――ねえ、エッジってレイミの何?
そう訊かれたことは、過去に何回もあった。それぞれの固有名詞に「ちゃん」やら「さん」やら「くん」やら、そんな敬称がついたりつかなかったりしたけれど。相手の目に浮かぶ感情は、単純な好奇心から嫉妬から憎悪から嘲笑から、たいていは負に分類されるようないろいろなものだったけれど。
けれど過去の、何回訊かれたかもわからないこのテの質問に対して、レイミが明確に回答をしたことは一度もない。幼いころはただ答える言葉を知らなかったから。そして、ある程度成長してからは、

「……一言では、答えられない、わよ」
ひとりきりの部屋、クッションに顔を埋めたレイミはそのままもごもごとつぶやいた。そしてそのまま盛大にため息を吐いて、息苦しさにぷはっと顔を上げる。けれどそのまま数秒後、力尽きたようにへなへなと再びクッションに顔が埋まった。

◇◆◇◆◇◆

エッジが女のひとと話しているのを見かけた。
そしてその後、そのひとにレイミは声をかけられて、いつもの質問をぶつけられた。
これで何回目だろう。いつものように、コイビトではないとだけ答えて、だから外堀を埋める必要はないからあとは直接彼と話をすればいいと告げて、逃げた。
問いに答えていないことは、誰よりもレイミがいちばんよくわかっている。けれど他に答える言葉を知らない。相手の神経を逆なでずに、けれどレイミ自身のこころを傷つけずに、なおかつ嘘をつかない回答がレイミの目指すもので、今のところ他にいい答えは思いつかない。

――エッジが、すき。
それは幼いころから自覚している。けれどその「すき」がどんな「すき」なのか、複雑すぎてもうレイミには自分の気持ちが分類できない。自分の気持ちをつきつめるのがこわい。今の危ういバランスを自分から崩す思い切りが、レイミにはない。

自分以外の誰かと、それがたとえ男友だちでも、エッジが笑っている姿を見るとこころがもやもやする。ましてそれが女のひとだったなら、もやもやどころかどろどろで、そんな気持ちを抱く資格がないことなんてわかりきっているからこそ、自分に対してそのたびに幻滅する。
せまいところに閉じこめることなんてできないエッジを知っているから、閉じこもることなんてできないエッジを知っているから、そんな彼がすきだから、広い世界に飛び出していってほしいと思う。いろいろなひとと出会ってほしいと思う。幼いころから彼を知っていて、成長するにつれ彼の世界はどんどん広がって、それでいいと思う。それがいいと思う。
思うのに、彼を独占したい自分を知っている。
矛盾なんてわかりきっていて、元からきらいな自分をどんどんきらいになる。
こんなことではダメだと思うのに、どうすればいいのかわからない。

◇◆◇◆◇◆

落ち込む気分に従って、ますますクッションに埋まっていったレイミの頭に、不意に何かが触れた。
「……?」
のろのろと顔を上げて、そのままレイミはこおりつく。
ぽふぽふ、なでるというよりは軽く叩くようにレイミの頭に触れていた手の主は件のエッジで、疑問と、その解決の糸口がみつからない困惑と、同時になぜだか笑顔と、そんなものを絶妙にブレンドしたなんともいえない表情を浮かべている。
「え、エッジ……?」
「うん」
ぽふぽふ、再び不器用にエッジがレイミに触れて、
「……なんかレイミが変だったから」
「へ、へん、って……変ってなによ」
「うまくいえないけど。最近しょっちゅう暗い顔してるだろ。僕に何かいいたいみたいな顔して、なのに呑みこんで、なんだか無理やりの笑顔浮かべて」
――どうしたらいいのかわからなくて待ってたけど、ずっとそのままだからさ。
――どうしたらいいか、ずっとずっと考えてたんだぞ。

そして頭にあった手がレイミの頬に移動したと思ったら、むにっとつままれた。遠慮のないそれに思わずエッジを振り払えば、あはは、とエッジが声を上げて笑う。
「怒りたいなら怒ればいいんだよ。レイミはことあるごとに全部自分の中にためこんで、そんなんじゃ疲れるだけだろ」
――だって、このもやもやはエッジにぶつけるわけにいかないから。
反論で浮かんだ言葉を、エッジの言葉を無視して呑みこんだ。つん、とそっぽを向く。
「単純明快なエッジにわかってたまるもんですか」
「あ、なんだよそれ。失礼だな」
「乙女ごころをエッジがわかるっていうの?」
「いや、そういわれると自信ないけど」
抱えたままのクッションにあごを埋めて、だけど、ともごもごうめくエッジに、
「――でも、心配してくれてありがとう」

ずっとこわばっていた顔は、果たしてちゃんと笑ってくれただろうか。
――あのひとと、何を話していたの。
醜い嫉妬心は、エッジに伝わらずにすんだだろうか。

――エッジ、ねえ。

この、こころは。

――わたしはあなたが、すき。

エッジに伝わってほしいけれど、エッジにだけは知られたくない。

―― End ――
2009/07/06UP
沁々三十題_so4CP混合_
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
自覚する前に狂いそうだった
[最終修正 - 2024/06/17-13:29]