「寝不足って美容の大敵なのよね」
なんでもない、けれど明らかにこちらに聞かせる声に思わず振り返る。振り返るまでもなく先ほどその脇を通ったばかりだったことに気がついたのは、その時見たのとまったく同じくカクテルグラスを傾ける姿を、ほの明かりに認めてからだった。
「……だったら先に寝てろ」
「そういうわけにもいかないわよ。残念ながらね」

時刻は夜。宇宙の命運を背負っている割にお人好しの船長は、こんな時期なのに頼まれごとを基本的に断らない。最近出没するようになった夜行性のモンスターを退治してくれと頼まれて、やはり今回も二つ返事で引き受けた。
ただし。

「あの坊やの石頭っぷり、どうにかしてほしいわ」
「知るか」
「そもそも民間人が戦闘にしゃしゃり出るな、とかいわないでよ?」
「……いってねえ」
いおうとして機先を制されて、思わず大鎌を背負い直したのがよほどわざとらしかったのだろうか。カルナス一階レクリエーションルームの一角、スツールに腰を落ち着けた女が華やかに笑う。

◇◆◇◆◇◆

――夜行性のモンスター、集めた情報からして甘く見るわけにはいかないにしろ、それほど強いわけでもない。
そう知った船長は、フェミニスト全開で女性メンバーのカルナス待機を命じた。装備もアイテムも揃っているし、別にメンバーの腕と性格と相性に不安があるわけではないけれど、おもしろくないのだと女はぼやく。

◇◆◇◆◇◆

「まったく、いい男に護られるのは女冥利に尽きるけど。別にこんなところで女扱いしてくれなくてもいいのに」
「文句はあいつにいえ」
――むしろ女扱いされたくないのなら、まずその格好を改めろ。
「いったけど聞いてくれないのよ。ガンコモノばっかりなんだから」
「そのエッジはまだか」
「ずっとここにいた私が知るわけないでしょう。……レイミも納得していないようだったから、つかまっているんじゃない?」
「……そうか」
「ちなみにバッカスは装備品の最終チェック中のはずよ。時間までには終わるとかいっていたけど」
隔てた闇と距離に、けれどグラスのふちをちろりと舐めた仕草はなぜか見えた。だからどうとは思わない。ただ、そんな艶めいた仕草に相容れない強い目線が気になる。
「――文句があるならアルコール入れるな、とか思ってる?」
ないとは思うけれど、もしも副長に説得された船長がメンバー全員で、と前言を撤回したなら。酔う酔わないに関わらず、アルコールの入った状態でついていけるのか。
つられてそこまで考えて、ひとつ息を吐く。
「……どうせ覆るはずないだろう」
「あら、残念。これジュースよっていおうと思ったのに」
そして、笑う。――この女はよく笑う。華やかに、けれど本心ではない見た目だけの笑みを。
それがどうとは思わない。思わない、けれど。

「――まったくねえ。旦那さまの帰りを待つ妻、なら納得もするけど。仲間なんだから上下も何もないのに」
「納得したなら、休むのか」
「冗談。旦那さまがお仕事している間は、できた妻は家庭を守るものよ。――エルダーの文化に相容れないかしら」
「さあな」
階上を移動するさわがしい気配に、ようやくかと再び大鎌をつかみ直して、ハッチへと向かう。そうしながら暇に任せて、集めた情報を脳内で再び整理する。
――ああ、そうか。この女と話をしていたせいか、ずいぶん気がまぎれた。

「稼いでくれたお金を気分よく使うためにも、待ってるから。早くすませてきなさいね」
――あと、余計なケガを負うんじゃないわよ。
可愛くない言葉に見送られて、一言返してやろうかと振り向きかけて、けれどどやどやと降りてきた気配にあきらめる。いわれなくてもとっととすませてくるかと、ずいぶん甘さに毒されてきているなと、思いながらタラップへと足を踏み出した。

―― End ――
2009/06/30UP
沁々三十題_so4CP混合_
OFP
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帰ってくるまで、起きてるからね
[最終修正 - 2024/06/17-13:29]