにはよくわからない。
なにしろトラブルといっても、他のベンチの収納スピードに比べてやや鈍い、ぎごちない、といった程度。念のための修理点検には、丸一日かかるほどでもない。ほんの数時間、たとえばメンバーと雑談をするなりアイテムクリエイションをするなりすれば、あっという間に過ぎただろう。
けれどエッジはシミュレータを選び、さらには動きの鈍いベンチの収納をサボって、出しっぱなしのベンチには気をつければいいさとタカをくくって――結果、シミュレートに夢中になった彼の剣は見事ベンチを真っ二つにした。
まったく、ちょっとした手間を惜しんでもっと大きな失敗を呼ぶとはなにごとだ。

幼いころから見慣れた、いつか自分を軽く追い越した長身がレイミの宣言で見事にしおれた。いつもは見えないつむじを見下ろして、果たしてエッジがここまでしおれているのは、面倒くさい書類にだろうかそれとも給料の方だろうか。
ともあれ目の前で大げさに落ち込まれると、叱っているレイミの方が悪いように思えてくる。規律は守るべきで、船長は船員たちの模範となるべき。間違っていないはずの認識が、ぐらぐら揺れる。
――ダメだ。
別にエッジにそんな計算があるわけではないと知っている。だからこそ余計に、うっかりするわけにはいかない。
「ちなみに書類は手書きしか認めません」
「……いや、そこはせめてなんとか……レイミ知ってるだろ、僕の字は、」
「癖字だろうとなんだろうと、エディター使ったらペナルティにならないでしょ。あんまりダダこねると、……反省文の枚数まで指定した方がいいですか?」
「こんなときだけ敬語になるなよ……うう」
「――ベンチを壊したのは?」
「はい、僕の責任です。ゴメンナサイ。逃げようとしてスイマセン。
……わかったよ、うん、確かに僕が悪かった。明日の朝イチに副長に提出でいいよな?」

◇◆◇◆◇◆

最初にエッジに出逢ったときのことは、そのあたりのことは、レイミの記憶にずいぶん薄い。どちらかといえば細かい過去まで覚えている彼女だけれど、ことエッジと過ごした時間は密度が濃くて、きっとそのためだろう、あまりよく覚えていない。
ただ、断片的にいくつか覚えていることはある。
そう、だから身に染みてわかっている。
――いる、のに。

「うん、ちゃんと反省すればよろしい。
……ちゃんとクリアしたなら、明日の晩御飯はエッジの好きなもの作ってあげる」

なのに。
どうしても、たとえ全面的にエッジが悪くても、最後の最後でレイミは彼に甘い。

「ええ!? わかった、今すぐ書いてくる。――約束だからな!」
「え、と。……ちゃんと反省してよね! 二度目はないからね!!」
ちょっと厳しかったかな、とごほうびを提示した瞬間、それまでしおれていたエッジが一気に復活した。犬ならばっさばっさとしっぽを振って大喜びしていることうけあいの、これで本当に二十歳、大人かと思わず疑ってしまうほどの、無邪気で無防備な喜びの顔。
言葉通りすぐさまその場で回れ右、スキップさえしそうな後ろ姿に叫んだけれど、レイミの声は果たしてエッジに届いていただろうか。

◇◆◇◆◇◆

……ああ、またやった。
身に染みて覚えているのにまたしてもやってしまった。

ひとり天球室に取り残されたかたちのレイミは、プシュ、と入口ドアが閉じた直後に自己嫌悪でがっくり肩を落とした。これで何回目か、過去を振り返って数えることさえできない。両手両足どころではないことは確かで、そのたびに毎回落ち込むはめになるとわかっているのに。

エッジの笑顔に、レイミは極端に弱い。
当のエッジがそれを自覚していないのは、果たしていいのか悪いのか。

―― End ――
2009/06/23UP
沁々三十題_so4CP混合_
OFP
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きらきらのお星様に耐えられない
[最終修正 - 2024/06/17-13:28]